14話 迷走の適職診断
病欠から復帰して数日。
俺は休日の午後、慣れないスーツに身を包んで駅前のビルを訪れていた。
「転職エージェント」の面談を予約したのだ。
「……なるほど。四波さんの経歴を拝見するに、やはりサービス業全般への適性が非常に高いとお見受けします。いかがですか?」
若くて清潔感のあるエージェントの男が、タブレットを滑らせながら微笑む。
「接客は……もういいです。お腹いっぱいというか」
俺が即座に否定すると、男は「そうですか」と苦笑いして次のページをめくった。
「では、その高い対人スキルを活かして、営業職はどうでしょう?
顧客の懐に入り込む力さえあれば、インセンティブで年収アップも狙えます」
「営業、ですか……」
客の「ぷんぷんゲージ」を先回りして消していく自分を想像する。
確かに成果は出せるだろう。
だが、今よりも相手の感情に左右される仕事じゃないのか。
「……自分に向いてるか…。」
「では、ガラリと変えてIT系。
人との接触が少ないSEはどうでしょう。
こちらなら未経験の研修制度も整っていますが」
「パソコンは……ちょっと。専門的なのは自信ないです」
沈黙が流れる。
俺は思わず、心の中に溜まっていた言葉を口にした。
「……自分、相手の『感情の機微』には人一倍反応できる自信があるんです。
そういう、数値化できない部分を扱う仕事って、他にないですかね?」
「感情、ですか……。
そうなると、ウェディングプランナーやカウンセラーなどでしょうか。
人の人生に深く寄り添う覚悟が必要になりますが」
プランナー……カウンセラー……。
どれを想像しても、結局は「人と深く関わる」ことから逃れられない。
むしろ、今よりもっと相手の感情に触れることになる。
(……結局、俺にできそうなのは、人と関わることだけなのか)
頭を抱えて「うーん」と唸っていると、視界に赤いゲージ。
エージェントのゲージがみるみる上がっていく。
(あ……。こいつ、俺が煮え切らないからイラついてるな……)
「……すみません、今日はやっぱり帰ります」
「えっ、四波さん? まだ紹介できる求人が――」
俺は逃げるようにその場を後にした。
転職すれば、能力を使わない、能力が活かせる仕事があるんじゃないかと思った。
だが、現実はどこに行っても能力のことで頭を悩ませそうだ。
駅へと向かう道すがら、俺はネクタイを緩めた。
(……あんな営業スマイルの裏側まで見えちゃうんじゃ、どこ行っても同じか)
その時、あんなに嫌だと思っていた
「サンライズ下町店」の、あの雑多さがほんの少しだけマシに思えてきた。
「……もうちょっとだけ、続けるか」
俺はコンビニで第三のビールを買い、スーツ姿のまま路上で缶を開けた。




