12話 怒りの覚醒
翌朝、事務所には重苦しい沈黙が流れていた。
全員、表情は硬い。
昨晩流れた「産地偽装」のニュースは、瞬く間に世間を駆け巡っていた。
今回うちで売ったプリン自体は対象外だったが、メーカーの名前が出た以上、混乱は免れない。
「……いい、みんな。誠心誠意、謝るしかないわ。……行くわよ」
店長の号令で、全員が持ち場につく。
店の前には、開店三十分前から大勢の人が押し寄せていた。
「金返せ!」
「偽物を売るのか!」
意を決して店長が自動扉の鍵を開けた瞬間、雪崩のように人がなだれ込んできた。
「お客様、落ち着いてください! 順次ご説明を――」
店長の声は、怒号にかき消された。
100人以上の「ぷんぷんゲージ」がマックスになり、視界が真っ赤に染まる。
「うるせえ! 毒を食わせたのか!」
「誠意を見せろ!」
もみくちゃにされ、怒鳴られ、夏夫も必死に叫んだ。
「落ち着いてください! お願いします!」
だが、その声は届かない。
人の波に圧迫され、声も出せなくなっていた。
夏夫が一瞬無になった時、誰かが夏夫の背中を、乱暴にドンと突き飛ばした。
その瞬間、頭の中で「プツン」と何かが弾けた。
「……うるせーよ」
自分でも驚くほど冷たく、鋭い声が喉から出た。
「とりあえず、静かにしろぉおおおおお!!」
腹の底から絞り出した叫びと共に、夏夫を中心に凄まじい「白い光」が爆発した。
光は波紋のように広がり、荒れ狂っていた客たちを包み込んでいく。
「……え?」
「俺、……なんで怒ってたんだっけ?」
嘘のように怒号が止んだ。
ゲージが、みるみる消え、全員が呆然と立ち尽くしている。
「……今よ! お客様、返品・返金の対応をいたします。あちらの特設カウンターへ、一列に並んでください!」
いち早く我に返った店長の指示に、客たちはまるで催眠術にでもかかったように、素直に列を作り始めた。
その様子を見届けた瞬間、夏夫の膝から力が抜け、視界がぐにゃりと歪む。
「夏夫! 大丈夫か!?」
駆け寄る小林の声を遠くに聞きながら、夏夫の意識は深い闇に落ちていった。
次に目が覚めたとき、そこは事務所の硬いソファーの上だった。
「……っ、痛」
身体を起こそうとしたが、鉛のように重くて動かない。
(……さっきの、あれはなんだ)
自分の力が、人の感情を無理やり書き換えてしまった。
「……怖いな」
自分の右手をじっと見つめ、夏夫は震える。
身体の芯に残る激しい倦怠感に抗えず、彼は再び深い眠りへと沈んでいった。




