11話 本部の押し付け
「ちょっとなんなのよ! この大量のプリンはぁーッ!」
開店前のバックヤードに、店長の絶叫が響き渡った。
納品口に積み上げられた段ボールの山。
中身はすべて、地元で人気の「下町プリン」だ。
「……本部…。50…、500…!?」
副店長がハンカチで滝のような汗を拭いながら、タブレットを覗き込む。
「しかもこれ、賞味期限が三日しかないじゃない! どうすんのよこれ!」
店長のぷんぷんゲージは朝からレッドゾーン。
「全員、今日は死ぬ気で売るわよ! 廃棄なんて出したら、本部に顔向けできないわ!」
開店と同時に、俺は特設コーナーの前に立たされた。
「いらっしゃいませー! 本日、下町プリンがお買い得です!」
声を張り上げるが、客足は鈍い。
一個300円もするプリンだ。そう簡単にはカゴに入らない。
喉が枯れ、足が棒のようになりかけたその時。
(……ん?)
視界の端で、ほんの一瞬だけ、淡く「光る人」が見えた。
今まで見てきた「センサー」の強い光じゃない。
まるで「迷っている」かのような微かな光。
その光を放っているのは、棚の前で足を止めた主婦だった。
「……あの、それ、今日入ったばかりで本当においしいですよ。自分も食べましたけど、後悔しない味です」
俺が声をかけると、彼女は
「……じゃあ、二個頂こうかしら」と手を伸ばした。
すると、また別の場所で小さな光が灯る。
(あそこか……!)
俺は確信した。
あの光は「背中を一押ししてほしい」という客の心の揺らぎだ。
俺は光を追いかけ、ピンポイントで声をかけまくった。
「今日のおやつ、決まってますか?」
「頑張った自分へのご褒美にどうです?」
面白いようにプリンが売れていく。
夜、閉店間際。
山積みだった箱はほとんど空になったが、あと十個ほどがどうしても残った。
「……もういいわよ。みんな、よくやったわ」
店長がそう言って、
「ほら、食べなさい。今日は残業よ」
レジを通した。
事務所のパイプ椅子に座り、店員みんなでプリンを食べる。
「……おいしいですね」
「甘いわね……」
トラブルを乗り越えた後の甘みは、心に染みた。
だが、その時。
事務所の隅で流れていたテレビから不穏なニュースが流れた。
『――続いてのニュースです。本日、大手乳製品メーカーが、一部商品の産地を偽装していた疑いがあるとして……』




