第10話 迷惑な酔っ払い
閉店まであと十分。 静寂が売場を包み始めた頃、それは響き渡った。
「おい! さっさと酒出せっつってんだろ!」
怒鳴り声と、視界に強烈な光。
見ると、レジで田中さんが真っ赤な顔をした酔っ払いに絡まれていた。田中さんは今にも泣き出しそうで、センサーの光は「助けて」と悲鳴を上げている。
「お客様、困ります。もう閉店のお時間でして……」
「うるせえ! 客は神様だろうが! 神様の言うことが聞けねえのか!」
なだめようとする俺を突き飛ばし、男がさらに声を荒らげたその時。
バックヤードの扉が勢いよく開き、店長が姿を現した。
「お客様。本日はだいぶお酔いの様子。今日のところはお引き取り願えますか?」
低く、押し殺した声。だが、酔っ払いは止まらない。
「あぁ!? なんだその態度は! 黙って酒持ってこい、このハゲ!」
言いやがった。
店長の頭頂部が、照明を反射して輝く。
店長の「ぷんぷんゲージ」が、見たこともないスピードで上昇した。店長が、怒りでプルプルと震えている。怒りを抑えながら静かに告げる。
「……お引き取りください。二度と、来なくて結構です。」
「言われなくてもこんな店、二度と来るか!」 男は吐き捨てるように言い、フラフラと出口へ向かった。
店長は天を仰ぎ、
「……今日はとことん飲むわよ! 四波! 小林!」
と絶叫した。
ブツブツと悪態をつきながら、自動扉を抜けようとする酔っ払い。 その行く手に、いつの間にか神子が立っていた。
「お客様は神様です」
鈴を転がすような、だが氷のように冷たい声。
「ああ? お前も何か文句あんのか?」
「いいえ。ですが――自分を神と思い上がる者は、お客様ではありません」
神子が指先で空を切った瞬間、酔っ払いの周囲が深い暗闇に包まれた。
気づけば、男は毒気を抜かれた顔で、店の外にポツンと立っていた。
「またのお越しをお待ちしております。」
自動扉が閉まりながら、神子が深く頭を下げた。
その後、俺たちは駅前の居酒屋にいた。
「なによ……ハゲってなによ……! 事実だけど、事実は人を傷つけるのよ!」
ジョッキを煽り、ひたすら愚痴をこぼす店長。
「はいはい、店長飲みすぎ。四波、もっと注いであげて」
同期の小林が呆れ顔で枝豆を口に放り込む。
酔い潰れた店長を介抱し、小林の家庭の悩みを聞かされる。
人と関わるのは、やっぱりめんどくさい。
けれど、黄金色のグラス越しに笑い合う二人を見て、俺は思った。
(……まぁ、こういうのも、悪くない)
酔い潰れてる店長の頭を軽くペチンと叩いた。




