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異世界召喚された少女が魔法使いになって元の世界に帰るまで  作者: 高ノ原 麻矢


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五章 王都到着

 今日も馬車は進む。竜の巣からもう十日以上がたっていた。

 ここ数日は、街と街の間に原っぱのような手つかずの土地はなく、一面の畑になっていた。

 真昼の太陽にてらされて、青々と風にゆれる様子は、とてもすがすがしかった。

 ところどころには、きっと農作業で使うのだろう、小ぢんまりとした小屋が建っている。


 まどから外をながめていると、はるか向こうに、今までになく大きなかべがぐるっと街をかこっているのが見えた。そしてそのど真ん中、今走っている道の先に門がある。

 その門は、近づくごとに大きくりっぱになっていった。

 いよいよ目の前までくると、細かい所まで立体的に作りこまれた花や鳥のかざりがついているのが見える。

 街の入口の前でラッカーさんが手続きをして、いよいよそのごうかな門をくぐる。ついに王都だ。

 馬車はそのまま街中を走り、大きなレンガ造りの建物の前で止まった。

 わたしたちが馬車をおりると、入口の前にいた軍人さんたちが敬礼をする。

「ドルデント大佐、クロレル少佐、おつかれ様です」

 そして、軍人さんたちは、ラッカーさんたちの荷物をおろして運ぶ人と、御者台に乗って馬車をかたづけに行く人とに分かれ、むだなくてきぱきと動く。

 わたしたちは、ラッカーさんの後について建物の中に入り、おくへおくへと進んで行く。

 階段を三階分上がり、じゅうたんがしかれたろうかに出る。点々とならぶとびらの一つを、ラッカーさんはむぞうさに開けて、中に入って行く。

 中に入ると、手前にローテーブルをかこうように四つのソファ。おくには大きく重々しいつくえがあり、つくえのまど側に布ばりのいすがある。

「ここは俺の部屋だ。この後、わがエルレシア王国、王女ファルティア様に拝謁をたまわる。そのために、服やら何やら準備をする。まあ、めんどくさいが、そういうルールだ」

 ラッカーさんは気だるげにソファにすわった。

 リンディさんは、なれた手つきで、部屋のかたすみにある細身のクローゼットから、いつもよりもかざりが多いきれいな軍服を出してきた。ラッカーさんのとなりにていねいにそれをおく。

「ひげもわすれずにそってくださいね」

「はいはい。それより、さっさとこいつらのしたくをしてやれ」

 ラッカーさんは、めんどくさそうにリンディさんに手をふり、リンディさんはため息をつく。

「さあ、二人とも水あびをして、着がえましょう。リィヤは大佐に連れて行ってもらってください」

 リンディさんは、ローテーブルの上におかれていた着がえと思われる服をひとかたまりとって、わたしにわたす。

 そして、わたしを下の階へとつれて行った。

 わたしたちはいったんリンディさんの部屋に行き、リンディさんの着がえをとってから、ふろ場のような部屋に入った。手前の方にはたなもある。

「ここにぬいだ服を入れてください」

 リンディさんはそう言ったと思うと、着がえをたなに入れて、おもむろに服をぬぎ始める。

 何のはじらいもなく手ぎわよくぬいで、ぬいだ服をさっさとたたむ。

 わたしもあわてて、服をぬいでたなに入れた。わたしはというと、なんだかちょっぴりはずかしい気がした。

 その部屋のど真ん中には大きな湯船のようなものがあったけど、ここには入らないらしい。

 リンディさんにわたされたせんめんきのような入れ物で、そこから水をくんで手足にかけてみる。思ったよりつめたい。

 わたしはふるえながら、ちょっとずつ体に水をかけ、手ぬぐいのような布をぬらしてせっけんをつけて体をあらう。そして、もう一度水をかけて体をすすぐ。

 頭は、リンディさんがあらうのを手伝ってくれた。

 手ぬぐいのような布をゆすいでしっかりとしぼって、頭や体をふく。それからラッカーさんの部屋から持ってきてもらった新しい服を着る。とてもさっぱりとして気持ちよかった。

 新しい服はシンプルな白いブラウスにハイウエストの黒いスカート、黒いローブ。

 リンディさんが、そのスカートのこしについたあみ上げのひもで、ウエストのちょうせつをしてくれた。着てみると、小さな魔女になった感じ。かわいいかも。

 リンディさんも新しい軍服に着がえた。かざりひもや、もようがほりこまれたボタン、きれいなふちどりでかざられていて、はなやかでかっこいい。


 ラッカーさんの部屋にもどると、二人もすでに着がえを終えていてソファでくつろいでいた。

 ラッカーさんの軍服は、リンディさん以上にごうかで存在感があった。

 ラッカーさんってえらい人なんだなぁと、あらためて思った。ラッカーさんがだまってうでを組んですわっていると、はくりょくがあってかっこいい。

 リィヤは、シンプルな白いシャツに黒いひざたけのズボン、黒いローブ。わたしと同じように小さな魔法使いといった感じだ。

 ラッカーさんはむくりと体を起こして立ち上がる。

「さて、ちょうどいい頃合いだ。そろそろ行かないとな」


 王女様と会う部屋のことを「謁見の間」というらしい。

 その部屋は大きくて、かべや柱にごうかなかざりがたくさんあった。

 かなりおくゆきがあり、学校のろうかとどちらが長いかなと思う。

 ラッカーさんたちの後についておくまで行くと、正面にかいだんがあって、その上はぶたいのように広くなっていた。

 真ん中には大きくてはなやかないすがある。でも、だれもすわっていない。

 かいだんの手前でかたひざをついて礼をするラッカーさんたちのまねをして、わたしたちもあわててかたひざをつき、礼をして頭を下げた。

 その場の音がきえると、かいだんわきにいる人が高らかにつげる。

「女王陛下ファルティア・C・ミストラーク様、御出座」

 かいだんの上の方で、だれかが歩いてきていすにすわる気配がする。

「面を上げよ」

 やさしくもありながら、りんとひびく声が聞こえる。

 ゆるされた通り顔を上げて見上げると、目の前にはいげんにみちた王女様のすがたがあった。

 なんて美しいのだろう。ゆるくなみうつ青みがかった銀色のかみ、すきとおるように白い肌、深い青の瞳。頭の上には、青や緑の宝石がはめ込まれた金色のティアラがかがやいている。青むらさき色のドレスは、布をぜいたくに使ってフリルとドレープでかざられている。

「ドルレント大佐、クロレル少佐、此度はご苦労であった。明日は一日ゆっくりと休むが良かろう」

「ありがたきお言葉、いたみ入ります」

 ラッカーさんが答え、リンディさんもいっしょに礼をする。

 王女様は、自分のことをまじまじとながめていたわたしたちを、面白そうに見やる。

 目が合って、わたしはどきっとむねがはねた。

「そなたが、大魔法使いレミルシルラ様の弟子で、異世界から召喚されたというサイジョウ・マナカか」

「は……はいっ!」

 とつぜん話しかけられてびっくりして、声が上ずってしまった。はずかしい。

 王女様みたいなすごい人に自分の名前を呼ばれてどきどきした。

 王女様はわたしの様子を見て、ほほ笑ましそうに目を細めた。

「王城の書庫で、元の世界に帰る方法を調べたいとのことだったな。レミルシルラ様から知らせを受けたあと、すぐに王城書庫管理官を総動員して探させている。現在、書庫の半分くらいはさがしたようだが、残念ながらまだ見つかってはいないそうだ。王城内に部屋を用意したので、そこで待つと良い。書庫に行きたいなら許可を出そう。もしくは、来たる日の為に魔法学院の授業を受けて魔法の技術を高めるのもいいだろう。どうだ?」

「はい!両方おねがいしたいです!!わたしのためにこんなにたくさん、ありがとうございます」

「わかった。早く見つかるといいな」

 王女様がふっとほほ笑んだ。見ているとなぜか、どんなことでもなんとかなりそうな気がする、そんなたのもしい笑みだった。

 そして、王女様の視線がリィヤにうつる。

「さて、そなたは自らの力で魔力が開花したというリィヤ・N・リュームだな」

「はい!」

 リィヤは、きんちょうした顔で答えた。王女様はつぶさにリィヤをかんさつする。

「そなたは、国立魔法学院の寮に入り、魔法について学ぶと良い。せっかくの力だ。その力で多くの人を救い、幸せにできるようになることを願っている」

 リィヤはふかく息をすいこんで、まっすぐに王女様を見上げた。

「はい。ありがとうございます」

 リィヤの表情は、あらためて心を決めたのが伝わってくる、しんけんなものだった。

 王女様は、リィヤの表情を見て、満足そうにうなずいた。そして、四人の顔を見わたす。

「長旅ご苦労であった。しっかりと体を休ませるのだぞ」

 わたしたちは、ラッカーさんに合わせていっせいに礼をして頭を下げる。かいだんの上から、王女様がさっていくわずかな音がした。

 音が止んでしばらくすると、ラッカーさんが顔を上げた。

 それにつられて、わたしたちも顔を上げる。かいだんの上には、もうだれもいなかった。


 謁見の間を出ると、となりのひかえ室に通された。そ

 こには、知らない人が二人待っていた。

 一人は、こん色のロングワンピースを着たお姉さん。長いかみを一本の三つあみにまとめている。わたしのすがたを見つけると、お姉さんはむねに手を当て、一礼した。

「マナカ様、わたしは、こちらであなたのお世話をさせていただく女王秘書室第一課、サティア・W・ガーベルと申します。サティアとおよびください。あなたのお力になれるようつとめさせていただきますので、なんなりとお申しつけください」

「は……はい!よろしくおねがいします!!」

 様づけで呼ばれて、えらい人に言うみたいにとてもていねいな言葉をかけてもらって、わたしはどぎまぎした。ただの小学生のわたしなのに、何だか申しわけない。

 もう一人は、ラッカーさんたちとはまたちがった制服を着て、黒いローブをはおっている背の高いお兄さん。めがねのおくの水色の瞳がリィヤをとらえて笑む。

「きみが、リィヤくんだね。ぼくは国立魔法学院あかつき寮の管理人、トマスと申します。あなたをこれからあかつき寮に案内します」

「はい!よろしくおねがいします」

 リィヤはおそれいりながら頭を下げた。

 一呼吸の間をおいてラッカーさんが明るく笑みをうかべる。

「じゃあ、ここで解散だな。二人とも、うまくいくといいな。がんばれよ」

 そして、おもむろに両手でわたしとリィヤの頭をごうかいになでる。リンディさんは、ラッカーさんに「全くこの人は……」と言いたそうなため息をついた。それから、気分を切りかえて私たちに向き直り、あたたかくほほ笑む。

「私もあなたたちの未来が明るいことを願っています」

「ありがとうございます」

 わたしもせいいっぱいの笑顔でかえす。リィヤはラッカーさんたちに向けてしせいを正した。

「ドルデント大佐、クロレル少佐、ここまで連れてきていただき、ありがとうございました。この旅のことは、一生わすれません」

 あわててわたしもしせいを正して後に続く。

「ラッカーさん、リンディさん、本当にありがとうございました。自分の世界に帰る方法を、きっと見つけます!」

「おお、その意気だ」

ラッカーさんは、ニカッと笑った。でも、わたしは切ない気持ちになった。だって、この一か月いつもいっしょだったラッカーさんたちが、これからはもうそばにいない。

「ねえ、また会える?」

 わたしの問いかけにラッカーさんは一度目を丸くして、声を立てて笑った。そして、わたしの両わきを持って高く持ち上げる。

「うれしい事言ってくれるじゃないか。ああ、またきっと会えるさ」

 わたしを見上げながら、ラッカーさんは自信満々にそう言った。

「リィヤもな」

 わたしを下ろしながら、ラッカーさんはリィヤにも笑顔を向ける。

「はい」

 リィヤがくちびるを引きむすんで視線を下げているのを見て、わたしもちょっと目がうるんだ。でもがまんする。

 話がひとだんらくしたのを見はからって、サティアさんが一歩前に進み出た。

「それでは、行きましょうか。おつかれでしょう。お部屋にご案内します」

「はい。よろしくおねがいします」

 わたしはサティアさんに手を引かれて歩き出す。部屋を出る直前で、たまらずふりかえった。

「ラッカーさん、リンディさん、リィヤ、ぜったいまた会おうね!」

「ああ。楽しみにしている」

 三人が手をふってくれたのを見て、ほっとしてわたしはふたたび前を向いた。


 案内してもらった部屋は、とてもごうかだった。

 まず、とても広い。私の教室くらいあって、大きなソファやテーブルなどが置いてある。

 その横にさらに部屋が続いていて、そちらにはクローゼットやドレッサー、大きなてんがいつきベッドなどがおかれていて、まるでお姫様の部屋みたいになっている。

「お疲れでしょう。一休みなさってください」

 サティアさんにすすめられて、かんたんな食事をとり、ベッドに横になる。今まで味わったことのない、やさしくつつみこまれるようなねごこちに、わたしはあっという間にねむりの世界へとおちていった。


 次の朝、ふっかふかのベッドでぐっすりねむった満足感とともにわたしは目覚めた。

 サティアさんに朝のしたくを手伝ってもらい、朝食を食べる。

「サティアさん、今日は王城の書庫に行ってみたいです」

 サティアさんは、食後のお茶をいれる手を止めてうなずいた。

「わかりました。この後ご案内します」


 書庫は、王城の地下にあった。私の住んでる市の中央図書館よりもずっと広い。おくのかべが見えない。しかもそれが地下二階分あるらしい。

 この中からさがすのかと、わたしはあっとうされた。

 あちらこちらで、深緑色の制服を着た人たちがすごい速さで本の中身をかくにんしている。

 わたしのためにありがとうございますという気持ちと、わたしのためにすみませんという気持ちがまざってふくざつな気分だった。

 何か自分でもできることをしたいと思う。わたしはゆうきを出して、近くにいたお兄さんに声をかけた。

「すみません。わたしは西条真菜香と申します。わたしが元の世界にもどる方法をさがしてくださって、ありがとうございます。何かわたしにできることはありませんか」

 わたしは、心からのありがとうの気持ちをこめて頭を下げた。そのお兄さんは少しおどろいた後、手を止めてほがらかな笑みをうかべる。

「ああ、あなたが大魔法使いレミルシルラ様のお弟子さんですね。レミルシルラ様へのご恩を返させていただく機会を与えていただきありがとうございます。異世界に帰る魔法を探すのは、私たちにおまかせください。できるだけ早く探してみせます!」

「でも……」

「大丈夫ですよ。私たちは速読の訓練を受けているので、短い時間で一冊を読み切れます。異世界に関係がありそうな文章がのっている本は、後でお部屋までお持ちしますので、お気になさらずに」

 お兄さんは笑顔のままそう言うと、作業にもどっていった。

ことわられてしまった。たしかにわたしでは、ここの人たちみたいに、ページをめくる速さに合わせて本を読んでいくなんてぜんぜん出来そうにない。本をかくにんするプロの中にしろうとのわたしがまじったら、かえってこまってしまうのかもしれない。

 わたしはしょんぼりしながら、部屋にもどることにした。

 歩きながら、サティアさんがやさしくせなかをなでてなぐさめてくれた。


 部屋にもどると、紙のたばが一つとどいていた。

「『国立魔法学院 教育課程 履修案内』?」

 声に出してみたけど、むずかしくて、意味がふんいきしかわからない。「教育課程」は、きっと勉強するってことかな。

「サティアさん、『履修』って何ですか?」

「あらためて聞かれるとむずかしいですね。うーん……。決められた授業を受けて、テストを受けて合格する流れ……って感じでしょうか」

「ありがとうございます」

 なるほど。魔法学院で授業を受ける方法とかがのっているのか。紙のたばを一まいめくると、字がびっしり書いてあってくらっとした。翻訳魔法のおかげで読めはするので、とりあえず読んでみるものの、むずかしい言葉があってあまり意味が分からない。

「サティアさん……」

 わたしは、サティアさんを見上げて、助けをもとめた。


 サティアさんにせつめいをしてもらって、やっと魔法学院のシステムがなんとなくわかった。

 学院の中では、いろんな場所でいろんな授業が行われている。

 そこでは、小学校とちがって、学院生が自分でいつ、どの授業を受けるかえらんで、自分で時間割を組む。

 受けた授業の期間で最後にテストを受けて、合格すると「単位」という合格した資格?がもらえて、さらに上の授業が受けられるようになるらしい。

 じゃあ、わたしはとりあえず、初級ってやつを全部受ければいいのかな?

 そんなことを思いながら、とりあえず授業一覧の表の「初級」がつくものに丸をつけていく。

 それを見ていたサティアさんは、ふとつぶやく。

「あれ?マナカ様は、だいぶん魔法が使えますよね。お二人でスライムゴーレムをたおしたとか。たぶん、これとこれはもうできるはずではないでしょうか」

「そうなんですか?」

「はい。わたしは魔法学院で、五段階までしか進めませんでしたが、初級は本当に基礎の基礎でした。スライムゴーレムをたおせるとなると、三段階相当ではないでしょうか」

 サティアさんにそう言われたものの、自分のでき具合なんてわからないので、何とも言えない。

 わたしが頭をかかえている横で、サティアさんも何か考えている。部屋がしんとしずまりかえる。


 パンッ


 とつぜん、サティアさんが手を打ち合わせた。

「そうです!これはもう、直接魔法学院に決めてもらいましょう」

 わたしは、おどろいてきょとんとしてしまった。

「そう、それがいいです。さっそく交渉してきますね!」

 サティアさんは、わたしがしつもんする間もなく、あっという間に部屋を出て行ってしまった。

 なんだかわからないけど、何かいい方法が思いついて何とかしてくれるみたいだ。わたしはサティアさんが去っていった方に頭を下げて、心の中でお礼を言った。

 そして、手持ちぶさたになったわたしは、魔力の流れを感じる基礎トレーニングを始めた。

 ドレリアの家ではもちろん、旅の間も馬車でリィヤといっしょに基礎トレーニングをしていて、わたしの中ではもう毎日の習慣になっていた。


 お昼過ぎ、帰ってきたサティアさんは、満足そうな笑みをうかべていた。

 交渉の成果があって、魔法学院でとくべつにわたしの能力をはかるテストをしてくれることになったらしい。テストは三日後。ちょっとどきどきする。

 わたしは、ドレリアの家で勉強してた時のノートでふくしゅうしようかなと思って、荷物を開ける。


 コンコン


 不意にノックの音がした。サティアさんが出ると、深緑色の制服を着たおじさんが立っていた。

 そのとなりにももう一人、体のがっちりとした男の人が、何冊もの本をかかえている。

 おじさんたちはサティアさんと少し話し、部屋の中にまねき入れられた。

 そして、テーブルの上に本をそっとおろす。

 わたしは、本の方にかけよった。

 おじさんが、わたしのほうに体を向け、むねに手を当て、一礼する。

「お待たせいたしました。現時点で見つかっている資料です。該当箇所にしおりをはさんでおりますのでごらんください」

「ありがとうございます!」

 わたしは、早く読みたくてうずうずした。

 おじさんはわたしの表情にそれが出ているのを見て取って、申しわけなさそうにつけくわえた。

「残念ながら、まだ元の世界に帰ることができる魔法そのものは見つかっていません。こちらは、関係がありそうな記述のみとなります」

「あ……。そうなんですか」

 わたしの気持ちは少ししぼんだけれど、集められた本の中身が気になることはかわらなかった。

 二人は、資料が見つかれば、またその都度とどけてくれることを約束して、帰っていった。

 わたしは、待ちかねたとばかりに、本を開いてしおりのページの前後を読む。

 本には、異世界から召喚された人の記録、元の世界に帰る方法について考えた人の記録などがのっていた。でも、むずかしい上に情報量が多い。

 わたしは、サティアさんにわからない所を聞きながら、ノートに整理していく事にした。 


 

 それから、わたしは時間をおしんで、本の内容を理解しながらノートをとった。

 サティアさんに用意してもらった新しいノートは、もう十ページ以上うまっていた。

 でも、今日はそれも一休み。魔法学院のテストの日だ。

 ちょっぴりきんちょうしながら、サティアさんといっしょに魔法学院に足をふみ入れる。

 門を入ると、はば広い石だたみがまっすぐのび、白いかべのお城のような建物に行きつく。

 建物に入ると、左右にのびるろうかにはまどがあった。

 近よってのぞいてみると、まどの向こうがわには広い中庭があって、その四方を建物がかこっている。

 サティアさんが受付のまど口に声をかけると、少しして、えんじ色のローブをはおったお兄さんがやってきた。

 お兄さんは、わたしのすがたを見つけると、オレンジ色の瞳を面白そうにひらめかせた。

 それは一瞬のことで、すぐに真顔にもどり、むねに手を当ててわたしたちに一礼する。

「本日、サイジョウマナカ様のテストのご案内をさせていただく、魔法陣研究学科教授のユーレリア・G・ノストームと申します。よろしくお願いいたします」

 またすごそうな人に敬意をはらわれて、わたしはとまどった。「大魔法使いレミルシルラ様の弟子」というかたがきの力がすごすぎて、いつもとまどう。

 それと同時に、ドレリアがこんなにたくさんの人たちに大切にそんけいされていて、たったの三か月くらいでも、その弟子になれたことはすごいことだったんだなと思う。

「こ……こちらこそ、よろしくおねがいします」

 ドレリアの弟子としてはずかしくないように、全力をつくそう。あらためてそう思った。

 テストは学校でするような紙に書くテストや、じっさいに魔法を使ってみるテストなどいろいろあって、丸一日かかった。

 ちんぷんかんぷんなものもあったけど、すらすらできるものもあって、ドレリアのおかげだなと思った。ドレリア、ありがとう。

 テストよりもおどろいたのが、案内人のノストーム教授だった。テストの合間に、すきあらばドレリアのことを聞いてくる。

「ドルデント大佐とクロレル少佐があなたをむかえに行ったってことは、二人とも、あの伝説の大魔法使いレミルシルラ様に会ったってことですよね!いいなあ!!私もお会いしたいなあ!魔法陣構築理論について三日三晩語り明かしたいものです。二人が無事にお会いできたってことはレミルシルラ様の森に入っても大丈夫な方法があるってことですよね。お二人にその方法を教えてもらって、なんとかしてレミルシルラ様にお目通りさせていただく約束を取りつけられれば……。マナカ様、どう思います?会っていただけるでしょうか?」

 わたしは、ノストーム教授のねつのこもったすごい早口に目が回りそうだった。

「えっと……。たぶん、だいじょうぶじゃないでしょうか」

 ドレリアは、わたしを召喚した理由をさみしかったからだと言っていたから、こんな人がやってきたらきっと楽しくなるんじゃないかなぁ。

 別れぎわに、ノストーム教授は満面の笑みをうかべてわたしの手を両手でしっかりとにぎった。

「学院に入ったら、ぜひお茶しましょう。いつでも訪ねてきてください。いえ、むしろ私からさそいにいきます!」

 なんだか、すごい人に目をつけられてしまった気がする。

 学院の後期は一週間後に始まるらしい。それまでには、テストの結果を伝えてもらえるとのことだ。

 なにはともあれ、ちょっと楽しみ。それに、リィヤにも学院で会えるかもしれない。



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