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異世界召喚された少女が魔法使いになって元の世界に帰るまで  作者: 高ノ原 麻矢


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三章 王都への案内人と新しい友だち

 それから二か月がたった。魔法の練習もした。王城までの道のりも覚えた。荷作りもほとんどできた。

 あとは、ドレリアが王城にたのんだという案内人の到着を待つばかり。

 家にもどることに一歩近づくのがうれしくて気がはやる。

 その一方で、わたしはドレリアとはなれて何も知らない所へ旅立つのが不安でもあった。

 もちろん、さみしいという気持ちもある。

 その日、わたしはいつも通り魔法の基礎練習を終えて、ドレリアと昼食を食べていた。

「来た」

 ドレリアは何かを感じ取ってしずかにつぶやいた。

「何が?」

 わたしがふしぎそうにたずねると、ドレリアはわたしに笑いかけた。

「喜べ。ついに王城への案内人が到着したようだ。もうしばらくでここに着く」

「案内人……」

 ついに、王城へ向かって出発する。知らない所へと一歩ふみ出す不安とちょっぴりの期待にむねがどきどきした。初めて会う、ドレリア以外のこちらの世界の人。やさしい人だといいなと思った。


 わたしは、てきぱきと昼食を終え、食後のお茶を飲む。

 三口ほど飲んだところで、とびらをノックする音がひびいた。

 この家のとびらには、ノックの音を出す金具が付いている。それは、フクロウのデザインがすてきで、わたしもためしに鳴らしてみたことがある。

 ドレリアの後に続いて、わたしも玄関へと急ぐ。

 ドレリアがとびらを開けると、おじさんとお姉さんが立っていた。

 二人とも、軍人さんの制服を着ていてさっそうと立っている。かっこいい。

 おじさんはお父さんよりも若いくらい。

 お姉さんは、小さいときに見ていたテレビの歌のお姉さんくらいかな。

 ドレリアは二人に笑顔を向ける。

「こんにちは」

 にこやかにドレリアがあいさつをする。

 それに対して、その人たちも同じくにこやかにあいさつをしている……のはわかる気がするけど、何を言っているのかわたしにはわからなかった。

 何語かわからないふしぎな言葉で話している。

 そのまま、たぶん自己紹介が始まったみたいだ。

 けれども、わたしにはさっぱり意味がわからなくて、とほうにくれているしかなかった。

 二人はドレリアとあく手をし、わたしにも手をさし出してくる。

 よく分からないけど、わたしもとまどいつつあく手をする。

 そんな様子のわたしを見て、ドレリアははっとした。

「ああ、しまった!マナカはまだ、こちらの言葉が通じないんだったね……。私が通訳しよう」

 おじさんがもう一度、右手を自分のむねに当てて礼をしながら話す。

「私はエルレシア王国中央軍大佐、ラッカー・D・ドルデントと申します。ラッカーとおよびください」

 女の人も、右手を自分のむねに当て、わたしに礼をする。

「同じく、中央軍少佐、リンディ・S・クロレルと申します。リンディとおよびください」

 今度は、ドレリアが通訳してくれたおかげで意味が分かった。

 ラッカーさん、リンディさんとよべばいいのかな。

「ラッカーさん、リンディさん、はじめまして。わたしは西条真菜香といいます。えっと、マナカとおよびください。よろしくお願いします」

 ぺこりとおじぎしながら、ドレリアが通訳してくれているのを聞く。

 顔を上げると、ラッカーさんはニカッとわらい、リンディさんもほんのりと笑みをうかべていた。

 わたしは、いい人そうだなとほっとした。


 リビングにいどうして、まず始まったのはわたしが何語を話しているかを調べることだった。

 ドレリアは、わたしと始めから言葉が通じていたわけを教えてくれた。

「わたしは、この世界で記録が残っている全ての言語をまとめた翻訳魔法を使っている。だから、マナカの言葉もわかる。でも、そうじゃないこちらの人たちには、今のままじゃ言葉が通じない。だから、マナカが自分に翻訳魔法をかけるんだが、私のようにすべての言語とはいかない。マナカは魔力をそんなにむだづかいはできない。そういうわけだから、がんばって探そう」

「日本語の翻訳魔法じゃないの?」

「ざんねんながら、ニホン語という名前が付いた翻訳魔法はないな。けれども、今こうしてマナカと私の話が通じているということは、あるのはたしかなんだ。ただ、ちがう名前で記録されているという事だろう」

 この作業は、なかなか思いがけずたいへんだった。

 言語名をドレリアがあげていき、わたしがそれっぽいと思ったものをチェックしていく。

 あるていどチェックがたまった所で、ラッカーさんとリンディさんが、交代でためしに自分自身にかけてみてくれて、私と話が通じるかたしかめる。

 いくつもの言語をためし続けて、日がかたむき始めた。

「次は、サクラ語だな。ラッカー殿、たのむ」

「わかった」

 ラッカーさんは杖をむだのない動きで素早く動かす。

 細かな空間のゆらぎが魔法陣をうかび上がらせる。それはうっすらと青みがかって光って見えた。

 これがリンディさんだとうすむらさき色になる。

 これまでは、わたしもドレリアもオレンジ色がかっていたので、そういうものだと思っていた。

 けれども、魔力というものは、人それぞれがちがった色を持っているのかもしれない。

 そんなことを思いながら見ているわたしに、ラッカーさんは話しかける。

「さあ、サクラ語はどうだ?意味がわかるか?」

 わたしは大きく目を見開いた。

「わかる!『サクラ語はどうだ?意味がわかるか?』って言った!」

「よっしゃ!ついに判明だ!!」

 ラッカーさんは、こぶしをつき上げてわたし以上に喜んでいたかと思うと、とつぜんソファーにもたれてだらんとなった。天をあおぎながら大きく息をはき出す。

「あー……よかった。見つかって。さすがにつかれたわー」

 わたしは、ラッカーさんたちにちょっと申しわけない気持ちになった。でも、見つかって本当に良かったと思う。

「ラッカーさん、リンディさん、ありがとうございました」

 わたしが頭を下げると、ラッカーさんはわたしの頭をいきおいよく、わっしゃわっしゃとなで回す。

「どういたしまして。さあ、サクラ語の翻訳魔法をかけてみな」

 わたしが笑顔でうなずいて、魔法陣をえがく気まんまんで杖を取り出したところで、ドレリアが思い出したように声を上げた。

「ちょっと待て!翻訳魔法をかける前に、私がマナカにかけている魔力のかべを外さないといけない」

「『魔力のかべ』?」

 何のことだかさっぱりわからないわたしに、ドレリアはうなずく。

「そうだ。この森は私の魔力でいっぱいになっていてこすぎるから、他の人はここにいるだけで、時間がたつと魔力酔いになる。だから、体のまわりを魔力のかべでおおって、私の魔力がとどかないようにしないといけない。それで、マナカのまわりに魔力のかべを作ってあるんだが、魔法の上に魔法はかけられないんだ」

「そうなんだ?でも、外してだいじょうぶなの?」

「ああ、さっと外して、さっと翻訳魔法をかけて、すぐに魔力のかべをかけなおせばきっと大丈夫だと思う」

 そこでわたしは「あれっ?」と思う。

「翻訳魔法の上に、魔力のかべはかけられるの?」

「ああ。翻訳魔法は頭の中にかかる。魔力のかべは体の外がわ一センチくらいにあるからかさならないので大丈夫だ」

 とりあえず大丈夫で、素早くしないといけないことがわかったので、わたしは、ドレリアにえがいてもらったお手本を見ながら何度も魔法陣をえがく練習をした。

「さあ、いくぞ」

 ドレリアがわたしに杖をふりおろす。

 、わたしに当たる寸前で、カシャーンとガラスをわるような音がひびいいて、わたしのまわりにうすいきらきらしたとうめいの細かいかけらがとびちった。

 それが光のつぶになってきえていくのを見て、ドレリアに魔力を流してもらった時の事を思い出した。

 けれども、それどころじゃないと、あわてて頭の上にできるだけ素早く魔法陣をえがく。

 魔法陣から、うっすらとオレンジがかった光がやわらかくふりそそいだ。

 その光が消えるとともに、ドレリアがわたしのまわりに魔力のかべを作る。

 わたしは無事に終わってほっとした。

「どう?リンディさん、わかる?」

 リンディさんは、うなずいて笑みをうかべた。

「ああ。ちゃんとわかります。よかったですね」

「うん!わかるって言ってるのがわかる!リンディさん、ラッカーさん、ありがとうございました」

 わたしは二人にぺこりとおじぎをする。そして、うきうきしながらドレリアの方を向いた。

「ドレリアもありがとう!」

 ドレリアもうれしそうに、私の頭をやさしくなでた。

「今日はもう遅い。出発は明日だな。お二人とも泊まっていってください」

「ああ。世話になる」

 ラッカーさんが軽く右手をあげて笑顔でそうかえすと、リンディさんはひじでラッカーさんのわきばらをつついた。

「大佐、さきほどから礼儀がくずれています」

 こっそりと注意されて、ラッカーさんは、ぎくりとして耳の後ろをかく。

「ああ、すまんすまん」

 そしてあらためて、ドレリアに向きなおり、礼をする。

「失礼いたしました。お言葉に甘えさせていただきます」

 ドレリアは、ラッカーさんがリンディさんにつっこまれているのを見て、くすくすと笑っていた。

「礼儀などはお気になさらず、気安く接してください」


 次の朝。ついに旅立ちの時が来た。

 いつもより少しにぎやかに朝ごはんを食べる。

 いつもとちがうふんいきに、いよいよ出発する実感がわいてくる。

 ドレリアとのわかれが少しずつ近づいているのだと思うとむねがつまった。

 ラッカーさんが食後のお茶を飲みほして、ドレリアとわたしにせつめいを始める。

「王城までの予定ですが、まずトリスティアに寄ります。もう一件、特待生をむかえに行く任務をしないといけないので。その後で二人を連れて竜の巣に向かい、卵をいただきます。あとは真っ直ぐ王都に向かって、遅くとも一か月後くらいには到着すると思います」

 ドレリアはうなずいて頭を下げる。

「わかりました。マナカをよろしくお願いいたします」

「エルレシア王国中央軍の名にかけて」

 ラッカーさんも礼を返し、それからわたしの方を向く。

「マナカ、もし体調が悪かったり、何か困った事や、気になることがあったら、必ずすぐに言うんだぞ。旅ってやつは、少しの油断が思いもかけない大変なことになる時もあるからな」

 しんけんな顔でラッカーさんにそう言われ、わたしは気を引きしめる。

「はい。わかりました」


 そして、ドレリアに用意してもらった旅の服に着がえ、荷物を背負い、じょうぶそうなくつをはく。

 まず、ラッカーさんとリンディさんが外に出て、わたしもそれに続く。

 わたしたち三人はふりかえる。玄関を出てドアを背にして立っているドレリアと向かい合った。

 ラッカーさんが、最初に来た時のようにむねに手を当ててドレリアにおじぎをする。

「レミルシルラ様、ありがとうございました。マナカを必ずや無事に王城まで送りとどけます」

 わたしは、聞きなれない「レミルシルラ様」を一瞬誰のことかと不思議に思った。けれどもすぐに、ドレリアのことだと思い直す。

 リンディさんも同じく、むねに手を当てておじぎをした。ドレリアも、二人におじぎをする。

「ラッカー殿、リンディ殿、遠くまで本当にありがとうございました。マナカのこと、どうぞよろしくお願いしますね」

「はい。おまかせください」

 そして、ドレリアはわたしを切なそうに見つめる。わたしも、ドレリアとわかれるのがさみしくて、じわりとなみだがにじむ。

「ドレリア……また会えるよね?」

 言葉にすると、なみだがぽろぽろとこぼれた。ドレリアはそんな私の頭をやさしくゆっくりなでる。

「ああ、きっとな。でも、帰れるチャンスがあったら気にせず帰るんだぞ」

ドレリアは、ニッと笑った。

「うん」

 わたしもつられて、小さく笑った。

「さあ、行こうか」

 ラッカーさんが、はげますように私のかたをポンポンとたたいた。

 リンディさんがしずかに一つうなずく。わたしも勇気をふりしぼって力強くうなずいた。

「ドレリア、行ってきます」

「ああ。行ってらっしゃい」

 せいいっぱいの笑顔をかわして、わたしは思い切ってドレリアに背を向け、歩き始める。数歩進んだだけで、もうドレリアが恋しくなってふりかえる。

 ドレリアはまた手をふってくれた。そうしてまた、歩き出す。

 ドレリアが見えなくなるまで、何度もふり返りながら歩いた。そして、ついにドレリアが見えなくなると、やっと心が決まった感じがした。


 しばらく歩いて、森がなくなる所まで来ると、そこには馬車がとめてあった。

 二人はここまでこれに乗ってきたのだという。

 御者台には、リンディさんをおしのけてラッカーさんがすわった。

 なんか、「上官命令だ」とか聞こえてきた気がする。

 リンディさんは大きなため息をつき、わたしに馬車の中へ入るよう、そっとせなかをおした。

「ああ、クロレル少佐、説明もよろしくな!」

 ラッカーさんは右手をあげてほがらかに言った。リンディさんはしぶい顔をしてみけんをつまんだ。

 進む方向を向いてわたしがすわり、ななめ向かいにリンディさんがすわった。

 そして、馬車はゆるやかに走り出し、速度を上げてゆく。

 まどの向こうには、空の青と草原や丘の若草色が広がっている。

「マナカ、次の目的地について説明してもいいですか?」

「はい、もちろん!」

 わたしはしせいを正してリンディさんに向きなおる。

「次の目的地は、ここから七日ほど進んだ所にあるトリスティアという街です。その中にシューベルク孤児院という所があります。そこで魔法が使える男の子が見つかったそうなので、私たちが引き取りに行きます。その子は私たちと共に王都に行った後、国立の魔法学院に通う予定です」

「男の子かぁ。どんな子なんだろうなぁ」

 ちょっぴりの不安と、新しい事を期待するわくわく感でふくざつな気持ちになった。

 リンディさんは苦笑する。

「それは会ってみないとわかりませんね」

 

 それから、馬車はとちゅうの街にたどり着くたびに軍人さんがいる建物で馬をかえて、速度をたもったまま走り続ける。

 そして、夜は街の宿に泊まって休むというのをくり返した。

 その日も、馬車の中では、リンディさんに色々と質問をしてお話を聞いたり、景色をながめたりしていた。

 けれども、けっきょくいつの間にかねむってしまったようだ。

 気がつくと、空はうっすらとオレンジ色がかってきていた。

「きれいだなぁ」

 あたたかい色合いにそまった空と丘を見ていると、なんだかなつかしい気持ちになってきた。

 初めて見るけしきなのにふしぎだ。

 夢うつつのままぼんやりとながめていると、馬車はやがて街へと入って行き、止まった。

「マナカ、おつかれ様。トリスティアに到着です」

「はい。ありがとうございます」

 わたしは、ほっとした。なんとかここまで車よいはしないですんでるけど、さすがに一日ずっとすわって馬車にゆられるのをつづけているとおしりがいたい。

 体もぜんぜん動かせていなかったので、あちこちがかたくなって動かすとごりごりする。

 早くベッドに横になりたい気持ちでいっぱいだった。

 リンディさんに連れられて馬車をおりると、目の前に建物があった。

 レンガのかべに開け放たれた木のとびら。中ではおおぜいの人がにぎやかに食べたり飲んだりしている。

 リンディさんが中に入り、あわててわたしもついていく。

 店員さんが笑顔でわたしたちを案内し、おくの席に二人でこしを下ろした。

「あれ?ラッカーさんは?」

「ああ、馬車をとめに行きました。まったくあの人は……」

 リンディさんは、またみけんをおさえて長いため息をつく。

「それはさておき、今日は、ここで一泊します。つかれたでしょう。早く食べて、湯をあびて、ねましょう」

 しばらくして、運ばれてきた料理はどれもとても美味しかった。

 外がカリッ中がジュワッのウインナーに、ジャガイモとベーコンのようなものをいためた料理、甘酸っぱい具だくさんスープ。パンは、かめばかむほど味わい深い。

 まんぷくになったわたしは、うつらうつらしながら、リンディさんといっしょに二階の客室に上がる。

 湯あみを手伝ってもらって、もう限界とばかりにベッドにもぐりこんだ。

「おやすみなさぁい」

「はい。おやすみなさい」

 リンディさんの返事を聞いた時には、わたしはもうほとんど夢の世界にいた。


 明るい日ざしで目がさめる。朝だ。

 横になったままあたりを見回すと、リンディさんがすでに軍服に着がえていた。

 首の後ろでまとめたかみの毛を上に持ち上げて、後ろ頭にバレッタでとめている。

 そんなしぐさもかっこよくて、あこがれてしまう。

 わたしは、そんなことをこっそり思いながら声をかける。

「おはようございます」

「ああ、おはようございます。出かける用意をしましょうか」


 朝食でラッカーさんといっしょになり、その後、二十分ほど歩いて着いたのはシューベルク孤児院だった。

 中に声をかけると、エプロンすがたのおばさんが出てきて、中に通される。

 とちゅうで五才くらいから十二才くらいまでいろいろな年ごろの子どもたちが集まってきた。好奇心でいっぱいのまなざしだ。

 院長先生の部屋は応接間でもあるようで、手前にはソファとローテーブルがあった。

 おくにはやさしそうなおばさまが大きなつくえで書類を整えて置く所だった。

 この人がきっと院長先生だ。

「ようこそおこしくださいました。私が院長のグラデリア・F・オーガスです」

 立ち上がった院長先生は、むねに手を当てて、ふかぶかと頭を下げた。

 ラッカーさんたちも、むねに手を当てて礼をする。

「私はエルレシア王国中央軍大佐、ラッカー・D・ドルデントと申します」

「同じく、中央軍少佐、リンディ・S・クロレルと申します。リィヤ・N・リュームをむかえに来ました」

「わ……わたしは西条真菜香と申します」

 二人に続かなければと、あわててわたしもぺこりと頭を下げる。

 院長先生はやわらかな笑みをうかべた。

「どうぞよろしくお願いいたします。今、リィヤをよびに行っておりますので、おかけになってお待ちください」

 わたしたちはすわって、出されたお茶を飲む。

 さあ、二口目を飲もうかというときに、とびらがノックされた。

「院長先生、リィヤを連れてきました」

「どうぞ」

 とびらが開くと、そこには先ほど案内してくれたおばさんと、わたしより少し年上くらいの緑がかったこげ茶色のかみをした男の子がいた。

 中に案内された男の子は、わたしたちの前に立つ。おばさんがそっと男の子のせなかをおした。

「リィヤ、ごあいさつなさい」

 日に焼けた顔にきんちょうをうかべながら、男の子は礼をする。

「ぼくは、リィヤ・N・リュームと申します。この度はむかえに来てくださり、ありがとうございます」

 顔を上げたリィヤは黄緑の瞳できりりとこちらを見る。

 院長先生はわたしたちをリィヤにしょうかいし、リィヤにソファにすわるようにうながした。

 案内のおばさんは部屋を出て行く。とびらがしまってしずかになると、院長先生が話し始めた。

「ドルデント大佐、この子は報告書に上げさせていただいた通り、三か月ほど前に姉を助けようとして魔法を発動させました。相手は大やけどを負い、あとが残るほどだったようです。リィヤ、そうですね?」

「はい」

 リィヤはしせいを正してこちらを見たまま、口を引きむすんだ。

 ひざの上でにぎられたこぶしに力がこもっている。

 そんな様子のリィヤをなだめるように、ラッカーさんはほがらかな笑みをうかべた。

「大やけどを負わせるとはなかなかのものだな。力の使い方を知ればいろいろな所で活躍できるだろう。期待しているぞ。その時の様子をくわしく教えてくれ」

「はい。ぼくは一つ年上の姉さんと市場へ買い出しに出かけていました。そこでガラの悪い男たち三人にかこまれて、連れて行かれそうになったんです。抵抗したぼくたちは、なぐられたりけられたりしました。ぼくも痛かったけど、それよりも目の前で姉さんが殺されてしまったらと思うとこわくて仕方ありませんでした。ぼくは無我夢中で地面に火の魔法陣をえがき、ありったけの力を込めて魔法陣を発動しました。思った以上に大きな火がふき出て、立っていた三人を一気に巻き込みました。それで三人がたおれたすきに姉さんとにげて帰ってきました」

 リィヤは、なれたようにたんたんとその時の出来事を語った。

 ラッカーさんは首をひねる。

「ちょっと待て、その状況で魔法陣をえがいたということは、お前は自分が魔法を使えるとわかっていたのか?」

 そう聞かれて、リィヤはバツが悪そうに目をそらした。

「いえ、あの……実は、魔法使いレオンハルド様にあこがれて、本を見ながら自分で練習はしていたんです。でも、うまくいったためしはなくて。あの時はただ、レオンハルド様ならこうして助けるだろうって思って……。そうしたら、できてしまったんです。あやうく人殺しになってしまう所でした。あんなやつらはどうでもいいけど、ぼくは人殺しにはなりたくありません!」

 ラッカーさんはおどろきに目を見開いた後、苦笑する。

「そうか。ならばいっそう、王都の魔法学院へ行かなければならないな。魔法学院に行けば、魔法の使い方や力のコントロールの仕方もみっちりと教えてくれる。俺たちと行こう」

「はい」

 差し出されたラッカーさんの手を、リィヤは力強くにぎった。


 リィヤの荷物はかばん一つ分だった。

 院長先生たちや、孤児院の仲間たちに見送られ、わたしたちといっしょにリィヤは孤児院を出た。

 わかれぎわに、リィヤに女の子がだきついてないていた。リィヤより少し高い背で、緑がかったこげ茶色のかみに、黄緑色の瞳。リィヤもだき返してやさしくせなかをなでていた。そして、リィヤはこっそりとささやく。

「姉さん、ぼくは必ず姉さんをむかえに来るから。わすれないで」


 四人で宿にもどって、おそい昼食を食べ始めた。食べながらラッカーさんは、次の目的地について話し始める。

「この国で魔法を使う者は、必ず竜の卵をいただかねばならないことは知っているか?」

 わたしはうなずいた。旅立つ少し前にドレリアから聞いていた。リィヤは首をふる。

「わかった。そこから説明しよう。大昔、人と竜は契約を交わした。竜が人に魔力を与える代わりに悪用しないこと。そのために竜の子に見張らせること。だから、魔法を使う者は、必ず竜の巣に行って卵をいただく。その卵を肌身はなさず持ち、魔力を吸収させる。卵から生まれると、その竜の子は魔法使いの良きパートナーとなるが、悪しきことに魔法を使おうとするとその身を食らう」

 リィヤは初めて聞く話に、きょうみしんしんで聞いていた。

「じゃあ、もし、卵をいただかなかったらどうなるんですか?悪さし放題になりませんか?」

「そうはいかないな。竜が自らやってきて、その魔法使いをまわりごと焼き払う。それでも片がつかなければ、どこまでも追いかけて行って殺す……らしい。だから国中、魔法を使える者がいれば必ず報告するようになっている。まきぞえで街一つ消されちゃあ、かなわんからな」

 ラッカーさんはため息をつきながらこめかみを押さえる。リィヤは青ざめていた。わたしも、やっぱりおそろしいと背筋がさむくなった。

「と、まあ、そういうわけで、次は竜の巣だ」

 ラッカーさんはニカッと笑った。


 リィヤが旅の仲間にくわわって、一気に楽しい道のりになった。それまでは、無口なリンディさんと馬車の中に二人で、すぐに会話が終わっていて、正直なところちょっとたいくつだった。でも、リィヤは好奇心旺盛で、とてもおしゃべりで、話がつきることがない。

「ぼくの事情は話したが、君の事情は聞いてないぞ。公平じゃない」

「マナカの世界の学校って、こっちの世界とちがうのか?どんななんだ?」

「こう見えてぼくは、けっこうかしこいんだぞ。たまに授業をさぼって図書館に入りびたっていても、よゆうだな。え?マナカの学校には図書館がないの?一部屋だけ?つまんないな。こちらでは学校と図書館が同じ建物にあるのが当たり前だよ」

「え?マナカの世界には魔法がないの?魔物が出たらどうするの?え?魔物もいないの?なんだ。平和だなぁ。いいなぁ……」

「テレビ?スマホ?魔力が使えなくてもだれでもそんな魔法道具を使えるのか?すごい所だな。うわー行ってみたい!」

 話がひとだんらくすると、リィヤは自分のひざにひじをついて、わたしの顔をのぞきこんだ。

「マナカ、もとの世界に帰れるといいね」

 夕日が温かな色合いで世界をそめる。リィヤはやわらかく笑った。

「ぼくにできる事なら力をかすから、言ってね」

「うん。ありがとう」

 私も心からの笑みをうかべた。



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