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異世界召喚された少女が魔法使いになって元の世界に帰るまで  作者: 高ノ原 麻矢


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1/6

一 帰れない世界

 まばたきをすると、体がふわっとういた感じがした。

 そして、目の前にはとつぜん、青い空とそれをかこむ緑の木々があった。

「えっ!?」

(黒板はどこ?いすは?つくえは?四年一組の教室は?)

 ほんの一瞬前まで、わたしは算数のノートをとっていたはずなのに。

 あおむけにねころがったわたしのせなかにはやわらかなかんしょく。草のにおい。

 のぞきこんでくるわかい女の人。

(だれ?)

 その女の人はわたしと視線がぶつかった瞬間、目を見開いて息をつまらせた。

 どうしたのか聞こうとしたわたしは、はげしいめまいとはき気におそわれる。

 目の前が真っ暗になった。


 気がつくと、やっぱりわたしの顔をのぞきこんでくる女の人。青い空。

 まわりを見回すと、そこはぐるりと森にかこまれた小さな原っぱだった。

 わたしがゆっくりと体を起こすと、女の人は体を引いてへたりこむ。

 女の人の様子がへんだったけど、わたしは思い切って聞いてみた。

「ここは、どこ? あなたは、だれ?」

 女の人はうつむいて答えない。きつく目をつぶったまま、両手をにぎりこんでいる。

 答えを待ちながら、女の人をまじまじとながめる。

 波打つ長いかみは、むらさきがかった黒色。黒くて長いワンピース。

 近くに落ちた木のぼうは、いつか映画で見た魔法の杖みたいだった。

「すまない……」

 消え入りそうな声に、女の人の顔へと視線をもどせば、なきそうにうるんだ緑色の瞳と目が合った。

「どうして、あやまっているの?」

 女の人は一度言葉をつまらせてうつむき、しぼり出すような声で話し始めた。

「私は、あなたをこの世界に召喚してしまった。……あなたの世界からむりやり、こちらの世界につれてきてしまったんだ」

「わたしの……世界……?」

「そうだ。ここではないどこかに、あなたの世界はある」

 心臓がどきっとはねた。そのままどきどきと速い鼓動がむねにひびく。

 テレビアニメやまんがでそんな話を見たことはある。それが本当に起こるなんてことがあるのだろうか。一度考えてみたけど、やっぱりしんじられない。実はそういう夢なのではないだろうか。目をさませば、目の前に教室の黒板があって、きっとあわててノートのつづきをとるはめになるんだ。

 そんなことを思っているわたしに、女の人はあやまり続ける。

「すまない……。きっともう、帰れない。あなたの世界にあった、あなたの大切なものすべてと引きはなしてしまった。本当にすまない……」

 わたしは、何の実感もわかずとまどうしかなかった。

 しばらくすると、女の人は力なく立ち上がった。そして、わたしをそっと立ち上がらせ、手を引いてどこかに向かって歩き始めた。


 たどり着いたのは古びた洋館だった。レンガのかべに重そうな木のとびら。女の人に案内され、リビングのような部屋に通される。すすめられるままに、ソファにすわった。

 女の人は、私の向かいにすわり、心を決めたまなざしで話し始めた。

「わたしはドレリア・L・レミルシルラという。ドレリアとよんでくれ。あなたのお名前は?」

「わたしは、西条真菜香といいます」

「サイジョウ?マナカ?どちらでよべばいい?」

 わたしは少しなやんだ。

「真菜香、でおねがいします」

「わかった。ではマナカ、あらためて、本当にすまない。あなたをこの世界に召喚してしまった」

 まどから差しこむ夕日が、頭を下げるドレリアをオレンジ色にそめる。

「あの、ドレリアさん、さっきからあやまってくれているし、召喚って言ってるけど、わたし、何のことかさっぱりわからないんですけど……」

 わたしがすまなそうに聞くと、ドレリアは、はっとしたように顔を上げる。

「ドレリアでいい。そうか。そうだよな。わかった。じゅんをおって話そう」

 ドレリアは目をつぶって、一つ大きくしんこきゅうをした。

「わたしは、五百年ほど前、大魔法使いとして大いなる邪竜を倒し、わが国を守った。しかし、それを行うために増幅した魔力で私は不老不死になってしまった。五百年もたてば知る者は皆、死んでしまってもういない。私は、さみしかった。そして、いつの間にか取りつかれたように、召喚の儀を行った。あなたと目があって初めて、我に返って自分が何をしてしまったかに気がついた」

 ドレリアの目からは、今にもなみだがこぼれそうだった。

「私がおこなったのは、異世界からこちらに召喚する魔法。あなたは、あなたの世界からこちらの世界に移された。帰す魔法を私は知らない。あなたは、何も知らないこの世界で生きていくしかない……」

「ちょっと待って!じゃあ、お母さんは?お兄ちゃんは?家族のみんなや友だちとはもう会えないの!?」

 心臓をにぎりつぶされたようにむねが苦しくなった。大好きな人たちともう会えないことが頭の中をぐるぐるとかけめぐる。なみだがあふれた。

「そんな……。いやだ!!会いたいよ!お母さんに会いたいよぉ……」

 たまらず、声をあげてないた。悲しくて、悲しくて、なみだが止まらなかった。


 なきつかれて、顔を上げると、ドレリアも両手で顔をおおってしずかにないていた。

 あたりはすっかり日が落ちて、月明かりがぼんやりと部屋の中をてらしていた。

 一日が終わる。なのに、家に帰れない。

 そのことで、ふたたび悲しさにおそわれ、なみだがとめどなく落ちる。しゃくりあげながら、ソファにうつぶせてなき続けた。ひたすらに悲しくて、もう何も考えられなかった。


 目が覚めた。気がつくと、見なれない天井と部屋。ベッドはふかふかと心地よかったけど、ここが自分の居場所ではないことを思い出して、むねがつまった。はらはらとなみだがこぼれる。わたしは、苦しさをこらえるように、ベッドの中で小さく丸くなった。

 食欲も、あまりない。ドレリアが運んできたスープを少し飲み、あとは無気力にベッドの中でうずくまったまま、すすりないたり、ぼんやりしたりをくり返していた。


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