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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

隠した本音

作者: 暦 永
掲載日:2025/12/04

 高級レストランの個室で、油の跳ねる音と共にステーキが焼き上がる。

 運ばれてきたそれを見、そして目の前に座る初老の男を睨み付けた。

「今宵は良い晩餐になりそうだな」

 初老の男はこちらをなめ腐った態度を崩さない。俺はこいつへの殺意を隠しながら、愛想笑いを浮かべる。

「ええ。とても」

 ナイフとフォークを見る。ただの食器。でも、使い方を変えれば人の命など簡単に奪える。

「そう言えば、君から頂いた私の新しい女房だがね」

 ステーキが半分程減ったとき、男が唐突に言った。俺は内心怒りしか浮かばなかったが、興味ありげに笑って見せる。

「とても、良い子なんだ。私の言うことはちゃんと聞いてくれる。前の女房たちは、私に反抗してばかりだったからね」

「へぇ、そうなんですか」

「ああ、君にはもったいなかっただろうに。毎晩私の隣で、君の名前を呼ぶよ」

 ダンッ。大きな音を立てて、俺はステーキにナイフを突き刺した。

「そうなんですか。それは、少し妻がかわいそうだ」

 俺は歪な笑みを浮かべながら、優しく言う。男は大きな音に驚いたようで、信じられないとでも言いたそうにこちらを見ている。

「何を言うんだ? 君がくれたのではないか?」

 男はたどたどしい口調で俺を落ち着かせようとしてくる。でも、俺の怒りはもう治まらない。

 今までもこれからも、こいつのせいで妻が傷つくのは耐えられない。

「あなたが無理やり奪ったんだ。あいつの自由を、笑顔を」

 俺は、ナイフを握り男の眼前に立つ。ナイフを振り上げた瞬間、男が何かを言ったが、気にも止めなかった。

 俺は、男の心臓にナイフを刺した。そして、傷口で捻りそのまま勢いよく抜いた。血が噴水のように溢れ出す。

 ああ、汚いな。

 俺は返り血を乱雑に手でぬぐう。殺したとは言え、こいつの体液を浴びていたくなかった。

 もうこれで、俺の世界一愛する人は不自由におかされることはない。

 その場を立ち去ろうと、男の死体を一瞥すると、驚愕に染まった瞳と視線がかち合った。

 そう言えば、俺がこの男に怒りをぶつけたことはなかったな。

 きっと、こいつは俺も自分に従順なやつだと思っていたのだろう。

 残念だったな。

『お前を殺したい』

 それが俺の隠していた本音だ。

 俺は、お供え物として男の額にフォークを突き刺し、その場を後にした。

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