隠した本音
高級レストランの個室で、油の跳ねる音と共にステーキが焼き上がる。
運ばれてきたそれを見、そして目の前に座る初老の男を睨み付けた。
「今宵は良い晩餐になりそうだな」
初老の男はこちらをなめ腐った態度を崩さない。俺はこいつへの殺意を隠しながら、愛想笑いを浮かべる。
「ええ。とても」
ナイフとフォークを見る。ただの食器。でも、使い方を変えれば人の命など簡単に奪える。
「そう言えば、君から頂いた私の新しい女房だがね」
ステーキが半分程減ったとき、男が唐突に言った。俺は内心怒りしか浮かばなかったが、興味ありげに笑って見せる。
「とても、良い子なんだ。私の言うことはちゃんと聞いてくれる。前の女房たちは、私に反抗してばかりだったからね」
「へぇ、そうなんですか」
「ああ、君にはもったいなかっただろうに。毎晩私の隣で、君の名前を呼ぶよ」
ダンッ。大きな音を立てて、俺はステーキにナイフを突き刺した。
「そうなんですか。それは、少し妻がかわいそうだ」
俺は歪な笑みを浮かべながら、優しく言う。男は大きな音に驚いたようで、信じられないとでも言いたそうにこちらを見ている。
「何を言うんだ? 君がくれたのではないか?」
男はたどたどしい口調で俺を落ち着かせようとしてくる。でも、俺の怒りはもう治まらない。
今までもこれからも、こいつのせいで妻が傷つくのは耐えられない。
「あなたが無理やり奪ったんだ。あいつの自由を、笑顔を」
俺は、ナイフを握り男の眼前に立つ。ナイフを振り上げた瞬間、男が何かを言ったが、気にも止めなかった。
俺は、男の心臓にナイフを刺した。そして、傷口で捻りそのまま勢いよく抜いた。血が噴水のように溢れ出す。
ああ、汚いな。
俺は返り血を乱雑に手でぬぐう。殺したとは言え、こいつの体液を浴びていたくなかった。
もうこれで、俺の世界一愛する人は不自由におかされることはない。
その場を立ち去ろうと、男の死体を一瞥すると、驚愕に染まった瞳と視線がかち合った。
そう言えば、俺がこの男に怒りをぶつけたことはなかったな。
きっと、こいつは俺も自分に従順なやつだと思っていたのだろう。
残念だったな。
『お前を殺したい』
それが俺の隠していた本音だ。
俺は、お供え物として男の額にフォークを突き刺し、その場を後にした。




