第八話 叶ってしまった願望が一つ
結論。
クルピアちゃんの料理は、どれも美味しくて元気が出るものだった。
見た目がどうにも受け付けない以外は、素晴らしい料理の数々である。
しかし、アレを美味しく食べたと思うと……我ながらゾッとするものだ。
ベルゼオクトなんて、鍋に入れられた状態なのにウニウニ動いてたし……キモチワルイ。
ただのタコならばともかく、色も模様もサイケデリックな青色なのだから、更に参ったものである。
そして食べにくさはともかく、アレで美味しいのが更によく分からない。
日本では元々タコを食べる文化があったため、タコを食べるということ自体は気にならなかったが……。
青色の体表と泡のような模様どころか、真っ黒い触覚……?のようなものが腕から生えていたり、目玉がやけに血走っていたり……とにかく、コイツが特にとんでもない見た目をしていたのだ。
「ご馳走様でした、腹いっぱいです」
「うむうむ!よく食うのは良いことじゃ!どうじゃったかの、妾の料理は」
「美味しかったです!それに、何だか力も湧いてきます」
「おお、そうじゃったか!なら良かった!……タコにかぶりついた時は、ちょっと心配になったがのう」
「何で食ってたら心配になるもの食わせてるんですか」
「アレの身体には、ちょっとやそっと火を通した程度じゃあ消えない程の魔力量が残っておっての。魔力を貯めることが苦手な者じゃと、そのまま魔力を帯びたゲロを吐いてしまうんじゃが……其方はそうじゃあなかったようでの。良かった良かった」
「怖い怖い怖い!」
食事の時間まで、弟子の才能テストに使うとは……恐ろしい、というか危なっかしい人である。
酷ければ、食べたものを全部戻すところだったというのも、クレイジーガールポイントが高い。
「これからも楽しみにしておくが良い!後でレシピもくれてやるからの!食材と作り方を覚えておくと、魔術師として動く時に役立つぞ!特に、学院の外ではな!」
「家でキャンプ気分ですね!ってやかましいわ」
魔力が豊富であったり、特殊な効能を持っていたりする食材や調理法は、確かに野営が必要なフィールドワークを行う上で役に立ちそうである。
ありがたいことである。
いきなり下手すればゲロを吐きかねない食べ物を、何の忠告も無しに食べさせてきたことを除けば。
全身にみなぎる魔力が、例のタコから吸収されたものであることに少し複雑な、嬉しいような解せないような感情を抱きながら、昼を過ぎた頃。
俺は魔術理論に加え、覚えている魔術について、一通り教えてもらうことになった。
「魔術というのは、この世界の法則を呼び出す裏技のようなものじゃ。妾達が呪文を唱えるのも、魔力を操作するのも、現代魔杖を使うも者が宝石を使うのも、魔力を使って干渉力をはたらかせることで、この世界の裏技を使う上で、必要な過程なのじゃよ」
「分かりました!」
数時間後。
「『炎』も『水』も、基本的な魔術じゃが、『炎』なら燃やす、炙る、爆発させる……『水』なら、対象を濡らす、水をかける……更に、そこから範囲や威力まで、指示せねばならん。やりようによってはどこまでもこだわれる魔術じゃ。使えると便利じゃぞ。例えば~……」
「へー」
さらに数時間後。
「『浮遊』はご存じ、物を浮かべる魔術じゃ。初心者が使うには、少し扱いが難しいが……慣れれば便利での。さっきみたいに箒を浮かべて飛ぶ以外にも、遠くにある物を浮かべて引き寄せたり、浮かせた物を操って魔物にぶつけたり、普段使いにも有事の際にも使えるぞ。特に歴史的に有名なあの事件では~……」
「ポルターガイストみたいなこと、どこかでやってみたかったんですよね!」
そして真夜中に差しかかる時には、炎、水、浮遊について、基礎的な原理や魔術の開発経緯などに関しての全てを説明できるようになる程の知識を叩き込まれていた。
さらに安定して魔術を使うために魔力を安定して触媒へ込める方法やら、魔導書を読み上げて魔術を使う上での注意点やらを教わっているうちに、いつの間にか、夜空は黒と星から少しずつ青みがかりはじめてしまったようで。
「どれ、こんなもんかの。……やれやれ、今日はこんなところかの」
「今日って、もう日付変わってますけど……」
「本当はもう少し教えることがあったのじゃが……まあ良い。妾のペースは少し無理があったかのう」
眠気にやられる間も無く勉強していたせいか……或いは、クルピアちゃんを見て目の疲れを誤魔化していたせいか、俺は自分が思っているよりも元気がなかったらしい。
それもそのはず、よく分からない魔導書に狂わされた以外は普通の大学生だった俺とは違い、向こうは本気で真理を目指して探究していた魔術師だ。
こちらに向いているのは、徹夜などいつものことであるとでも言いたげな目である。
「ね、ねみぃ……」
「やーれやれ。ほれ、ベッドも用意しておるからの、風呂に入って、歯を磨いて寝る準備をするのじゃ。どれ、風呂は先に入ってこい。歯みがきも其方が先じゃ」
ここに来て、入浴と寝る前の歯磨きが残っていた。
本当ならば翌朝に持ち越したいところだが、クルピアちゃんの前で不摂生ぶりを晒すわけにはいかない。
……などと、この状況で考えられる訳も無く。
「や~だ~……クルピアちゃんと一緒じゃなきゃお風呂入れない~」
しかし、俺の思考は明後日の方向へ。
「何じゃ、プラティエじゃなかった頃も合わせたら大人なんじゃなかったのか」
「大人だけど一人じゃ入りたくない~。クルピアちゃんと一緒じゃなきゃ嫌~。一人で入るくらいならもう寝る~」
睡眠が不足している状況は、酔っ払っている状況と同じくらいに脳の機能を低下させると聞いたことがあるが、まさにその通りであるようだ。
「……うーむ。こやつを妾が風呂に入れてやるのは癪じゃが……このまま客人用のベッドに寝られるのはもっと嫌じゃ……!ええい!仕方ないのう!」
てっきり、尻でも蹴飛ばされるかと思っていたが……冷静でいなかったのは、クルピアちゃんの方も、同じだったのか。
俺はクルピアちゃんに手を引かれ、そのまま服を脱がされてバスルームへ。
「え、クルピアちゃん?」
「何を驚いておるか。妾と一緒じゃないと風呂に入りたくないと言っておったではないか」
「え、え、ええーーー!?」
そして、いつの間にかパンツを含めた衣類を全て脱がされた俺は、目の前で服を脱ぎ始めるクルピアちゃんの姿を視界に収め、吹き飛んだ眠気と引き換えに、正気を取り戻した。
「何をそんなに驚いておるか。女の裸くらい、見たことあるじゃろうて」
「ありますけど!ありますけど!」
しかし俺にとって、少女の裸は刺激的過ぎる。
「やーれやれ。何がしたいんじゃ、其方は」
しかし、両手で目を塞いで後退りしようとする俺を、クルピアちゃんは引き留めた。
「ちょ」
「【浮遊】」
「うおっ」
俺は湯を溜められた浴槽へ「浮遊」で飛ばされる。
抜け出す間も無く、クルピアちゃんも服を脱ぎ切って浴槽へ。
「其方、妾のような少女が好きなんじゃろう?今日頑張った褒美じゃと思って、妾の身体を隅々まで目に焼き付けるが良いぞ」
そして、目の前で一切を隠していない姿を曝け出す彼女は、俺の耳元で、そう囁くのだった。




