第三十六話 吸血鬼討伐作戦決行
翌朝。
俺はベルリナちゃんと一緒に講義を受けていた。
「よお、プラティエ!イロハは?いないのかー?」
「今日はお休みみたいで……部屋にも行けなくてさ」
クルピア・イロアとして準備をしている……だなんて、間違っても言えない。
「熱でも出してんのかー?」
「私用みたいだから大丈夫じゃない?」
「そうかー。なら大丈夫だな!」
ベルリナちゃんは腕を組み、息をついた。
それから俺達は講義を終え、ベルリナちゃんと別れて、コレディッカ先生の元へ向かった。
「よォォォォォォォォォこそォォォォォォォォォ!今日は本番でェェェすねぇぇぇぇぇ!」
やけにテンションが高いなぁ。
空元気だろうか。
「ショットガンの整備は万全です。いつでも出れますよ」
「よォォォし!それではいざ、戦場へ出るとしましょォォォう!レッツ、ゴォォォ!」
俺達は研究室を出て、夜の街へ。
まず向かうのは繁華街。
人が集まる場所に潜んでいる可能性を考え、とりあえずここは潰しておこうという算段である。
「よォ姉ちゃん、今夜俺と……」
「いや、助けて……」
「炎」
「ギャァァァァァァ!」
「……あ、ありがとう、ぼうや……?」
俺は男に弱い炎の魔術を放ち、そのまま場を後にする。
流石に治安が悪いようだ。
「まるでヒーローですね、プラティエ君」
「別に何てことはしてないよ。ちょっとムカついただけ」
「ハーレム王の才能があるかもしれませんよ」
「興味無いよそんなん」
そもそも、今のを見ただけで分かるものなら、ハーレム王とやらは大したものではないのだろう。
「ふゥん。僕なら見逃しませんけどね」
「実際見逃してないからハーレムができてるんだろうなーって思うよ俺は」
「そうですよ。……だから、そのハーレムに穴を開けた、大切な女性の一人を殺した吸血鬼を許せないんです」
「チャラいんだか誠実なんだか」
「どっちも、ですよ」
「へぇー」
俺とバルディオが話していると、コレディッカ先生が足を止めた。
「プラティエ君、バルディオ君。この辺りに吸血鬼はいないようですねェ」
「はーい」
「了解しました」
それから俺達は、旧市街へ移動して、捜索を再開した。
辺りは繁華街と比べて灯りが少なく、閑散としている。
路地裏を回っていると、何十匹ものネズミが慌てて移動する様子が視界に映った。
「コレディッカ先生、あれ」
「分かってますよォ。ただ事ではありませんねェ」
「ネズミの大移動……非常事態の前触れ、でしたか」
この辺りに、ナルカはいる。
俺達は各々の触媒を構え、ネズミが向かってきた方向へ進んだ。
数分後に血溜まりを見つけたのは、ナルカが自分の場所を隠す気がないのか、或いは俺達を誘い込んでいるつもりなのか。
それは封鎖された地下道へ繋がっているようだった。
「この先、のようでェすね」
「行くしかないかあ」
「はい。僕の仇が、先で待ってますから」
ここで、クルピアちゃんから俺の端末へメッセージが送られてきた。
「あ、ちょっと待ってください」
俺はたどたどしく端末のロックを解除し、メッセージを見ると、「光と音の準備をしておけ」と書かれていた。
「……後ろから、何か聞こえませんか」
すぐに、「ブゥーン」と、風を切りながら向かってくる魔箒の音が聞こえる。
「光、音」
俺は慌てて、二人に気付かれない声量で光と音を唱え、飛んでくる箒に乗る魔術師の姿と声を変えた。
「待たせたな、高位魔術師コレディッカよ。それと……誰じゃ」
現れたのは、顔を隠したヒーロースーツを纏っているように見せているクルピアちゃん。
面識が無い設定のため、俺は何も知らないフリをするのであった。
「……初めまして、僕はバルディオ・ラルグスです。この作戦をコレディッカ先生に相談した者です」
「初めまして。俺はプラティエ・ノルンです。バルディオの友達で、コレディッカ先生の教え子かな」
「そうか。妾はクルピア・イロアじゃ。コレディッカから聞いておるじゃろうが、最高位魔術師をやっておる。表向きには、追放された魔術師じゃ。……其方らが会いたくても会える存在では無いぞ、ありがたく思え」
「はい、光栄です」
「俺も、嬉しいです」
ま、俺は一緒にお風呂にも入った仲だけど。
とりあえずこの場は、何も知らない一般魔術師として振る舞うことにしよう。
「初めましてェ、最高位魔術師クルピア・イロア先生ィ。ワタクシ、高位魔術師のトリャーズマ・コレディッカと申しまァすゥ……ンンー!こうしてお会いできるとはァ……非常にィ、恐縮ッ!」
「よいよい。それよりも……この封鎖された地下道の先を探すのじゃろう?早く行くぞ」
俺達は、姿を隠したクルピアちゃんと合流して、地下道の先へ行く。
クルピアちゃんの姿は、俺の魔術で特撮ヒーローのように見せ、声はニュース番組の匿名希望よろしく、ロボットのように変化させている。
いつものクルピアちゃんとは違うが、そんな雰囲気でも、大好きなクルピアちゃんと一緒に歩けることの安心感は、他の何にも変えがたいものだった。
地下道の中を進んでいくと、血痕が更に増えていく。
そして、時は訪れた。
「……危ないッ!」
先導するバルディオの首めがけて、血の刃が飛んでくる。
「【ヘビーゴーレム】!」
コレディッカ先生が召喚したゴーレムを盾にすることで間一髪、事なきを得た。
一気に、地下道へ緊張が走る。
そして瞬く間に、コレディッカ先生のヘビーゴーレムが粉々に砕かれてしまった。
「あら……今日は二人増えたのね」
「おやおやァ……これはァ……想定外ィ……!」
「ナルカ!今日こそ決着じゃ!」
クルピアちゃんが前衛へ出ると同時に、俺とコレディッカ先生は後衛へ。
「な……そんな……」
腰を抜かしてしまったバルディオは一時撤退。
「四人まとめて、私の昼ご飯にしてあげるわ」
「そんなことはさせん!喰らえ!【針地獄】!」
吸血鬼ナルカの猛威は、最初から躊躇なく襲いくるのであった。




