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「杖持たず」の旧式魔術師 〜機械音痴は手動の魔術で時代を追い抜く〜  作者: 最上 虎々
第二章 魔術学院へようこそ

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第十七話 師匠襲来

「プラティエよ、合格祝いに来たぞ」


 翌日の夜。


 俺は自室の扉越しに見た人の姿に飛び上がった。


「クルピア、ちゃん……?」


 街の公衆通信機で電話をかけて、まだ二日も経っていない内に、師匠は姿を現した。


「シーッ!その名は言うな!バレるであろうが!ここでは師匠と呼べ!……とりあえず、その扉を開けよ」


「え?あ、うん」


 俺は言われるがまま、扉を開ける。


 そこにいたのは紛れもない、クルピアちゃんであった。


「ホレ、扉を閉めろ。密談じゃ」


 俺は扉を閉めながら、クルピアちゃんを抱きしめながら話を始めた。


「な、ななな、何でここに!?敵陣じゃなかったの?」


「勿論、敵陣じゃ。じゃからこうして忍んで来ておる」


「だいぶゴリ押しだなあ」


 しばらく会えないかと思っていたが、そんなことは無かったようだ。


「やれやれ。妾も、格好つかんものじゃ。手紙を送れだの通信をしろだのと言っておきながら、心配で来てしまったのじゃからな」


「はは、そうですね……。でも、会えて嬉しいです!ク……じゃなくて、師匠!」


 俺はクルピアちゃんを抱きしめる。


「やれやれ、危なっかしいのぅ……うおっ!?い、いきなりは驚くであろう、ぅぅ……」


 分かりやすく頬を赤らめるクルピアちゃんも可愛い。


「それで、師匠。師匠ともあろう方が、俺の心配だけをして、わざわざパルグレフまで来たんですか?それも、魔術学院の寮に忍び込むようなことまでして?」


「何じゃ、それでは不満か?」


「いや、そうだったらそうだったで、めちゃくちゃ嬉しいですけど。でも、リスクが大きすぎると思うんです」


「ふっ。それで何も聞かずにいる其方では無いか。良かろう。ならば教えてやる。……何を隠そう、妾がここに来た理由は……其方と共に、学院での生活を送るためじゃ!」


「……はい?」


「今のパルグレフ魔術学院が何たるか、古の卒業生として見ておきたいのじゃ。正式に現役学生をやっておる其方とは、違ったものも見えてこようぞ」


「俺に視察させるんじゃ無かったんですか」


「勿論、其方は普通に通ってもらって構わん。じゃが、若者の目と老人の目、二つあれば、見えてくるものも違うであろ」


「まあ……そうですね」


「それに、其方の活躍を目の前で見ておきたいんじゃ。送り出したは良いものの……その、何じゃ。……恋しく、なってしまっての」


「なんだぁ、両想いじゃないですか!婚約しましょう!」


「気が早いんじゃ、童が」


「てへへ。……で、本当にそれだけですか?」


 ここまで説明してもらった理由でも、十分に納得がいくものではあるが……クルピアちゃんともあろう者が、その程度の理由で、わざわざ魔術学院に潜り込もうとするものか。


 俺のことが心配であるという理由と、先輩目線の視察という理由だけでは、どうにも、俺の腑には落ちなかった。


「……やれやれ。半端な隠し事は通じぬか。……妾は、真理を諦めておらぬ」


「完全に真理を認識したい、と?」


「うむ、妾はまだ、半端にしか真理を認識できておらぬ。完全に真理に触れた訳ではない。故に、望まぬ不老の身体を持ってしまっておるのじゃ。じゃから、妾は完全な生命の真理、『生命そのもの』に触れ、この生に、いつでも終止符を打てるようにしたいと、そういう訳じゃ。……ここまで言えば、分かってくれるのう?」


「ええ。身分を偽って潜り込むんですね。閉架書庫に」


「うむ」


「でも、どうするんです?悪い意味での有名人として、身バレしまくってるじゃないですか。顔も当時と同じままだし」


「でも、其方の両親は黙っていてくれたではないか」


「アレはウチの両親が緩いだけですよ。優しいっていうか、適当なんです。『わざわざなんか通報しても良い事なんて無いし、息子の魔術が育つなら』って、見逃してくれてただけですよ」


「そうじゃったのか」


「逆に、よく追われる身で両親に挨拶なんてしようと思いましたね」


「礼儀は大切じゃからな」


「そういう問題ですかねぇ……。カルベナ村に居た時は、特に魔術が有名なところでも無かったので、当時と同じ顔でもバレませんでしたし、そもそも人前に出ることも少なかったでしょうけど」


「でも、その辺は心配せんで良い。化けの皮を用意しておるからのう。プロでも見破れん、特別製じゃぞ」


「大丈夫かなぁー」


「うむ。その証拠に、実は妾も試験を受けておったのじゃ。勿論、余裕で合格も取ってやったわい」


「はぁ!?」


「な、気付かんかったじゃろう?」


「何でそんなことを!怖いじゃないですか!」


「大丈夫じゃ。実際に素人の域には無いであろう魔術師と何人もすれ違ったが、ただの受験生としか見られておらんかったからの」


「ええー……」


 クルピアちゃんの腕を疑う訳では無いが、どうしても心配である。


 クルピアちゃんは魔術界において、悪い意味での有名人なのだ。


 仮に村の人達に見つかっていたとしても、生活の中で魔術を活かしている程度の素人には、「百年以上経って同じ顔で生きている訳が無い」と、特に気にも留められずに終わりだったことだろう。


 しかし、ここはパルグレフ魔術学院。


 道を歩けば、その道のプロに当たるような場所だ。


 クルピアちゃんが魔術学院を歩くのは、音楽学校の大学院をアントニオ・サリエリが歩くようなものである。


 クラシック音楽に興味が無い人には、ただのおじさんにしか見えないだろうが、その道に進んだ者には見破られない未来が見えない。

 クルピアちゃんは、それ程の有名人なのだ。


「という訳で、今からその化けの皮をお披露目してやろうと思っての」


「はぁ……分かりました。合格もしちゃったみたいですし、もう止めようが無いですよね」


「そういうことじゃ、諦めろ。【変身(ドドロン)】!」


 クルピアちゃんは詠唱を省略し、魔術名だけで変身を行う。


 発煙や謎のオーラなどのエフェクトがある訳でも無く、一瞬、クルピアちゃんの姿がブレたかと思うと、特に間を空けるでも無く、すぐにその姿は変装後のものに変わってしまった。


「可愛い……」


「じゃろ?折角じゃからな、其方が好きそうな姿になってみたのじゃ」


 元の白髪に紅目の、腰くらいまで伸びたロングヘアから、その姿は一新。


 華奢な身体つきは変わらないものの、赤く変化した髪は肩の高さと等しい程度の長さまで縮み、代わりに瞳の色が銀色に染まる。


 そして少し吊り目になり、パルグレフ魔術学院の制服もついでに纏って、変装は完了。


「これなら確かに、クルピアちゃんとはバレませんね」


「うむ!これから街にいる時は、『イロハ・テレジア』と呼べ!」


 一日で二度も名前が変わるクルピアちゃん。


 クルピアちゃんは、自らの偽名を名乗りながら、そしてブイサインを作った右手を右目に被せ、決めポーズをとった。


「可愛い」


 何という可愛さだろうか。


 俺の心は完全に奪われてしまった。


 別人と認識できる姿でありながら、しかし元の姿はあまりクルピアちゃんからは変わっていないという点も良い。


「うむうむ、そうじゃろそうじゃろ」


 俺は自信満々に胸を張るクルピアちゃんを前に、本能に抗うことができなかった。


「可愛い。すごく可愛い」


 クルピアちゃん改め、イロハちゃんの頭を撫でずにはいられなかったのだ。


「……何じゃ、いや、何よ。照れるであろ、照れるじゃない」


「口調は改めないとですね」


「そう、じゃ、そうよね」


「ぎこちないなー」


「そうじゃな、それじゃあ」


「それじゃあ何ですか」


「今日は一晩中、付き合ってもらおうかのう」


 その晩、クルピアちゃんは俺の部屋に居座った。


 素の口調で話すと、魔術師によっては正体を暴かれかねないため、口調を変えるべく、その訓練に付き合って欲しいとのことだ。


 そしてそれは、夜が明けるまで続いたのであった。


 ……俺はいつ眠れるのだろうか。

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