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「杖持たず」の旧式魔術師 〜機械音痴は手動の魔術で時代を追い抜く〜  作者: 最上 虎々
第二章 魔術学院へようこそ

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第十五話 病める情愛の少女

「なっ、ベルリナちゃん!?」


 突然の出来事に、俺はあっという間に押し倒される。


「ハァ、ハァ……プラティエ、離さない……!」


「待って待って!ベルリナちゃん、ちょっと、痛い痛い!」


 肌着がはだけた胸元が近いことを気にしていられない程の驚きと筋力。


 齢十二の少女が出している力とは思えない。


「さっきので分かった……!好きだぜ、プラティエ……!」


「はぁ!?え、早くない?」


 惚れっぽい子なのだろうか。

 或いは、都会に出てきて舞い上がってしまったのだろうか。


 運命に導かれて現れる白馬の王子様って、そんなにすぐ姿を見せるものでは無いと思うんです。


「ああ!最初に会った時から、ピンときてたんだ……!だがよぉ……!さっきので、アタシのハートにトドメが刺されちまったんだ……!責任、取れよなぁぁぁぁ!」


 素直に言って、ベルリナちゃんは可愛い。


 ボーイッシュで、目元はぱっちりとしており、肉付きも良く、パーソナルスペースが狭い。


 好みにもよるだろうが、俺は大好きなタイプの少女だ。


 しかし、俺にはクルピアちゃんがいる。


 クルピアちゃんが俺のことをどう思っているかはともかく、少なくとも今の俺に、クルピアちゃんのことを忘れられるとは思えない。

 そして、そんな状態でベルリナちゃんと付き合ったとして、ベルリナちゃんを幸せにできる自信が無いのだ。


「ごめん、ベルリナちゃん。今は無理かも」


「そんな、な、何で!何でだよ!アタシのこと、嫌いか!?」


「いや。俺、ベルリナちゃんのことは嫌いじゃないし、なんなら友達としては大好きだよ」


「だったら何で!」


 ベルリナちゃんは俺の服を掴みながら、引っ張ったり押したりしながら話を続ける。


 まともに話せている気はしないが、何となく意味は通じているらしい。


「もう好きな人がいるんだ」


「なっ……そんな、そんな……アタシが、遅かったってのかよ!」


「うん。だから、少なくとも今は付き合えない。ごめん」


「何だよ……何だよぉ」


「あと、そろそろ手を離してくれない?結構痛い」


「……だったら、せめて」


「せめて?」


「アンタの脳ミソをいただくぜ」


 ベルリナちゃんは懐からナイフを取り出し、俺の額へ突き刺そうとする。


「【(ピカリィ)】!」


 突然のことだったが、俺は反射のように魔術を使って全身から光を放った。


「うわっ!目が、目が」


「はっ!」


 そして、ベルリナちゃんのナイフを取り上げ、部屋の隅へ投げ飛ばす。


「わっ、何すんだよ、アタシのナイフ!プラティエの脳ミソ!アタシのものに、プラティエの本体!」


「落ち着いて!ベルリナちゃん!」


「こうなったら……がぶっ」


「痛っ!?」


 しかし、ベルリナちゃんは俺の腕を噛み、腰に下げていた箱を手に持つ。


「起動するぜ!アンタはアタシのモンにするぜ!アタシの全力でな!」


 起動してすぐに、ガチャガチャと音を立てて箱の形から展開した現代魔杖は、あっという間に、試験会場で見たベルリナちゃんが持っていたそれの姿になった。


「ベルリナちゃん……とりあえず、今は君を止める!」


「【妖怪変化(へんしん)喰散牙狼(フルウルフ)】!」


「【浮遊(フワゥリ)】!」


 俺は自身に「浮遊(フワゥリ)」をかけ、宿舎の窓を開けて外へ飛び出す。


「待てっ!」


「もういっちょ!【飛行(フワゥリ)】!」


 そして、部屋の隅に置いておいた魔箒を浮かせて飛び乗り、そのまま市街地を外れ、王都の中に造られた自然公園へと飛び立った。


「アォォォーン!」


 一方のベルリナちゃんは、喰散牙狼(フルウルフ)に変身したまま、追いかけてくる。


 パルグレフ魔術学院から学園区、学園区から旧市街へ、旧市街から繁華街へ、そして繁華街からパルグレフ中央広場へ少し戻り、そこで俺は迎撃することにした。


「【(ヌラッセ)】!」


 まずは、市街を汚さない程度に広場へ水の流れを作り出し、ベルリナちゃんの進路を妨害する。


「くっ!足を取ろうってか!」


「その通り!ここまで追ってくるなんて、すごい執念だね」


「恋は盲目ってな!」


 しかし、確実に距離を詰めてくるベルリナちゃんが俺の元へ辿り着くのは時間の問題。


「でも、これならどうかな!【浮遊回転(フワゥリ)】!」


 俺は「浮遊回転(フワゥリ)」でベルリナちゃんの身体を浮かべ、そのままグルグルと空中で回転させた。


「うわっ!目が、目が回る……おええ」


 空中でグルグルと回るベルリナちゃんは、そのまま三半規管をやられたのか、吐き気を催し始めたようだ。

 恋故に盲目でも、三半規管をやられては無視できまい。


「現代魔術だと『回り廻る瞳の渦』だっけ?これでひとまず、今は諦めてくれないかな!」


「おええ、分かった、分かったから、やめてくれ、もう襲わないから」


 吐き気に襲われながら、フラフラと四つの足で歩くベルリナちゃん。


 そのまま地面に伏したベルリナちゃんを、俺は運んで部屋に返そうとする。


「おい、そこのお前。何をしている」


 すると、背後から声が聞こえた。


 俺は振り向かず、背後にいるであろう何者かには気付かれない位置に、魔力を多く消費することで詠唱を省略した「(ヌラッセ)」と「(ピカリィ)」で即席の鏡を作り出し、背後を確認する。


「俺は傷ついた女の子を拾い上げただけですよ」


 そして、「(ランラン)」で声を偽装して答えた。


「この辺りで、飢餓狼(ウエウルフ)の変異体らしき魔物を目撃したとの情報があった。そして、お前が抱えているのが、それだ」


 ベルリナちゃんは、変身を解いていない。


 なるほど、試験会場で姿を見ていた俺は普通に受け入れていたが、そうではない人間の目には、北部の魔物を強化したような狼の姿が、試験中に女の子が変身していた姿ではなく、恐怖の対象として映るだろう。


「ああ、こちら、ですか」


「出血も傷跡も無し。仕留めたようには思えん。お前が、この狼を暴れさせたのか?ならば、飼い主の資格が問われるものだな」


 この口調からして、巡回中の警察官だろう。

 俺は今、犯罪者にされようとしている上、ベルリナちゃんは人間の姿を見られていないとはいえ、殺処分送りにされようとしているのだ。


 やれやれ、随分と厄介なトラブルを巻き起こしてくれたものだ。


「飼い主なんかじゃありませんよ」


「ならば、その狼を渡せ。こちらで処分する」


「それも無理な相談です。という訳で」


 俺は腕輪を隠しながら、省略した「(ピカリィ)」を発動。


「なっ、前が……見えん!」


 それと同時に、学園へ向けて全力で走り出した。


 詠唱を省略すると、実際に発動するまで周りに何の魔術を使うか知られない代わりに、数割増しから二倍程度の魔力を使用する。


 魔術はせいぜい、あと五回も使えないだろう。


「プラ……」


「喋らないで。あと、名前を呼ばないで。バレるから」


「お、おう、すまねぇ……。なあ。アタシを捨てて、アンタは戻れよ」


「何でそんなことを。自殺志願者じゃあるまいし」


「アタシが戦魔術師になろうとしてるのは、死に場所を探してるからさ。だから、アンタが言ってるのは間違いじゃあねぇよ」


「……その話は今度聞かせてもらうよ。とりあえず、俺は君にここで死なれたら後味が悪い。だから、有無を言わさず逃げるよ」


「ちぇっ、そうかよ。好きにしろ、好きな人」


「本名呼ぶなとは言ったけど、その呼び方……調子狂うなぁ。【身体強化(ググーン)】!【屈折迷彩(ピカリィ)】!」


 俺は身体を強化し、素人()の理解による適当な光学迷彩を利用して、ヒーローモノに登場する怪人のような姿へ、擬似的に変身する。


「くっ、端末を使わずに魔術を……只者では無い!人に化けた魔物か!?」


「さァな」


「このままではマズい、応援を……!」


 そして、おそらく俺が今発動できる最後の魔術は、警察官の通信機を狙って使った。


「【(モエーロ)】」


「熱っ!?あっ、通信機が!」


 火球を飛ばし、警察官の通信機を燃やす。


 そして、慌てふためく警察官を尻目に、俺は建物の屋根やビルの壁を飛び回り、パルグレフ魔術学院の宿舎、そのベルリナちゃんが使っている部屋へ。


「じゃあね、とりあえずまた朝に!」


「さ、流石……だな……完敗だ……。流石、アタシの、見込んだ、男……ますます、好きに」


「ひええ逃げろぉ」


 そこにへたり込む狼を投げ下ろし、俺も急いで自室へと飛び入ったのだった。

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