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「杖持たず」の旧式魔術師 〜機械音痴は手動の魔術で時代を追い抜く〜  作者: 最上 虎々
第二章 魔術学院へようこそ

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第十四話 王都マガルタ散策

 試験会場を出て、俺とベルリナちゃんは王都へ出た。


 実技試験も含めた試験結果は、翌日に発表される。


 俺もベルリナちゃんも前日同様、学校に用意された宿舎で休む予定だが……夜まで、まだ時間があるためか、何となく、二人で校門の外まで出てきてしまったのだった。


「ベルリナちゃんは、この後どこへ?」


「んー?なーんも考えてねーや!何となく出てきちまったけど、部屋に戻っても良いなー!でも……折角、出てきたんだしよ!散歩でもしようぜっ!」


 二人で街を歩く。

 現代魔杖専門店に寄ってスピネラを見て回ったり、旧市街の屋台で魔物の肉をフライにしたものを食べたり。


 ……これは、デートなのでは?


 俺の馬鹿、クルピアちゃんという存在がいながら、何てことを考えているんだ。


 俺が髪をくしゃりと掻いて思考を吹き飛ばそうと、左手を動かそうとした時。


 ベルリナちゃんは右手で、その左手を引き寄せ、ぎゅっと握った。


「な、何!?」


「ん?手繋ぐんだよ。当たり前だろ?」


「当たり前?」


「ああ!当たり前だ!アタシ達、まだ子供だからな!はぐれねーように、手ぇ繋ぐんだよ!」


「そ、そうだね……?」


 ……北部の子ってこんなに刺激的なの?


 寒い地域に陽気な人は少ないイメージを持っていたが、これは認識を改めなければならないようだ。


「なぁ、あの城……何だと思う?」


 気がつけば、ここは繁華街の入り口。


 その城とやらが何かを察するに、そう時間はかからなかった。


「城……あっ」


 ダメです。

 それはラブホテルです。


 小六にはまだ早い城です。


「行ってみようぜ!」


「ストップ!ストーップ!」


 いろんな意味で危ないところだった。


 心臓が飛び上がる程の衝撃とは、まさにこのことである。

 全く、勘弁して頂きたいものだ。


「何でだよー。王都にも城が残ってたなんて、すげービックリしたのに。しかもハートとか描いてあるんだぜ?カワイイじゃねーか!」


「ダメなもんはダメなの!」


「えー」


「ホントお願いします多分遠くない未来には意味を知ることになるんで大人になるまでは勘弁してください」


「そ、そこまで言うなら……分かったよ」


「ありがとうございます本当にありがとう」


「そ、そんなにヤバいところなのか?」


「子供にとってはヤバいと思う」


「何がだよ?何か知ってるのか?」


「まあ……ちょっとね」


「教えちゃあ……くれねぇよな」


「流石に教えられない」


「そうかぁ……。ま、いいや!次、あっち行こうぜ!」


「カジノもダメだって!」


 しまった。

 この子と一緒に歩いていると、二つの意味で気が気ではない。


 田舎から受験のために出てきた子供という点では俺とベルリナちゃんは同じハズだ。


 しかし、俺が前世の記憶の影響で世間を知ってしまっているのか、或いはベルリナちゃんが世間知らずなのか……いずれにせよ、俺にはベルリナちゃんの動きが危なく見えて仕方なかった。


「ちぇー。大人にならないと入れないとこ、多いんだなー」


「本当にね」


 俺は何とか繁華街から離れ、しれっと旧市街へ戻る道へ誘導する。


「なぁ、プラティエ……ぐはっ!」


 しかし、もう繁華街の並びも終わりというところで、中年の女がベルリナちゃんの顔に膝蹴りを入れようとしたのか、わざとらしく脚をぶつけてきた。


「……何、してるんですか。おばさん。この子に堂々とぶつかっておいて、ごめんの一言も無しですか」


 俺は女を睨みつけながら、こちらもわざとらしく大声を上げる。


「エェ!?あたしが何かしたってのかい!?全く、近頃のガキは目の前も見れないのかねぇ!」


「全く、近頃のババアは足元も見てないんですか」


「ババア!?なんて事言うんだい!高齢者には道を譲るのが道理ってものじゃないのかい!?クソガキ!」


「高齢者って歳でも無いでしょおばさん」


「あらそう?……じゃなくて!とにかく!歳上には道を譲るのが当たり前だって言ってるんだよ!ぶつかったってんたなら、そうしなかったこのガキが悪いのさ!」


「ああ、そうですか。話通じないタイプだ、このババア」


「プ、プラティエ……良いんだ。アタシが、悪かった。ごめんなさい。アタシがどかなかったのが悪いんだ。だから、良いんだ……」


 ベルリナちゃんは、涙を溜めて充血した瞳で拳を握りしめながら、それでも俺を引き止めようとする。


「そうだよ!前見てない割に話が分かるじゃないか。それで良いんだよ、そ、れ、で!」


「うぅぅ……!」


「いや、良くないですよ」


 しかし、俺の怒りは限界を迎えていた。


「何だい、所詮あんたはぶつかってないだろう!?カッコつけたいのか知らないけどね!あんたは黙ってりゃ良いんだ……」


「【燃焼する隕石(モエーロ)】」


 俺は、クルピアちゃんと出会った際に初めて見た魔術を、呪文名のみでの簡易詠唱で使用する。


 何かあった時のため、密かに練習していた思い出の魔術だ。


 こんなクソババアを相手に使ってやるのは不服極まりないが、しかしベルリナちゃんに、人生の先輩として、ダメなことはダメだということを教えるには、良い機会だった。


「ボギャァァァァァ!」


 瞬く間に全身を炎に包まれた女は、大声で叫びながら暴れ回る。


 しかし、ここで殺人を犯してしまっては、今後の魔術師ライフに響きかねない。


 クルピアちゃん程の威力が出なかった事は、ある意味幸いだったのだろう。


「【(ヌラッセ)】!」


「ブハァァァッ!」


「【(ピカリィ)】!【(ランラン)】!」


 俺は水をかけて炎を消火する。


 そして、すぐさま目の前に差し出した右手から光と音を発し、ショックを与えて意識を奪った。


「あばば、ば」


 全身の火傷は、どこも大事には至っていない。


 数週間、全身が痛くて仕方ないくらいのものだ。


 そして、光と音によるショックを受けた女は、記憶が混乱することだろう。


 サブリミナル効果を狙って、光の中に某歴史的人物の画像を混ぜ込んでおいた。


 センシティブな話になるため明かさないでおくが、悪い意味での有名人である。


 俺と話す時に怒りで頭が沸騰していたババアは、次に目を覚ました時、全身の火傷を、この世界には存在しない歴史的人物のせいだと思うハズなのである。


 さて、ここは繁華街。


 信じがたいことに、今のような喧嘩は日常茶飯事であると聞いていた。


 その証拠に、通行人は「何だ、またいつものか」といった顔で通り過ぎていく。


「よし、ずらかるよ」


「え?あ、ああ……」


 俺はベルリナちゃんの手を引いて、急いで旧市街の路地裏へと飛び出していった。


「ふぅ。ここまで来れば大丈夫かな」


 そして、海まで続く港の近く、港湾区までやってくると、ベルリナちゃんは抑えていた涙が気の緩みで溢れてしまったのか、声を震わせながら、両手で俺を引き寄せる。


「う、う、うわあああああああ!怖かったあああああああ!」


「……よし、よし。怖かったね。もう大丈夫」


「うわああああああああん!!!アタシ、強いのに……!魔術使えば、あんなババア一撃なのにぃ……!怖かった!何も、できなかったぁ……!」


「大丈夫。突然大人に怒鳴られたら怖いよね」


「ごめん……!プラティエにばっかり、戦わせて……!」


「良いんだよ。俺がババアの態度を気に食わなかっただけだし、俺が勝手に怒っただけだから」


「うう……!ありがとう、ごめん……!プラティエ……!」


 俺はただ、彼女を抱きしめ返して、撫でることしかできなかった。


 その晩。


 俺はベルリナちゃんを宿舎へと連れ帰り、彼女の部屋で、一晩中一緒に居て慰めていた。


 そして夜が明けると、ベルリナちゃんは、いつの間にか眠ってしまっていた。


「お休み、ベルリナちゃん」


 俺が部屋を出て行こうとすると、服の裾がベッドから離れないことに気付く。


「プラティエ……」


 意識は夢の中に在っても、不安なのだろうか。


 俺は再びベッドに戻り、睡眠不足を覚悟でベルリナちゃんの側に居てあげようと、腰を下ろすと。


「大丈夫だよ、ベルリナちゃん、俺は……」


「プラティエ、アンタは……アタシのものだぁぁぁぁぁ!」


 あろうことか、ベルリナちゃんは俺に飛びかかり、両膝の裏を肩に乗せて逆肩車の体勢をとったのであった。

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