第十二話 入学試験 中編
続けて襲い来るは、実技試験。
ルールは簡単、自由に使える魔術を五分間で好きなだけ披露し、その両方の合計を競うものである。
フィギュアスケートや体操のように、使う魔術は勿論のこと、組み合わせや使い方、また純粋なパワーなども評価される、つまりは自由形の試験である。
パルグレフ魔術学院の入学試験において、筆記試験は前座であり、主に受験生達が対策してくるのは実技試験。
魔力が多いであるとか、干渉力が高いであるとか、そういった要素は勿論のことながら、使う魔術の種類や組み合わせなども評価されるようであり、時には使う魔術の使い方や精密さなどの技量で、肉体の才能による結果を覆す者も珍しくないそうだ。
また、魔術の道において生まれ持った才能は大きいものの、努力だけで天才を追い抜く魔力量と干渉力を手に入れる者もいるそうである。
パルグレフ魔術学院への進学を考えている子供達には、毎年のように《《荒れる》》試験として有名なのだと、ベルリナちゃんも言っていた。
俺は生まれつき干渉力が高い方であるとは聞いているが、魔力量はそこまで多いということは無く、特に意識して鍛えた覚えも無い。
少し不安が残るが、今からどうにかできる問題ではないため、今は試験中に変なタイミングで魔力が切れてしまわないことを祈るしか無いだろう。
試験会場前でベルリナちゃんと話していると、俺よりも先に彼女の出番が先にやってきた。
胸を張り、キラリと光る宝石が現代魔杖を持って、ベルリナちゃんはステージへ上がる。
あえてスピネラの数を絞っているのだろうか、本来は五つまでセットできるハズの宝石は、四つしか装着されていなかった。
ステージの上には、攻撃手段となる魔術を見せる場合に使える的……もとい、動かないゴーレムが設置されている。
「それでは次!ベルリナ・ミカゴさん!五分間の実技試験を始めます!用意!始めッ!」
試験官を務める青年が声を辺りに響かせると同時に、クルピアちゃんの杖が光り出した。
「いくぜっ!【妖怪変化・戦狐】!」
クルピアちゃんは右手の親指、中指、薬指の三本で杖を持ち、魔術名を唱えながら宙返りをする。
すると一つ目のスピネラ、灰色の宝石が眩い光を放った。
ベルリナちゃんの姿は、その足が地に着く前に、朱色の目と毛が刺々しく硬質化した尻尾をもつ狐の姿へ。
持っていた杖は、狐状態での動きに支障が出ないよう、背中に沈んでいった。
「ほほう、戦狐……北部の魔術ですね」
「へへっ!アタシの地元で最近開発された魔術だからな!まずはコイツでいくぜ!」
「ほう、そうですか!ここ三年くらいで生まれたものでしたよね。これを使う受験者がいるとは、驚きです!どれだけ使いこなせているか、見せていただきましょうか」
頭から尻尾まで、三メートルくらいだろうか。
人の一人や二人なら簡単に乗せることができてしまいそうな体躯。
見た目は完全に魔物である。
「話が分かるじゃねぇか先生!見せてくれよ!アタシの暴れっぷり!」
そして、ベルリナちゃんは空中へ飛び上がる。
そして大きな尻尾を振り回してハンマーのように使い、ダミーとして用意されていたゴーレムの表面を削り取った。
「ほほう、このパワー……。この歳でここまで使い慣れているとは、感心です」
「へへっ、そうだろ!それじゃ、次の魔術!【妖怪変化・喰散牙狼】!」
続けて、ベルリナちゃんは二つ目のスピネラを輝かせ、身体を巨大な狼に変化させる。
真っ白な体毛と鋭い牙、黄色く光る目をもつ、こちらも北部に生息する狼を、一回り大きくしたようなものであった。
「喰散牙狼……雪原の飢餓狼を元にした変身魔術でしたか」
狼と化したベルリナちゃんは、遠吠えと共に前足を踏み出す。
「おお、よく知ってるなぁ!流石先生だぜ!」
「ええ。それは。先生ですからね」
「北の魔術にも詳しいんだなあ、先生は!じゃあ、これを見ても驚かないかい?」
「ほう、この僕が驚くようなものを用意してくれたとは」
「ああ!【氷の礫!これを応用するんだ!」
そして、魔術名の詠唱と同時に背中に埋まった杖に嵌まった三つ目のスピネラが輝いた。
三つ目の魔術、「氷の礫」。
現代魔杖を用いる魔術の中では基礎的なものであるため、俺でも聞いたことがある。
小さな氷の塊を出す魔術であり、元は「冷却」と「水」、そして「浮遊」を組み合わせて使う形の一つだったという。
手動で使おうとすると、使い方自体は単純で簡単ではある。
三つの魔術を組み合わせて使わなければならない割に、ただ本当に小さな氷の塊を飛ばすだけの魔術であるため、あまり使われることはなかったと聞いたことがある。
しかし、現代魔杖で使う場合は、それらの工程を踏まなくて良いためか、初心者向けの魔術として扱われているらしい。
ステージを駆け回ることで勢いをつけると、ベルリナちゃんの身体はみるみる氷を纏い、やがてその周りには、小さな氷の塊が漂い始める。
「おお、生で見たのは初めてです」
「アォォォーン!」
そして勢いがついたところで、ゴーレム目掛けて突進した。
「ピギギ、ピギ……」
的代わりに用意されたゴーレムは、動かないジャンク品を流用したスクラップ同然のものであったのだろうか。
錆びついた動力パイプらしきものにダメージが入ってしまったのか、氷が刺さった部分から火花が噴き出し、機体は悲鳴を上げた。
「おお、氷の礫で突進のパワーを上げる……かなり、やりますね」
着地して人間の姿へ戻るベルリナちゃんに感激したのか、試験官は拍手を贈る。
狐と狼の変身を使いこなし、氷の礫にも慣れており、さらにもう一つ、魔術を残しているときたものだ。
齢十二にして、戦闘向けの魔術をここまで使っているベルリナちゃん。
流石、戦魔術師を目指しているというだけあるものだ。
「へへっ!じゃあ最後!一番デカいのを見せてやるぜっ!」
「四つ目のスピネラ、これが最後ですか」
「ああ!最後はこれだッ!【魔力鎧・身体強化付与】!」
そして最後、四つ目の魔術。
ベルリナちゃん自身の姿は変わらないが、身体を覆うように魔力で生成された半透明な鎧が展開される。
「おぉ……戦魔術師には鉄板の身体強化魔術ですか。これも満足に使えているとは、随分と高い目標をッ!?」
それと同時に、戦狐に変身する際には容易に宙返りをしてしまった程の身体能力が更に増したことを一瞬で理解できる程に、彼女は爆風を起こして高くへ飛び上がった。
「そぉりゃあああぁぁぁぁ!」
そして右腕に魔力を集め、自由落下の勢いも乗せてゴーレムに一撃。
本来、壊されることは想定されていなかったのだろうが、やはりベルリナちゃんの拳によって、ただでさえボロボロだったゴーレムは、原型をとどめない程に粉砕されてしまった。
「……お見事。合格……かはまだ決められませんが、私は強く推薦したいですね」
試験官が手を叩き、持っていたバインダーに何かを書き込む。
「いぃぃぃよっしゃぁぁぁぁぁぁ!」
ベルリナちゃんは魔力の鎧を解除し、飛び上がって喜んだ。
一礼をし、ステージから降りたベルリナちゃんは、俺の元へ。
ハイタッチを求める彼女に、俺は右手を差し出す。
すると、ベルリナちゃんは体勢を変えて右手を掴み、俺を抱きしめてきた。
「おぅおぅおぅおぅ、ちょ、ベルリナちゃん」
「いぇぇぇーい!見ててくれたか!?見ててくれたよなっ!凄かっただろーっ!?」
「ああ……。ソウダネ……」
「なんだよー!リアクションが薄いぞー!」
「あの、ちょっと刺激が」
「もー、さっきから刺激刺激ってー!何だよ刺激ってよー!」
そして、グリグリと音を立てながら、俺の首を腕で締めつけてくる。
「そういうとこだよそういうとこ!」
やめていただきたい。
刺激が強過ぎます。
「それでは次!プラティエ・ノルンさん!五分間の実技試験を始めます!」
ベルリナちゃんに締められていると、一息つく間も無く、次に呼ばれたのは俺であった。
「なんだよー!次はプラティエの番かよお!もうちょいジャレてやろうと思ってたのにぃー」
「た、助かったぁ。いろんな意味で」
「ちぇっ。じゃ、頑張ってこいよ!アタシ、応援してるからな!今日会ったばっかだけど」
「ああ、ありがとう」
これまで六年以上、魔術の練習を続けてきたつもりだ。
しかしというべきか、やはりというべきか。
本番となると緊張するものだ。
それでも、あの少女に鍛えられた日々の成果を示すため。
俺に魔術を教えてくれた、クルピアちゃんに報いるため。
鍛えられた成果を試験官に見せつけるべく、俺はステージに上がると、着ていた服の袖をまくって、右腕に装着している腕輪を露出させた。




