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何かが変わり始めた高1

姉は地元の国立の医学部の一次試験は受かったものの、二次試験当日熱を出してしまい、結果は不合格になった。地元の予備校では受からないと判断した姉は、隣の県の、かの有名な医学部専門予備校に入った。寮への引っ越しの日に姉は比較的ケロッとしていたが、父は帰りの車で号泣した。

姉が居なくなり、私は高校生になった。中高一貫なので、学生生活に何ら変わりはなかった。変わったのは、父と2人暮らしになって活気が減った我が家。更に私は反抗期に入った。よく喧嘩し、父は怒ると物に当たった。後に怒った父がリビングのドアガラスに頭をぶつけ、ガラスを破砕させる流血事件が起こるが、それはまだ先の話である。

私はよく電車やバスを乗り継いで1時間半かけて、母の病院へ行った。父や学校の相談をしていた。母はよく私の話を聞いてくれた。母の所へ行くのが楽しみでもあった。母は週に2回しかお風呂に入れないにも関わらず、フケや皮脂で痒くなった所を自分でかけない。私は行く度に母をブラッシングして、熱いタオルで顔や体を拭いた。ウエットティッシュ系は繊維が残り乾くと痒くなるので、病院で貰えるタオルを使う。タオルで拭いたあとは化粧水を塗って、目に入ったまつ毛を綿棒で取っていた。目にまつ毛が入っても母は取ることができない。たまに髪の毛が目に入っていて、数日その状態で過ごしていた母に胸が苦しくなった。母にいつもありがとうと言ってもらうのが嬉しくて、母が退院するまでこのルーティンは続いた。

1年生の私は努力の割に合わない運の悪さに、生きる希望を無くしていた。そもそも見返りを求めることが間違っていることにその時は気づいていなかった。

16歳になる私の誕生日は父の仕事が入り、1人で過ごすことになった。それを友達に話すと、うちでしなよとNちゃんは言ってくれた。Nちゃんの家は私が持っていないものを全て持っているように見えた。Nちゃんのお母さんは私には勿体ないほどのご馳走を振る舞い、プレゼントも用意してくれた。温かくて、嘘みたいに優しかった。私もかつて持っていた家族団欒は眩しくて、自分の惨めさを思い知らされた。善意でもてなしてくれたのに、何も持っていない私はかえって恨めしく感じた。

また学園祭のスタッフに応募したものの、出来レースで1人だけ落ちてしまい、その時は色々重なっていたのもあって、本気で死のうと思った。もう自分の人生は楽しくない。頑張っても駄目だと。しかしこれが後の演劇に繋がる。本当に人生はどうなるか、何が後に幸いするかは分からない。このことを1年後に私は思い知る。悔しかった私は色んなことに挑戦しようと決めた。修学旅行のオーストラリアでは現地の子と話すために向こうにも参考書を持っていき、積極的に話しかけた。ホストファミリーとはその甲斐もあって、仲良しだった。しかし私が最後の日にスーツケースを階段の上から落としてしまい、家の手すりを壊してしまったので、最後の最後で険悪に終わってしまった。他にも生徒会に応募したり、ディベートを頑張ったりと、今までどこか私にはできないと敬遠していたことをしてみた。この頃から少しずつ私の受動的な人生は変わっていった気がする。私はマルチタスクになり、英検2級の勉強、ディベート、生徒会、家事、試験をこなした。

二浪目で他県の予備校にいた姉は、個別指導だったことで孤立し、受験のストレスもあり精神を病んだ為、12月に家に帰って来た。それまで父は姉と深夜までよく電話をし、休みの日には姉に会いに行って励ましていた。私は土日は休みたくて、姉の元へは3回ほどしか行かなかった。夏休みに友達と姉の近くまで旅行に行ったので、3人でスパゲッティを食べた。私は旅行中の水族館で買った定規を姉に渡し、お礼に姉がサングラスを買ってくれた。姉は定規を余程気に入ったらしく、つい最近まで使ってくれていたらしい。

姉が帰ってきてからは、病んだ姉を元気づけようと父と協力して料理を頑張ったりもした。父も実家を楽しむ姉に勉強しなさいとは言えなかった。

そんなこんなで姉にとって3回目のセンター試験の日となった。試験終わりに、ご褒美でゲームセンターでマリオのメダルゲームをしたら、相当運が良く、見たことないエンディングのような所まで行ってしまった。嫌な予感がした。こんな所で運を使いたくない。キラキラ輝く台とは裏腹に、私達姉妹は同じ気持ちだったと思う。予感は的中した。その日の夜に自己採点を終えた姉が2階から降りてきた。父と私は固唾をのんだ。姉が突然泣き出し、ごめんなさいと繰り返した。私達は全てを理解し、姉を抱きしめた。目指していた国立は足切りとなった。3浪目が私たちの頭をよぎった。それから姉は国立薬学部も落ち、私立薬学部も落ちた。医学部は無理じゃないかと姉のいない所で父とで話した。しかし姉はちゃんと、高かった予備校の元を取ってくれた。一つ追加合格に引っ掛かったのだ。合格の瞬間はよく覚えている。私は姉とドラマを見ながら、ランチをしていた。面白くない展開になってブーブー2人で文句を言いながら、皿洗いをし始めた時、スマホ画面に追加合格待ちの大学の県が表示された。姉は震えながら電話を取り、入学しますと泣きながら言った。私は電話が終わった瞬間、姉と抱き合った。すぐに両親、祖父母に連絡し、皆で合格を祝った。

あの瞬間は本当に嬉しかったし、誇らしかった。私達家族が心から笑えたのは久しぶりだった。


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