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八歳で死ぬと予言されたそうで。9

「お、お、お嬢様っ。今日の誕生日のために誂えたドレスが破けてしまいますっ」


 最初に我に返ったのは、この二年で鍛え抜かれて見習いから一人前の専属侍女に昇格した彼女だったが、その声の内容を聞いて、使用人一同は心の声が一つになった。


(((いや、問題は、そこじゃない)))


「あー、そっかぁ。ごめんなさい」


 テネシスは専属侍女の言葉に素直に謝るが、使用人一同はやっぱり思った。


(((違う、謝るのは、そこじゃない)))


「お嬢様っ。お父様である方に何をっ」


 執事はハッとして立ち上がってドレスの破れや汚れを確認しているテネシスに声をかけつつレッセルを見れば、まだ四つん這いのまま。家令も我に返り「旦那様」と声を掛けながら立たせようとしたところへ。


「さ、先程の音はなんですか?」


 女性の金切り声が響いた。そちらへ視線を向ければ夫や子どもたちと同じ金髪と緑の目をした女性。言わずと知れたビアス公爵夫人・テレーザだった。尚、彼女の場合は輝く金髪というより茶髪に近く、目も水色に近い薄い緑である。テネシスの顔立ちはこの母とよく似ていた。


「お、奥様」


 テネシスのことがあってからというもの、必要最低限の社交しか行わない夫人は、ほとんど部屋に篭りきりで、体力が無い。社交も顔を出してすぐに帰るので、彼女をこの五年近くまともに見た人など数える程度。屋敷内ですら執事と侍女長くらいが、彼女と顔を合わせるくらいなので、久しぶりに彼女を見た夫や家令は暗い雰囲気のその人が公爵夫人だとは分からなかった。

 なので声をかけて夫人を呼んだのは、侍女長である。呼ばれた夫人は、なぜか四つん這いになっている夫。その隣で夫を立たせようとする家令。その向こうにいる息子と、小さな少女と使用人たちを見て、なにごと? と唖然とした。


「ど、どうしたのです?」


 夫人が事態を把握しようと問いかけたが、それをまるっと無視して


「執事、このオバサンとオジサン誰?」


 テネシスが尋ねた。


「お嬢様、こちらのお二人は旦那様と奥様、お嬢様のご両親ですよ」


 オジサン、オバサンと平然と言い切ったテネシスに慌てて執事が答える。その間にようやく衝撃をやり過ごすことが出来たレッセルが立ち上がり、おそるおそる夫の隣に立ったテレーザが「お嬢様」と呼ばれた少女を見た。レッセルは先程チラリと見たが。


「両親? コレが? というか、私に親なんていたのね。全く顔も合わせない親らしいことをしたことない人たちだから居ないかと思ってた」


 二人をコレと言い切り、親なんて居ないとにべもなく切り捨てるテネシスの言葉に、執事は悟った。きちんとお二人を親だと理解した上で居ない存在だった、と言っていることに。


「な、なんなのです、その言い方は。お嬢様、ご両親である旦那様と奥様になんたる言葉遣い。あなたがお嬢様として生活出来るのはお二人が居るからですよ」


 家令は六十代になるかならないか、という年齢で、幼い頃から旦那様の成長を見守り、支えてきたからテネシスの言いざまに腹を立てる。

 その家令を真っ直ぐに見上げ、家令は一瞬怯む。そんな家令に対して腕組みして言い切った。


「お嬢様としての生活? 確かに良い生地のドレスやら平民は食べられないだろう良い食事。誰もが受けられるとは言えない勉強。それは公爵家のお金が無ければ出来ないこと。そういう意味では、居なかったら出来ない生活をさせてもらっている。だからまぁその辺りは感謝はするよ。

でもそれって、義務だよね? 親だって言うなら、当たり前の義務。それを放棄するなら子作りだけしといた親とも言えない動物だよね。

それにさ、領民が働いて金稼いでくれて、それを税金で納めてくれた金で生活してるんだからさ、私だけじゃなく、そこの二人やお兄様や使用人たちも本当は感謝するの、そこの二人じゃないじゃん。公爵様として仕事はしているし大変かもしれないけど、それは貴族としてなら当たり前なんでしょう。領民たちに稼いでもらって税金納めてもらった金で公爵家と領地領民を守ることが当主の仕事なんだから。

それに、別にそこの人だけの成果じゃないよね。代々の当主が頑張って得たお金だし。そこの人が頑張ってないとは言わないけど、その人が当主として働いた時間全てで今の生活が賄えるわけ?

そして、ただ金稼いで最低限の生活保障してるだけって親って言えるの? それがこの公爵家の親子関係だって家令は言い切るわけなの? そこの人たちとその親は、今の私たちみたいな親子関係を築いていたわけ?」


 家令はたった五歳の子の怒涛の追い込みに言葉を詰まらせる。

 テネシス本人も全く自覚無いが、前世そこそこの年齢だったので、大人のような物の見方と考え方で、この状況は正しい親子関係だとでも言うのか、と問い詰めていた。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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