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八歳で死ぬと予言されたそうで。8

 テネシスの五歳の誕生日を祝うべく食堂で、テネシスの大好きな卵サンドやベーコンサンドにビーフシチューにクルトンたっぷりのサラダなどが並び、甘さ控えめ生クリームも控えめなフルーツケーキもあって、ご機嫌で好きなように食べていた。

 テネシスの隣にはロディが居て、デレデレとした顔でテネシスの食べっぷりを見ていた。テーブルマナーをきちんと教えられたテネシスの所作は、公爵家に相応しく綺麗で手が小さいテネシスでは、まだ大きなナイフやフォークは使えないから切り分けられているものの、大人と比べるとまだまだではあるがとても上品であった。

 そんな姿を見ると、執事は教育の成果が発揮されていると分かるし、この頃になれば、公爵家の令嬢としての責務は責務として、きちんと学習面やマナー面を学んで自分のものに出来ているので、それならば好きなことをさせても良いのではないかと考えを変えていた。

 頑固な執事の考えを変えてしまうようなテネシスである。いつの間にか使用人たちからは、きちんと公爵家の令嬢として、敬うべき主人として好かれるようになっていた。


「誕生日おめでとう、シス」


「ありがとうございます、お兄様」


 もう舌足らずな話し方も無くなり、綺麗な言語がテネシスの口から流れ出る。

 最低限の世話はされていたものの、それは本当に最低限だったため、三歳の頃は太陽の光のようなキラキラした金髪だと思われていた髪も、手入れ方法が悪かったため良く見ればボサボサだったが、今となってはツヤツヤでスルンとした令嬢らしい髪に進化している。

 その上、適当に梳られた髪は結えられることもなく整えられることもなくて伸び放題だったが、今は専属侍女以外にもお手入れ侍女がついたことで、髪の毛先も整えられるようになったし、色々な髪型も出来るようになった。例えばテネシスの目と同じ緑色のリボンを使ってハーフアップにしてもらったり、三つ編みを一本でまとめてもらった髪にしてもらったり。このときはピンク色のリボンを使用した。

 そんなことすらこの二年の間にやってもらえるようになったのは、もちろん使用人たちの心を鷲掴みにしたからである。

 何しろ放置しておくと何をやらかすか分からないアグレッシブなテネシスだから。


「このあとは何かしたいことはあるかい?」


 テネシスがフルーツケーキを食べ終えるのを見て、ロディは尋ねる。もちろん、ロディもテネシスに乞われて共にケーキを食べ終えたところだった。


「お兄様と本が読みたいわ。冒険者の物語よ」


 植物図鑑やら冒険ものの物語やら神話の物語などが大好きなテネシス。妹の可愛らしい頼みごとにロディは目を細めて了承した。食堂から公爵家が所有する図書室へ向かう途中で、ロディですら久しぶりに、そしてテネシスは物心ついてから初めて、父に会った。


 ビアス公爵・レッセル。


 ロディとテネシスと同じ金髪と緑の目をした三十代前半か半ばの、痩せて目つきの鋭い男が、家令を従えて通路を歩いていた。


「なんだこの騒ぎは。ん? ロディか。勉強が進んでいるようで何よりだが、今日の勉強はどうした? なんだ、その隣に居るのは……ああ、死ぬだけの娘か」


 久しぶりに会った父の姿に緊張して、ロディは「お帰りなさいませ」とか細い声で伝える。繋いだ手からテネシスは兄の緊張が伝わってきた。


 なんだコイツ。


 これがテネシスが父親に対して思った心情である。顔を見れば目つきは鋭くともロディが大人になったらこのような顔になるのか、というくらい兄とそっくりだが、仮にも娘に対して死ぬだけとかあんまりな言い草である。

 尤も八歳で死ぬと予言されている以上、死ぬだけと言われればそれはまぁ確かに、という気持ちではあるが。

 テネシスとしては兄をここまで緊張させ萎縮させる存在に腹が立ったので、兄の横を通り過ぎて背中を見せた父親に。


「護衛。私を抱き上げなさい。そしてそのまま前へ放り投げる!」


 見習いとして三歳のときにつけられ、二年で一人前に育った専属護衛に命じると、反射的にその命に従った護衛は、言われたことをやり遂げてから、えっ、放り投げるって拙いことじゃ……と思うより早く。

 放り投げられたテネシスは、父親の背中を両足で蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされたレッセルは、膝をつき四つん這いになったが、その背中の衝撃に言葉も出ない。さらには振り返ることは出来なかったが背後でドシン、と結構な音がした。

 このドシン、という音は父親の背中を蹴り飛ばしたテネシスがその反動でお尻から落ちて背中を打ちつけた音なのだが、父親に従っていた家令や、兄妹の後ろに居た執事や侍女長を含めた使用人たち、テネシスを放り投げた護衛、そして何より、先程まで隣にいた妹が放り投げられる瞬間まで見ていたロディは、一連の動作をスローモーションのように眺めるだけだった。


 それはそうである。


 誰が自分の父親に飛び蹴りを喰らわせる令嬢に育っていた、なんて思うだろうか。

 アグレッシブさもここまで来ると極まれり、と言って良いのかもしれない。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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