八歳で死ぬと予言されたそうで。4
「八歳までは死なないって……」
この子は知っている。自分の予言を。ロディは、さすがに三歳の子が知っている事実に胸を痛める。自分だってまだ六歳なのだ。あと少しで死んでしまう、なんて言われたら傷ついてしまう。
「うん。しなないんでしょう? はっしゃいまで」
「あ、いや、八歳で死ぬと言われたけど死ぬってなんだか分かっているのか」
キョトンとした顔で八歳までは死なないと言うテネシスに、ロディは死ぬことの意味を理解しているのか尋ねてしまう。
「うん? お父しゃまとお母しゃまとお兄ちゃま。あと、このおうちにいるみんなにあえなくなること。ええと、おはなしもできにゃいこと」
ロディの質問にテネシスなりの解釈で伝えるが、死ぬとはそういうことなのだ、とロディも執事も見習い三人衆も、改めてハッと息を呑む。
「分かって、いるのか」
「だってぇ、あたしのしよーにんが言ってたから」
ロディは喉がカラカラになってひりつきながら、言葉を搾り出すのに、テネシスは笑顔で見習い三人衆を見て、ドヤ顔までする。まるで偉いでしょう、と言わんばかり。しよーにんは、使用人。三人が話していたことをテネシスは理解していると胸を張る。
「そうだぞ! もう、誰にも会えないし、話せない。だから、怪我するようなことをして早く死んでしまったらどうする!」
コイツの所為で父上も母上も自分を見てくれない。でも、怪我をして早くに死んでしまえ、とは今は思わない。でも、凄くイライラする。
だから大きな声でロディはテネシスに言うのに。テネシスは、またキョトンとした顔で首を傾げた。
「でもぉ。よげんのひと、はっしゃいでしぬって言った。じゃあはっしゃいまではしなないでちょ」
ロディは「え」と言ったが、それは執事も見習い三人衆も同じ気持ちだった。何を言っている、と。
「よげんのひと、はっしゃいであたしがしぬって言って、それがあたるなら、はっしゃいまではしなないから、ベッドからとんでも、かいだんをポーンととんでも、やねにのぼっておちても、しなないでちょ」
テネシス以外の全員が、テネシスの言っている内容を考えた。
予言の人、八歳で私が死ぬって言って、それが当たるなら、八歳までは死なないから、ベッドから飛んでも、階段をポーンと飛んでも、屋根に登って落ちても、死なないでしょ。
と、テネシスは言ったわけだ。
「いえっ、死にますっ。さすがに屋根から落ちたら死にますから!」
一拍置いた後に、執事が顔を青褪めさせた。
まさか、公爵夫妻が八歳で死ぬから、と見向きもしないから自分たちも最低限、八歳まで生きていればいいだけの存在だと思っていたお嬢様が、こんなアグレッシブな発想をする子に育っていたとは思っていなかった。
執事は、自分が八歳で死ぬなどと聞かされたら、泣き喚くとか癇癪を起こすとか諦念の心境になるとか、そんな感じだろうから、と自分視点で考えていた。だからお嬢様のこともそんな感じに勝手に予想していて、関わるのが面倒、とまで思っていたのに。
こんなアグレッシブな発想をしている、いやポジティブな思考をしている? と予想が外れて混乱してしまい、思わず突っ込んだ。……全く関わろうとしてこなかったくせに、何を言っているのだ、と冷静な誰かに諭されるようなことをしている、と自分で思いながら。
というか、着ているワンピースが破けている。ワンピースが破けるって、もしや、もう既に何かやったのか? そういえばさっき。ベッドから飛んでも、とか言っていた。ベッドから飛んだ?
執事は、ベッドとワンピースを交互に見た後で、見習い三人衆を見遣る。揃って執事の視線から逃れるように目を逸らしたのを見て、自分の予測が合っていることを確信した。
「お、お嬢様っ! ベッドから飛んだなんて危ないことをしないでくださいませ! 怪我をしたらどうするのです!」
「だってぇ、しなないでちょ? それぇに、あたしのしよーにんはみにゃらいだよね。そうしたのは、しつじだよ。あたしははっしゃいでしぬからいいやっておもったんでちょ。みにゃらいがはなしてたのをきいておぼえたよ」
執事が思わず叱れば、自分のことは見習いに面倒を見させればいいや、どうせ死ぬからって思っていたくせに、とテネシスから指摘されて、ウッと息が詰まった。そう。テネシスのことを放置する、と決めておいて何を今さら言い出すのか、という話だ。
執事は自分の愚かさを三歳の子に指摘されて項垂れた。
仮にも自分は公爵家の執事を任せられている身。
仮令お嬢様が八歳で死ぬ、と予言されたからと言って、放置同然の扱いをして良いわけがなかった。
他の使用人であれば、一から出直してくる案件であった。
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