八歳で死ぬと予言されたそうで。31
「ところでルワンさん、ルワンさんの予言って当たるんですか?」
好奇心で目をキラキラさせてテネシスが尋ねる。その無垢な輝きに申し訳ない気持ちになりつつ、ルワンは答えた。
「いいえ、当たらないわ。私が予言者の恰好して会ったのは、テネシスちゃんとジョシュ殿下の二人だけ。私にそんな予言の力とか無いし。ただの八つ当たりの嫌がらせだから」
つまり、予言が正しいのか全く分からないということ。
ということは、ジョシュとテネシスがその年齢で死ぬなんてことも無いかもしれない、ということで。
テネシスは非常に落胆した。
「そう……なん……ですね……」
あからさまなガッカリ感である。
「本物の予言者じゃなくてごめんなさいね?」
ルワンは失意のどん底のようなテネシスに、本当に申し訳ない気持ちになる。きっと予言者という存在に憧れてしまったのだろう、と。いや、でも、この子と会ったのはこの子が赤ちゃんの頃よね。などとルワンは内心で首を傾げる。
「いえ……まぁ仕方ないです、から……」
全く浮上しないテネシスは不幸を背負ったような表情で、ルワンはこんな幼子を八つ当たりとはいえ傷つけたことに罪悪感を覚えた。
「で、でも、ほら、本物じゃないからっ! テネシスちゃんもジョシュ殿下も長生きできるわ! 元気出して安心してちょうだい」
コレを聞けば喜ぶだろう、と思っての発言だったがテネシスを他の人と同じ感性の持ち主だと思ってはいけない。
それを聞いてジョシュ殿下本人を含めたテネシス以外の人、は喜ぶかもしれないが。
「だから残念です……。八歳で死ぬわけじゃないのなら何をしても死んでしまう、ということになってしまいます。折角階段の一番上から一番下まで飛ぼうと練習していたのに。きっと跳んでも死なないだろうし、屋根の上から飛び降りても死なないだろうし、お城の壁を登って落ちたとしても死なないだろうって思っていたのに……」
ルワンはまさか五歳の女の子がそんなアグレッシブな行動を実行したくて落ち込むとは思ってもみなかった。いや、というか、八歳で死なないことが分かったのだから喜ぶべきではないのか、と本気でこの子大丈夫かしら、と心配した。
自分の八つ当たりによる予言者とか訳の分からない存在の言動によって、一人の貴族令嬢の思考をぶっ飛んだモノにしてしまった、と思ったら心底申し訳なく思った。
だが、安心して欲しい。
多分おそらくルワンの所為では無い、はすだから。
国王もデフティールもなんでこんなアグレッシブな子に育ってるの、とレッセルを見たがレッセルは二人からの視線に耐え切れず、そっと目を逸らした。
まさか、八歳で死ぬことを本気にして、夫婦揃ってテネシスを放置して親子の情など育んで来なかった、などと言えるはずもない。
だから、なんでこんな風に育ってしまったのかも分からない、などと口が裂けても言えない。
国王もデフティールも口には出さないが、多分テネシスに公爵が何かやらかしたのだろうな、と何となく察した。
「いや、それ死ぬわよ! 死ななかったとしても大怪我するからね!」
ルワンはハッとして真っ青な顔で突っ込んだ。
最早一応元凶の彼女にすらテネシスは突っ込まれるような子であった。
「そう、ですかぁ。残念です。仕方ないので木登りとか護衛に混じって剣の鍛錬とか護身術とかで我慢します」
それも公爵令嬢という貴族の最高位の立場の子がやることじゃない、とは、ルワンも突っ込めなかった。いや、剣の鍛錬は良い、のか? 護身術も身を守るのに必要かもしれない? そう思うことにしよう。
「ところでルワンさん、ノラン様とどう入れ替わるんですか」
ちょっと、いやかなり落ち込みつつも、テネシスは気になったことを尋ねた。
「ああ……ええとね。ノランは父親からかなり抑圧されているでしょう? 父親の作ったルールを常に意識して生活しているんだけど、そのルールに反発したいのに反発出来ない、強い気持ちが生まれると入れ替わっているわ。あと、逃げ出したい気持ちが強い時。反発してしまったらそれこそノランという人格が壊れるもの。彼を壊さないために私という人格が生まれたのだから、そのために入れ替わるの。今回なら、呼ばれてもいないのに、使用人たちの噂でテネシスちゃんが国王陛下の元に居ることを聞いて、テネシスちゃんに会いたいとやって来てしまったでしょう。つまり陛下に呼ばれて陛下の元を訪れるというルールを破った、ということ」
ほうほう、とテネシスは納得した。
前回ノランに会った際、ノランはテネシスに興味を持ったから会いたかった。でも呼ばれてないのに勝手に会えない。でも会いたいと思って行動したことで、ノランとルワンが入れ替わったようだ、と知って、テネシスはデフティールをチラリと見た。
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