八歳で死ぬと予言されたそうで。30
さて。大人三人が同情心で満たされているのとは逆に、心底不思議だったのはテネシスである。
「それは同情する話だと思いますけど。自分の存在を消してやりたいこともやれないのは辛いでしょう。でも、予言者を演じたのは何の理由がありますか」
大人たちはギョッとした。
えっ、予言者はノランなの、という気持ちである。
「あら、やっぱり賢い子ね。分かったの」
「そこの公爵様に私が生まれた話を聞いて、予言者をお勧めしたのがノラン様。でもご本人は記憶が無い。でしたら覚えていらっしゃるルワン様かなぁ、と」
ルワンはそうよ、とあっさり肯定し、女性が苦手になっていたノランは、父親から結婚或いは婚約者を決めるように言われてストレスになっていた。八つ当たりというわけではないけれど、子どもが生まれたビアス公爵を嫌に思っての、嫌がらせよ、とルワンは説明した。ついでに先日ジョシュ殿下に予言者として会ったのも同じ理由、と意地悪く笑う。
国王やレッセルとしては、そんな八つ当たりで家族仲を壊されたのは、と一瞬怒りが湧いたのだが。とはいえノランの身の上話を思い出すとその怒りも消えてしまう。
「ノランの話を聞いてしまえば、怒るに怒れないが。だが息子の心を傷つけたことは確かだし、同じ王族とはいえ、身分差を考えると処罰案件だ。どうしたものか」
国王は困惑しつつ、予言者事件が急展開で解決したことを喜ぶべきなのか、だが処罰対象になるようなことだし、と頭を悩ませる。
「陛下、おそれながら。仮令ノラン様ご自身が知らずとも、もしかしたら国が混乱したかもしれない案件。処罰はした方が良いのでは。予言者の予言があったことで我が公爵家の家族仲が壊れる寸前でしたので」
それを聞いていたテネシスは、何言ってんだコイツと本気でレッセルに対して思った。
なに、自分の家族は被害者だと被害者面しているのだ、と。
「ねぇ、ルワンさん」
突然テネシスに話しかけられたノラン、いやルワンはなぁに、と首を傾げる。
「ちょっと重たいかもしれないですが私を抱き上げてください」
うん? と首を傾げながらも彼女はテネシスを持ち上げた。五歳児だからそれなりに重たいし、長く抱き上げられはしない。そのままあの公爵様の背中に向けて私を放り投げて、とテネシスに言われて目をパチクリさせながら、ルワンはテネシスを言われた通りに放り投げた。
王城に召喚されているので、五歳児ではあるがそれなりに重たいドレスを着て子ども用のピンヒールを履いているテネシスは、国王にノランいや予言者に扮していたルワンへの処罰を抗議するべく、国王の前で力説を振るっていたレッセルの背中を両足揃えて蹴り飛ばした。
二回目である。
その衝撃は一度目と同じく油断していたレッセルは、両膝をついて四つん這いになった。
国王陛下の御前でそんなふざけた情けない恰好をする羽目になって、羞恥心が公爵を襲うがそれ以上に。公爵家で喰らったときよりも王族の前に出るから、と張り切って侍女に着飾られたテネシスである。
ドレスは公爵家で着ていたものよりも生地は厚くレースも倍は使用され公爵家でのドレスはリボンとレースだけだったというのに、今はドレスの裾に小さな宝石が鏤められてその分だけ重みがある。
ということで、レッセルは痛みの呻き声を上げる羽目になった。そう、羞恥心よりも痛みが強い。
だが、辛うじて四つん這いから体勢を立て直し、再び飛び蹴りを喰らわせてきたテネシスの方を振り返れば、家の時と同じく尻餅を付いていたので、よっこらせ、といった様子で立ち上がったテネシスと視線がかち合った。
なにかレッセルが言うより早く「どの口が言えるんだ、それ」と小さな声で抗議が聞こえてきて、レッセルは何も言えない。自分がテネシスに何をして来たのか、謝っても許されていないことを仕出かしたのに被害者ぶるな、と表情で語られ、一連の出来事を無かったことにした。
だが。当然一連の出来事を見ていた国王・デフティールは呆然とし、テネシスを放り投げたノラン改めルワンも呆然とした。
そして、一連の出来事を無かった事にしたかったレッセルの気持ちなど意に介さず
「なに、偉そうなこと言ってんのさ。家族仲が壊れたのは自分たちの所為。ノラン様の所為でもルワンさんの所為でも無いから」
ふん、と腕を組んでふんぞり返ってテネシスは、ハッキリキッパリ突き付けた。
この場にビアス公爵家家令と執事が居たら、顔を青褪めさせて叫び出す寸前の姿が見られたことだろう。
「ブッ」
ブフォッと笑ったのはデフティール。笑っちゃいけない場面だろうが、というか公爵という貴族家の頂点の爵位に居る人が、娘に飛び蹴り喰らうって……と笑いのツボに入った。
その上、その娘は満面のドヤ顔である。
これで笑わない方が無理というもの。
ルワンも釣られて笑い始め、国王も半笑いの状況になってしまったため、事態の収拾がつかない。
そんなカオスの中で、テネシスはふと気づいたことがあった。
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