八歳で死ぬと予言されたそうで。3
「あああああっ。ワ、ワンピースがぁああ。お嬢様のワンピースぅううう」
叱られるかも、いや、お金を払えって言われる? どうしたら、どうしたらいいか。
見習い三人衆がパニックになって叫んでいると、その喧騒が聞こえてきたのだろう。
「何事だ」
この家の使用人たちの中で二番目に偉い……執事が現れた。三人衆は血の気が引く。どうしよう。叱られるどころかクビにされて借金を背負わされるかも、と考えれば考えるほど説明する言葉が出てこない。
執事がテネシスに与えられた部屋に入って来る直前に、三人衆が頭を下げて謝るよりも早く。
「なに、うるさいんだけど」
執事の背後から静かに、でも幼い男児の声が聞こえてきた。
テネシスの兄・ロディの登場である。
なぜか言葉を教える前から言葉を理解出来ていたテネシスは、執事の隣に立つ幼い男児を見て、自分の兄だと分かった。
未だに見習い三人衆の一人、護衛に抱っこされていたテネシスは、下ろすように言う。この状況でパニックに陥っていた見習い三人衆なので、なんにも考えずに護衛見習いはテネシスをそっと下ろした。
途端にテネシスは、タタッと走って兄に近寄る。執事が咄嗟に兄を庇おうとしたが、僅かの差でテネシスの方が素早く。
「お兄ちゃまっ」
満面の笑みで彼女は兄を呼んだ。
既に妹を嫌いになっていたロディは、呼びかけられても冷めた目を向けるだけ。
コイツの所為で父上は仕事ばかりで自分を見ない。
コイツの所為で母上は嘆くばかりで自分を見ない。
こんなのが生まれて来なければ良かったのに。
そう思って、彼は彼女から視線を逸らし、見なかったことにする。……いや、しようとした。だが。
「お兄ちゃま、あそびましょう」
テネシスは、兄の服を引っ張って動きを止める。言われた言葉に「は?」と胡乱なものを見るような目を向け、そんなロディを見て執事が慌ててテネシスの手からロディの服を取り戻そうとしたのだが。
子どもというのは遠慮が無いし、力加減も出来ないので、服を破かないように、などと配慮している執事の力より勝ててしまう。
つまり、全く引き剥がせない。
「は、離せ」
ロディは、執事がダメそうなのを悟り、テネシスから服を取り戻そうと服を引っ張る。だがテネシスも負けていられない。何度も服を離せ、と言っているのに離さないテネシスに、とうとうロディは、力一杯テネシスを押し退け、ようやく服を取り戻した。
テネシスは押し退けられた拍子に転んで背中を打つが腐っても公爵家。テネシスの部屋の絨毯は毛足の長いものでフカフカしているので痛くない。怪我ない。
だが、ロディはハッとして、テネシスに手を差し出し怪我をしていないか案じる顔を見せる。
そんなロディに構わず、テネシスはケラケラと声を上げて笑った。
「な、なんだ、笑うなど」
テネシスが泣くと思ったので笑っていることに、ロディは居心地が悪くなる。
「だってお兄ちゃま、やさしい」
「や、やさしい? 優しくなどないっ」
「やさしいよ。あたしがケガをちていないのか見てぇるもの」
ロディは、テネシスに指摘され、グッと押し黙る。
「け、ケガをしたら死ぬから仕方ないだろ! どうせ長く生きられないんだし!」
そこまで言い放ってハッとする。こんな小さな子に死ぬとか生きられないとか言うべきじゃない、と思ってのことだったが。
ケロリとした顔でテネシスが言った。
「んー、でぇもぉ。でもにぇ、お兄ちゃま。あたし、はっしゃいまではしなないんだよ」
ロディは、えっと絶句した。
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