八歳で死ぬと予言されたそうで。29
「本当に賢い子。ノランが気に掛けるのも分かるわ。私はね。ノランの中のルワン。よろしくね」
今度は悪戯をしてそれを見つけられてしまった子どものような笑みでその人は自己紹介をした。
「ルワン? それは、ノランの母の名だ」
聞いていた国王の呟き。ノランではなくルワンと名乗ったその人が国王に頭を下げた。
「ええ。その通りでございます。そして私はノランの中に存在するルワン。ノランは私のことは知りません。だからノランが私に会ったと言うジョシュ殿下やビアス公爵の話を嘘だ、と思うことも嘘では有りません。ノランがこのテネシスという子を気にしていて、珍しくルールを破ろうとしていたから、私が代わりました」
説明なのだろうが全く理解出来ない説明だったため、国王は何も言えない。それが分かっているようにノラン改めルワンが話は長くなりますが、と前置きして、自分の存在について語り出した。
「抑々の始まりは、ノランの父親が過剰にノランを締めつけることから始まりました」
穏やかでけれども冷たい、そして不思議なことに顔はノランなのに語りかける口調は女性のそれ。
ルワンと名乗ったその人は、ノランが父親から抑圧されてきた幼少期から少年期を過ごしてきたことを伝える。王家はどういうわけか子どもの生まれる数が少なく、代々の国王は子が一人ということもわりと多い。
二人生まれたら素晴らしい、と言われる程で、ゆえに今の王妃は王子を二人産んだことを夫である国王も臣下たちも万歳を唱えたとかなんとか。それほどに子どもが生まれにくい王族。
ノランの父親の場合は。異母兄の母が異母兄である前国王を産んだときに亡くなってしまう。何年かは王妃不在のままだったが、それでは国が上手く回らないことから王妃選定にて、ノランの祖母が後妻として王妃の座に着いた。
後妻とはいえ王妃であることから教育は大変だったと思うが、加えて子を身籠り産んだことで王妃としての責務と共に、かなり精神的にストレスが掛かったようだ。長い間病がちで公務も少なくしてこなすのが精一杯であった。
そんな母を見てきたからか、ノランの父親は早くから王位継承権は持つものの異母兄が国王だ、王弟として異母兄を支えるのだ、と周囲に伝えていた。母はノランの父親が成人する前に亡くなったことで、余計にそう言っていたのかもしれない。
そして異母兄が国王の座に着いてから娶った妻や子にも、その姿を受け継がせていた。
つまりそれがノランの母であるルワンであり、ノランである。
妻子もそのことに文句は無かったが、異母兄の息子、つまり今の国王は身体が弱かったために、従兄弟のノランを国王の弟として迎え入れるべきでは、という話が出た。だが、それを突っぱねたのがノランの父親で、息子を表舞台に立たせないよう、極力目立たないように、と育ててきた。
「好きなことや楽しいことやりたいことを制限されたノランを見て、母であるルワンは胸を痛め、夫にあまり締めつけない生活を進言していたけれど、改善されないまま。そしてルワンは失意のうちに病を得て亡くなりました」
ふぅ、とノラン改めルワンが息をついて続ける。
父親と二人きりになったノランは社交場に出ることも極力控えるように父から言われ、軽薄そうな人柄の者とは交流をしないように厳命され、ノラン自身は気づいていなかったが、抑圧された人生は少しずつ澱のようなものが溜まっていった。
「それが噴き出したのは自分に仕えている女性、つまり侍女に寝所へ入られたときでしたわ。身の危険を覚えたノランは父に告げた。侍女は解雇されましたが、父親はノランにも隙があったことを叱り。そうしてノランは自分の所為でも無いことまで叱られて限界を迎えましたの。そうして彼は自分も知らぬうちにもう一人の自分……つまり、私という存在を生み出した。私はノランの抑圧された人生から逃れたい気持ちから生み出されたノラン。母のルワンという名の存在であるのは、女から襲われたことで理想の女性は母しかいない、と思ったから。自分がルワンになることで、自分を解放したかった。でもルワンという存在を受け入れることが出来なくて、ノランはルワンというもう一人の自分のことを知らないまま。ちょうどその頃にノランの父親が病に倒れたこともノランの心が悲鳴を上げてルワンである私を生み出した一因。父親まで居なくなったらどうしよう、という恐れもあったのね。そうしてルワンという私はノランが決められたルールから逃げ出したい、と思ったときに現れるようになったの」
おしまい、とノランの姿をしたその人、本人曰くルワンが言う。
国王とデフティールは、ノランがそんなに追い詰められていたなどと知らず、ルワンの告白を聞いて胸を痛めていた。確かにノランはいつも自分を抑えているような、どこか生きづらさを感じていた二人である。
殆ど影が薄くなっていた公爵家当主のレッセルも、ノランの身の上話を聞いて同情していた。
但し情を持つなら先ずは娘に情を持つべきで、テネシスがレッセルの同情心を知ったら鼻で笑うだろう案件である。
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