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八歳で死ぬと予言されたそうで。27

「伯爵、あい分かった。尚、伯爵の知る限りで良いが治る見込みはあるか」


 予言者のことも分からないが心の病という未知の領分ゆえに、国王は取り敢えず他国の知識を仕入れているらしきデフティールに尋ねた。


「私も専門家では有りませんから何とも申し上げられません。ただ、私がお伝え出来ますことは、私や友人たちに会っていないと仰り、公爵様にお会いしたのに会っていないと仰ったことから分かるように、記憶が欠落する病ではないか、と思われます」


 記憶が欠落する病とは記憶喪失ということか。それは心の病なのか。国王がその辺りをデフティールに問えばデフティールは首を傾げつつ答える。


「正しいかどうか分かりませんが、記憶喪失というのは記憶を失うということ。欠落するというのは一部だけを覚えていないことでは無いか、と推測します。思い出を全て失うのが喪失。ある程度の年齢のことまでを覚えていて、それ以降を忘れてしまっていることも喪失。或いはその年齢までの記憶退行。欠落はその記憶のみを覚えていないことか、と。そんな事象の病があるのか探してみましたところ、何か心に負荷が掛かると起こりうると今年入手した他国からの本に記述されておりました。ですので、心の病の可能性が高い、と思われます」


 デフティールは説明と共に、最初から見せるつもりだったのだろう、この本です、と国王に差し出す。身分上手渡しが出来ないため、一旦レッセルがデフティールから預かり国王に渡す。


 そのやり取りを見ていたテネシスは、ああ、公爵という身分が役に立っているんだ、と感心した。テネシスの中でレッセルは父としての尊敬も公爵としての威厳も何も存在していないようである。

 関わって来なかった現実が、レッセルは知らずともそこに有った。


「ふむ。この記述だな。なるほど、心に負荷がある時に、忘れてしまうことがある、と。だが、この記述であるとその記憶自体が負荷になるために忘れようとしてしまうようだ。友人との約束が忘れたいほどの負荷になるものか?」


 国王は速読が身に付いているのか、パラパラと本に目を通したと思ったら目的の箇所を見つけ、そんなことを言う。デフティールは、強く頷く。


「そうなのです。私もその辺りのことは分かっておりません。専門家である医師を招いて診てもらうくらいしか私が進言出来ることは、有りません」


 悔しそうに口にするデフティール。友として何もできないことを口惜しく思っているようだ。


「お話に割り込みます。伯爵さま、ノラン様の心に負荷があるとしたら、なにが負荷だと思いますか?」


 大人しくしている、と思われたテネシス。大人しくしていたわけじゃなく様子見していただけである。疑問をデフティールにぶつけるが、それは国王もレッセルも考えていたこと。


「負荷の理由……」


 デフティールは改めて尋ねられると思い当たることは一つしか無い。


「おそらくお父君が病で倒れたこと、でしょうね」


 その辺りからノランに変化が起きたと思うから、とデフティールは続ける。国王もレッセルも納得する。テネシスもふんふん、と頷き「じゃあ」と切り出した。


「ノラン様のお父様の病気が治ればノラン様も元通りに?」


 それは、どうだろう。

 ノランから詳しく聞いていないが何年も伏せっているのであれば、ノランの父の病気は治らないのではないか、とデフティールは思う。さすがに口には出せないが。


「それは難しい。叔父上の病は起き上がれることもあれば寝込むこともあって治るかどうかは分からない、と叔父上の医師から聞いておる」


 デフティールの代わりに国王が返事をする。


「そうだとすると、ノラン様も治るか分からないですよね」


 尤もなテネシスの指摘に、大人たちは内心で肯定する。治らない、とは言いたくないから肯定しない。


「荒療治なるものを試してみるのもあり、か」


 国王の発言にデフティールは無言だが、反対なのか表情が曇る。

 国王の発言にはレッセルが反応する。国王はこの本に、荒療治という衝撃的な方法を用いて心の負荷を減らす療法が記述されている、と説明した。但し、衝撃的な方法であることから心に別の負荷を強いることにもなるので悪化してしまうこともある、とも書かれているらしい。

 さらには衝撃的な方法がどんな方法ならば治る可能性があるのかも分からない、というリスクがあるとも書かれているとか。


 それは躊躇すべき療法では?

 デフティールが表情を曇らせるのも分かる。

 レッセルがそう口にするより早く。


「じゃあ、お城の壁登りをしましょう!」


 どこまでいってもアグレッシブなテネシスが、第二王子であるジョシュに落ちて怪我をすると困るから、と止められたはずの城壁登りを元気いっぱいに提案した。

 この場にロディが居たら、きっと「お嬢様、おやめ下さい」という悲痛な執事やテネシスの専属侍女の叫び声の幻聴が聞こえていただろう。


 居なくて良かったのか悪かったのか。それは誰にも分からない。


「城壁登り⁉︎ いや、それ落ちたら大怪我か死んじゃうからっ! どっちもノラン様にそんな目に遭わせられないよっ」


 幻の執事ではなくデフティールが速攻で突っ込んだ。そしてデフティールは理解した。

 頭の良い人はどこか変わっている、と聞いたことがあるけれど、この子はその見本だ、と。

 そんなデフティールの内心を知る由もないテネシスだが、確かにノランに怪我をさせてしまっては病気を治せないか、と頷く。


「確かに怪我しちゃったら心の病が治らないですもんね!」


 そして、彼女の中でノランは完全に心の病を抱えた人に位置付けられていた。確定もしていないのに。


「う、うん」


 いや、そうなんだけどそうじゃない。

 デフティールは内心の突っ込みを口にして良いのか迷って、そんな曖昧な相槌を打つ。

 そんなデフティールの内心なんてなんのその。テネシスは追撃する。


「じゃあ死なない、怪我もしない、牢屋にお泊まり会をしましょう!」


 ……これも諦めていなかったようである。


「いや、なんで⁉︎」


 デフティールの全力の突っ込みに、この場に居ないロディと公爵家使用人たちが居合わせたとしたら「分かる、分かるよ、その気持ち」と一斉に激しい同意を得たことだろう。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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