八歳で死ぬと予言されたそうで。25
「伯爵さまは、ノラン様のご友人だとか」
興味津々の様子のデフティールに、直球で質問を投げかけた。デフティールは貴族にしては珍しく顔に出るタイプのようで、あからさまに動揺している。
「ビアス公爵令嬢は……陛下から聞いたけれど、ノランのことを優しいと発言したんだって?」
デフティールはどこまで国王から聞いているのか分からないが、テネシスはその質問に頷いておく。それからデフティールにテネシスで良い、と言った。
「テネシス嬢は、ノランの何が知りたいのかな」
デフティールは相変わらずテネシスから視線を外さないで尋ねる。ちょっとでも外したら何か悪いことでも起こるとでも思っているのだろうか、というくらいである。
「なにを……いえ、別に何も? 伯爵さまは、国王陛下から予言者について聞いていらっしゃいますか」
ノランのことを知りたいか、という質問には知りたいことは何もないと答え、デフティールを驚かせる。動揺したり驚いたり忙しないことだ。
それからテネシスはさらに直球で尋ねた。予言者の一言に、デフティールは動揺というより怯えのような表情を浮かべた。……貴族社会でやっていけるのか他人事ながら心配になるレベルで顔に出ている。
「テネシス嬢は、予言者を信じている?」
その怯えた声音に潜む恐れがなんなのか、テネシスは知らない。知りたいとは思わないが、話すのは構わない。だからデフティールの怯えは無視して、質問にだけ答えた。
「信じているかいないか、なら、分からない。会ってもない人を信じるのは難しいので」
単純明快な答えにデフティールは、安堵の息を漏らしてから苦笑した。それはそうだね、というような。
それから意を決したようにデフティールは国王へ視線を向けた。
「陛下に申し上げたきことがございます」
「聞こう」
デフティールがノランについて何かを知っていることは国王も分かっていた。無理に聞き出そうとしなかったのは、国王の命で口を割るくらいなら自死を選ぶような気概がありそうだったからだ。雰囲気の問題だったが。だからこそ、テネシスに会わせてみたいと思い、今に繋がった。
「ノラン様は、おそらく心の病を患っています」
室内を沈黙が満たし、時が止まったような空気になった。
その一言を口にするのは、とても勇気がいったことだろう。
王族に対する不敬だと咎められてもおかしくないのだから。
実際、デフティールはテネシスへの興味津々だった表情とは打って変わって、顔色を青褪めさせ両手は握り拳で全身が震えている。相当怯えているようだ。
若き伯爵は、ここで自分の命が終わりを迎えても仕方ない、とも思っているのだろう。
それでも進言しよう、と思ったのは、テネシスと会ったことで彼の中で何らかの変化が起きたからだろうか。
それにしても、心の病、とはどういうことなのか、国王は内心で葛藤する。
そんな国王の内心などもちろん知らないテネシスが、「あ、やっぱり」なんて、のほほんとした口調で相槌を打ったので、国王も傍観者と化していたレッセルも、そしてデフティールさえも信じられない、という顔でテネシスを見た。
……全員、顔に出さない教育をすっかり忘れさっているようである。
「テネシス嬢、な、なぜ、やっぱり、と?」
衝撃から一番に復帰したデフティールが尋ねると、うーん、とテネシスは首を傾げてからその根拠を口にすることにした。
と言っても、彼女の中ではただの違和感であり、確たるものでは無かったのだが。
「ノラン様は嘘を吐いてない様子でした」
「うん」
テネシスがそう切り出したのでデフティールは、頷く。
「で、一応、父親らしいそこの公爵様と、母親らしいその奥さんも、まぁ嘘を吐いている様子は無さそうだったんです」
「う、うん?」
なんでこの子、自分の親に対して知人扱いというか、いや他人扱いのような言い方をしてるの? とデフティールは混乱しながら、一応頷く。
国王はテネシスの物言いに、レッセルに視線を向ければ、何とも表現し難い表情を浮かべているのを見て、何かやらかしたのか……と納得したが、今はそこを気にしている場合じゃないので放置した。
「それから第二王子殿下も予言者に会っている、と陛下から聞いてらっしゃいますか」
「あ、聞いております」
テネシスの確認にデフティールは認める。
「第二王子殿下も嘘を吐いてない様子でした。ノラン様も公爵様も第二王子殿下も嘘を吐いてない。でも予言者という女性は、公爵様も夫人も、私のお兄様も、第二王子殿下も会っている。それもノラン様が関わっている様子で」
両親は親とは言わないのに、兄を兄と呼んでいる辺り、何かあったんだな、とデフティールも理解できたが、そこは突っ込まないで置いておく。
そして、ジョシュさえも予言者に会っていることを口にして嘘とは思えない、とテネシスが言う。その予言者にはノランが紹介したわけではないが、ノランに近しい人ではないか、と疑わせるような形だった、とテネシスが説明した。
「……うん」
「誰も嘘を吐いてない様子なのに、状況としてはノラン様が嘘を吐いているような状況。それならば、ノラン様が嘘を吐いている自覚が無く嘘を吐いている、とか。ノラン様自身、全く記憶に無い出来事が起きている、とか。そんな感じかなぁと思っていたので。そうなると病気の可能性があるのかな、と思っていただけです。そうだ、と思っていたわけじゃ無いですよ」
自分の中にある違和感を五歳でこんなに明確に説明出来るものか、とデフティールは感心する。とても賢い少女というのは本当だった、と。
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