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八歳で死ぬと予言されたそうで。22

「公爵と言えどもそのような訳の分からないことを言ってくるとは不快ですね。陛下、お呼びの件は何でしょうか。もしやこれでございますか」


 はっきりと不快だ、と言い切ったノランに国王も押されてしまう。ここまで来ると演技とは思えない。これで演技だとすれば、国王を謀っているということに成りかねないからだ。

 一方でジョシュと公爵夫妻が、ノランの知人と思われる予言者なる女性と会っていることも嘘だとは思えない。公爵も夫人も子どもたちを連れてきてまで嘘を吐くとも思えないし、息子であるジョシュが余命宣告を受けた、などという嘘を吐くとも思えない。

 顔には出さないが国王は内心混乱していた。

 ノランは黙った国王を見て、呼び出された用件がこの話だと気づいて不敬かもしれないが、さっさと帰りたくなってきた。


「父上の容体も気になりますし、戻ります」


 王城の片隅の自分たちが住まう区域に。


 言外にそう言ったノランが踵を返そうとしたところで、少女の声が聞こえてきた。


「身分が下の私からお声がけする無礼をお許しくださいませ」


 確か、公爵の娘か。振り返ったノランは、五歳の少女の精一杯のカーテシーに軽く頷く。

 ノランから少女に声を掛けていないから無礼だと分かっているのに声を上げてきた。少女のその勇気に応えようとノランは名乗り少女の名を問うた。テネシスと答えた少女に、何用かと尋ねる。


「ノラン様、三つお尋ねしたいことがございます」


 もしやこの少女までも予言者云々(うんぬん)などと言って来るのか、と不快には思うものの未だ五歳の少女だ、声を荒げることは止めようと自身を宥めながら促す。


「聞こう」


「ありがとうございます。ノラン様。では、お言葉に甘えまして。一つ目でございます。ノラン様のお父様には女性のご友人はいらっしゃいますか」


 予想と掛け離れた質問だったので、ノランは目を丸くした。

 その表情は影のある雰囲気など消し去っていて年相応、いやそれよりも幼くあどけないものに見える。ノランは少し目を瞬かせてから、質問に答えるため表情を引き締めた。

 少女の意図する質問は、ノランの友人・知人の女性ではなく父の友人・知人が予言者云々の女性のことだろう、と思ったから。


「確かに父に女性の友人も知人も居る。だが、父が病を得てからは夫人方の見舞いは断っている。もう七年か八年くらいは夫人方は来ていない」


 予言者とかいう怪しげな女性は知らぬぞ、と言外に少女に告げれば、分かったのか分からないのか、ふんふんと頷いている。

 唐突にノランはこの少女が年齢よりも大人びているような雰囲気に気づいた。

 いくら公爵令嬢でもこれだけの王族が揃っているというのに、全く怯えた様子は無く、その上令嬢特有の「王子様の婚約者の座」を狙う様子など全く表情に見られない。

 公爵令嬢でも五歳なのに、こんなに王族に対する感情が見えないのも珍しい。淑女教育の賜物か、とも思っていたが、ノランの質問に対する答えにはきちんと表情を浮かべた。

 つまり淑女教育の賜物で表情を読ませないのではなく、王族にこれっぽっちも興味が無いことをノランは理解した。

 五歳でもそんな少女が居るのか、とノランは驚く。


 そんなノランの驚愕など当然知らないテネシスは、続いて第二弾、と質問を続ける。


「では、ノラン様のご友人の男性やノラン様のお父様のご友人とかで女性の姿になりたくてなっている方はいらっしゃいますか」


 その質問の意図は読めず、ノランは言葉を失い返事に窮する。尚、この質問の意図はこの場にいる誰もが不明でノランに負けず劣らず内心では全員が困惑していた。


 沈黙。

 テネシスは催促することもなく黙って答えを待っている。


「いや、私の知る限りでは居ない」


 ややしてから我に返ったノランが返事をすると、テネシスはほうほう、とまた頷いていて、ノランは目の前の少女の懐の深さに気づいた。

 戸惑っているノランの心を分かっているように待つことが出来るとは、五歳にしてなんとよく出来た少女か、と少し感動する。


 が。

 ノランのそんな勘違いにテネシスが気づいているわけはなく、テネシスの気持ちとしては、まぁ知っていたとしても知らないとか言うよね、人のプライバシーに関わることだもんねぇ、というのほほん思考で待っていただけのことである。


 どこからどう見ても、ノランの思う懐の深さなど有りはしない。


 取り敢えず、質問の答えが返ってきたので最後の質問。


「ノラン様が余命宣告を受けた人に会ったら、どのようにお声がけしますか」


 先程までの明るい声音の質問とは打って変わって、テネシスは静かにその問いを投げかけた。


「余命宣告?」


 問われたノランは、この少女が何を言い出したのか分からない、というような表情を浮かべる。王族として育てられ表情を読まれるのは足元を掬われる、と知っているのに。

 予言者云々についての質問での不快な表情は、あくまでも彼がわざと見せていたものであるが、テネシスからの質問は全て、素の表情を見せていた。それでも二つの質問は何とか立て直していたのに、この質問は本当に訳が分からず、戸惑いしか浮かべていない。


 テネシスはその表情を見て、ノランという人は、嘘を吐いてないし演技もしてないし何も知らないようだ、と判断した。

 それは分かっても質問の答えは知りたいので待つ。


「余命宣告か……。何も言えないだろう。慰めの言葉をかけても安易なものに聞こえるだろうし、その人が親しければ親しいだけ、掛ける言葉が浮かばない」


 テネシスは、なるほど、と深く頷き、ありがとうございました。と頭を下げた。


 ノランは、少女がこの後何かまだ言って来るかと思ったが、それ以上何も言って来ないことから、少々戸惑い国王を見る。国王はノランの視線を受けて退室を許可したので、戻る気が失せて少女に興味を持ったノランだったが、仕方なく退室した。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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