八歳で死ぬと予言されたそうで。2
「しょれじゃ、いっくよー」
訳:それじゃ、行っくよー
テネシスは、腫れ物扱いされてはいるが、ご飯はきちんと朝晩出してもらえるし、公爵令嬢として最低限の衣装は揃えられていた。父に見限られていても、王城には生まれた時に報告されているのだから、存在しない者として扱うことは、父も出来なかったのだと思われる。……おそらく。
ただ、ぬいぐるみや絵本など欲しいな、と思う物を見習い三人に伝えても、執事か侍女長に伝えるものの買い与えられていない辺り、余計な出費、とでも、父・レッセルは考えているのかもしれない。
或いは嘆き悲しむばかりの母・テレーザの耳に入ると面倒だとばかりに黙殺されているか。
何にせよ、買い与えられないという事実が、そこにあるのは確か。
そんなわけで、公爵令嬢として最低限のお金が掛けられただけではあるけれど、シルクという高級品の、でも他の公爵令嬢から見たら質素にも見えるシンプルなワンピースを着ているテネシスだが。
平民ならば一年の給金にあたるだろう、そのワンピースをこれでもか、というほど大きく破いた。たった今。
どういうことか、と言えば。
自分に付けられた見習い三人衆の発言から、自分は何をしても八歳までは死なない、と斜め上の納得をした彼女は、じゃあ自分の好きなこと、やりたいことをしようと思いついた。
抑々三歳で死ぬという概念を理解しているのが凄いし、予言を逆手に取って、八歳までは死なないのだ、という発想をすること自体がおかしいのだが。
何故なら、彼女自身は全く無自覚だが、前世の記憶が少しばかりある。
本人は無自覚だから、前世の記憶も微か。そして役に立つような記憶でもない。ただ、なんとなく薄っすらと死ぬという概念を理解したり、斜め上の発想をしたり、というのは本人無自覚の前世の記憶で、納得出来ただけのこと。
彼女の前世の記憶とはそんなちょっと違和感あるかな、でも気のせいか、程度のものなので、本人も周りも気づかない。そんな現状。
ということで、そんな斜め上の発想で自分は八歳までは生きられるし、それまでにやりたいことをやっておこう、と思い付いた結果を踏まえて。
では、何がやりたいかと考えて。
ベッド脇の小さな階段を登ってベッドに飛び乗り、そのフカフカの寝具を楽しむという遊びを始めたのである。
見習い三人衆はポカンと口を開けた。子どもってこんなことをするの、と三人衆は呆気に取られたが。そのうち、侍女見習いのエイダが我に返って慌ててテネシスに声を掛ける。
「お、お嬢様、危のうございます! ケガをしてしまうかもしれませんよっ」
叱るような物言いと大声を出したエイダ。そしてそんな自分にエイダはちょっと戸惑う。こんな風に大声で叱責することなんて初めてのことだったので、狼狽えてしまった。
そんなエイダに頓着しないテネシスは、どこ吹く風で今度はベッドから大ジャンプ。
三歳の大ジャンプは全く跳んでないようなものだが、それなりの高さから飛び降りれば、足を捻るか何かするかもしれない、とエイダの大声で我に返った、侍従見習いのレオと護衛見習いのセオが、ジャンプしたテネシスがケガをしないように慌てて手を伸ばしてその身体をキャッチした。
上手くその小さな身体をキャッチした二人は、同時に息を吐いて安堵したが、テネシスはキャッキャと笑い声をあげて大喜びし、身体中でその喜びを爆発させた。……つまり、全身で二人の手の中で暴れ回った。
落とさないように、と慌てる二人。
そのバタバタの最中に、何かが裂ける音がして。
暴れるテネシスを宥めようとしたエイダと、幼女を落とさないよう必死な少年二人。三人は音の元を辿って、ワンピースが破れていることに血の気が引いた。
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