八歳で死ぬと予言されたそうで。19
「いやいやいや、なんだその考えはっ。城の外壁を登って落ちたら怪我をするか死ぬだろうっ」
最早悲壮感満載だった登場シーンは空の彼方に飛んで行っているジョシュの鋭いツッコミ。
「えっ、死なないよ! だって、第二王子殿下自身が予言者の予言を信じているからこそ、落ち込んでたんでしょう? だったら、十五歳までは何があっても死なないと思わない?」
トンデモ理論なのに、一周回って正論に聞こえる。だが、とジョシュは思う。確かに自分は予言者とかいう怪しげな存在に言われたことを真実だと思って信じていた。
故にこれ以上無いくらいどん底に落ち込んでいた。
なのに。
見方を変えてみると確かに十五歳までは死なない、という考え方が出来る。
怪しげな存在の言ったことを信じて落ち込んでいた。
それも見方を変えれば、十五歳までは何をしても死ぬことは無い、ということである。
これだけ信じて落ち込んでいたのでしょう。だったら、その予言の見方を変えるのなら、十五歳より前に死ぬことなど有り得ない。そうでしょう? と目の前の少女はそう言っている。
ブッ。
突然聞こえてきた何かの音に、二人のやり取りを見守っていた……いや、観客になっていた者たちは、空気が変わったのに気づく。
まるで笑うのを堪えて失敗したかのような。
「あっはっはっは」
そう思った途端に笑いが堪えられないようにジョシュが大声を上げて笑い始めた。
なんだ、どうした? という顔のテネシス。
「確かにそうだな! その通りだ! 予言を信じるのなら十五歳までは死なないから、好きなことが出来るなっ」
悩んでどん底に落ち込んでいたのが嘘のようにジョシュは晴々とした顔でそんなことを言った。
テネシスもそうでしょう、そうでしょうとばかりに頷いている。
「だが、牢屋に一晩寝るのは無理だ。見たことがあるからこそ言えるが、石で出来ている床で寝転んだら身体が痛くなるに決まっている。城壁を登るのは面白いかもしれないが、落ちて怪我をするわけにはいかないから無理だな。だから、廊下を端から端まで走るのなら出来そうだ!」
元は元気いっぱいで侍女や護衛たちを振り回すような性格のジョシュである。王妃そっくりの燃え盛る火のような赤い髪色と赤みがかった黄色の目が、太陽のように明るく見える。それは予言を聞く前のジョシュそのものだった。
「城壁を登って落ちたら怪我かぁ。それは確かに無理ですよねぇ。お兄様を悲しませたくないからなぁ。廊下の駆けっこは私もやりたいですね!」
すっかり友人のような気安さでテネシスはジョシュに頷く。
だが、今日は友人として会いに来たわけじゃないんだよ。
妹の暴走を止められず、この国の尊い存在であるはずの国王・王妃・王子を、自分と両親と同じく観劇でもしている観客のような立場にしてしまっていたロディは、内心でツッコミを入れる。
今度は執事の幻聴ではなく、自身の心の声だ。
さて、どう切り出せば本題に入れるか、と頭を悩ませるロディを他所にテネシスは牢屋の待遇改善をジョシュに話し出した。
いわく。
床が石で直接そこに寝るというのは、罪人相手でも人権に関わってくる。最低限の保障として布団を与えるくらいはしてもいいのではないか、と。
「いや、それは罪人に反省を促すためだから、布団を与えるのは甘やかすことになるから出来ない」
と言ったのは、ずうっと両親と共に観客のような立場に居た第一王子殿下・アッシュ。五歳のはずの少女が弟をどん底から救ってくれたのだから感謝して、礼を述べようとしていた。
だが、その前に牢屋の待遇改善などと言い出したので、礼を述べるより先に突っ込んだ。
「いやいや、最低限のことをしてあげることで、罪人は感謝して口が軽くなることも有り得るのではないでしょうか。それから重罪人は、布団を差し入れるだけ。でも罪の軽い人は布団とクッションでも差し入れるとか、段階を付けてみるのはどうですか。そして重罪人でも心を入れ替えたら待遇を良くする。でも待遇を良くしたら元通りなら、クッションも布団も取り上げる。取り上げられたら石の床に直接寝るのが辛くなりますからね。でも牢屋から出て真っ当な生活をするのが良いって思ってもらわないと、反省にはならないから、その加減が難しいかもしれないですけどね」
テネシスの話にアッシュは少し考え、チラリと両親を見る。二人共顔には出さないけれどアッシュが検討しても良いかもしれない、程度には面白いアイディアだったから、両親……国王と王妃も、もしかしたらこの話を受け入れるかもしれない。
後で話し合ってみよう。
さておき。
兎も角、弟が何に悩んでいたのか、それが分かったのでアッシュは改めてテネシスに礼を述べようとした、のだが。
それより早く、扉の向こうから護衛の声が聞こえてきた。
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