八歳で死ぬと予言されたそうで。16
「お嬢様、取り敢えず牢に入ることになったら坊ちゃまが悲しむのでそれは避ける方向で」
執事は怖がらせることを諦め淡々と牢に入ったらどうなるか、を指摘する。テネシスはふむふむ確かに、と納得したので回避するように心掛けてくれるだろうと執事は思った。
「じゃあ不敬罪に問われて牢屋に入ってもお兄様が悲しまなければいいよね!」
いや、そこは回避する方向で居てください、と思うが執事は諦めた。説得するだけ無駄である。何しろ何度口にしても階段から飛び降りることを諦めず、結局飛び降りているようなテネシス。
そのうち一番上から一番下まで飛び降りることは身体が小さくて無理、と判断して諦めたが。自分で納得しない限りは説得など聞き入れない、と執事も二年で諦めを覚えた。
「シス、牢に入ったら私は悲しむよ」
「ただ入るだけじゃなくて、待遇を良くすればいいと思うの!」
ロディは妹が本気で牢屋に入りたいと願っていることに気づいて慌ててそんなことを言うが、テネシスは待遇改善の方向に話を変えた。牢屋に入ることを諦めるのではなく待遇改善を考える辺りが規格外である。
だが、待遇改善はちょっと気になる、と執事も内容を聞こうとして、ハッとした。今はそれよりも国王陛下の従兄弟君と会う話の方が重要である。
話の軌道修正をした執事から、王城へ出向く日を教えられたテネシスは、当然兄のロディも一緒でなくては行かない、と執事に伝えるが執事は心得たように頷いたので、最初からそのつもりだったようだ。
それからおよそ十日後。
王城のとある一室にて。
「お目通り叶いましたこと誠に感謝申し上げます。陛下、妃殿下、殿下方。ビアス公爵・レッセル。妻・テレーザ。息子・ロディと娘のテネシスにございます」
謁見の間で大仰に会うわけではなく。内々のことだから、と国王の執務室に近いとある一室にて、国王陛下・王妃殿下・第一王子殿下と第二王子殿下がビアス公爵家一同との話し合いの場にいた。
テネシスは国王と王妃と王子たちを無遠慮にならないように確認してから、肝心の従兄弟が居ないことに内心で首を傾げた。
従兄弟、どうした? である。
「確か先触れではビアス公爵の娘が予言者から予言を授かったという話だったが」
国王に切り出されレッセルは頷くと「恥ずかしながら」と前置きして、テネシスが予言を受けたことによって家族がバラバラになりかけたことを告げた。
「なるほど。実はな。余の息子・ジョシュも予言者から予言されたらしいのだ」
ジョシュとは第二王子のことで、ロディと同い年。尚、第一王子のアッシュはロディとジョシュの三歳上である。
「第二王子殿下も予言を……?」
「うむ。余は直接聞いておらぬ。ジョシュが余の従兄弟であるエッジオの元に赴いたあと、それから塞ぎ込んでいたのをアッシュが気づいて問い質したところ、どうやらその際に予言者とやらに会い予言を授かったことで、塞ぎ込んでいたようだ」
つまり、第二王子が従者は居ただろうが一人で国王の従兄弟に会いに行ったときに予言者に会って何やら予言された、ということらしい。その上塞ぎ込むような内容だったとか。
道理で第二王子・ジョシュの顔色が悪いわけである。病にでも罹ったのか、と疑うほどに青白い顔をしてこの場に俯いてソファーに身を沈めていた。
「礼を失して申し訳なく思いますが、どのような予言を授かったのでございましょうか」
王子が塞ぎ込むほどの予言。
踏み込むのは失礼かと思ったがレッセルが尋ねれば、国王は首を振り、知らぬと言外に示す。その顔は息子を案じる父の顔で隣の王妃も僅かに母の顔を見せて第二王子を見る。
この場限りの話し合いの内容ということで表情も動いているのかもしれない。
第一王子も弟を案じるように見るが、当の本人がずっと俯いたまま。
「発言の許可をいただきたいと思います」
幼い少女の声はもちろんテネシスで、きちんと発言の許可を求める辺り、公爵家の教育が行き届いていることに、国王も王妃も内心感心しつつ、許可を出すとテネシスは俯いたままのジョシュに声をかけた。
ちなみに、この中でテネシスが何を言い出すのかハラハラしているのは、ロディだけである。
ロディの中では、可愛い妹ではあるが、なにしろちょっとばかり規格外な妹だから、牢に入りたいという希望を叶えるために不敬を働いてもおかしくない、と分かっている。
とはいえ、妹のやりたいことを止めるのは気が引けて。結果的に内心ハラハラしつつ見守ることにした。
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