八歳で死ぬと予言されたそうで。14
さて。
仲良く本を読んでいたロディとテネシス。そこへ先程公爵夫妻と家令と話し合い決まったことを報告にきた執事がやって来た。
「お嬢様、予言者にお会いしてみませんか」
「会えるの?」
執事の問いには興味を惹かれたテネシス。執事がよしよし、興味を持たれたぞ、などと考えているとは露知らずテネシスは詳細を聞かされたが。
速攻で断った。
「えっ、王族ってなんだかすごく嫌だ。会いたくないから聞かなかったことにする」
さすがに五歳児のボキャブラリーに面倒くさそう、の一言は無かったようだが、つまりまぁそういうことである。
これに慌てたのは執事である。
王族が誰であっても、本質を理解出来るテネシスが一緒でなくては予言者のことなど分からない気がする。いや、間違いなく分からない。レッセルもテレーザも公爵家の当主と夫人のはずなのに、紹介者が王族だから、で予言者なんて得体の知れない者を信じているのだから、予言者にうまく丸め込まれる未来しか見えない。いや、まぁそんな得体の知れない者を公爵家に招き入れた家令と執事の兄弟を含めた使用人たちもどうなのか、という話ではあるのだが。
そんなわけで、執事はお嬢様には是非とも予言者のことを知ってもらいたいので、王族に会ってもらいたいのだ。どうやってお嬢様を説得しようか、考え始めた執事を尻目にロディが言う。
「シス。お兄様も予言者に会ってみたいんだよね。お兄様はシスが予言されたときに会っているけれど、思い出すと、予言者が教えてくれたのはシスのことだけで、お兄様のことは何も言わなかった。父と母のことも公爵家そのもののことも言わなかった。なぜ、シスのことだけを予言したのか、お兄様は知りたいと思うんだ」
テネシスは、なるほど、と頷く。
「それは変です。私の未来のことを尋ねたい、とアノ二人から頼まれたのでしょうか」
テネシスは予言者が自分のことだけしか予言しなかったことに首を傾げる。アノ二人とは、実の両親のことだろう、と執事は理解して「旦那様、奥様、お嬢様からの信頼を獲得するのは大変ですよ」と心の中で思う。まぁそこは両親である二人がどうにかすることであって、今はどうでもいい。
「私はその辺りのことを覚えていないからね。知りたいと思う。だからシスが紹介者である王族の方にお会いしてくれると予言者に会えると思うのだけど、どうかな」
テネシスの兄だけあって、ロディは執事よりもよっぽどもテネシスの扱いに長けている。テネシスはあっさりと陥落し、それを確認した執事は、レッセルに予言者を紹介した王族に先触れを出すことを確約し、王城の使者を通してやり取りを行い、日程が決まった。
そして確定してから分かったのだが、公爵夫妻が信じた紹介者とは前国王陛下の異母弟の子息だった。
「前国王陛下のいぼてい? ってなに、執事」
本当に大物が出てきた……と焦る執事は、公爵夫人のテレーザからそれを聞かされたとき、血の気が引く思いをした。取り敢えず、お坊ちゃまと一緒に勉強をしているお嬢様に報告しよう、とロディの部屋を訪れ教育係が本日の勉強は終わりです、と部屋から出たのを見届けてから、ロディとテネシスに伝えれば、テネシスから尋ねられた。
「異母弟とは母親違いの弟のことを言います」
「ほう。妹だと?」
「異母妹でございますね」
説明すると、ふむふむ、とテネシスが頷く。
「前国王ということは、国王陛下のお父様で、その弟だから……叔父だっけ」
五歳児ではあるものの、賢いとテネシスのことを褒める教育係は、そんなことも既に教えている。
「左様にございます」
「で。陛下の叔父さんって人が予言者をアノ二人に紹介した?」
全く両親を父と母と呼ばないテネシスに、執事は謝ったことは受け入れても許してないことを改めて知らされているなぁ、と思いつつテネシスの質問に首を振る。
「いいえ。前国王陛下の弟君であらせられる方ではなく、そのご子息にあらせられる方でございます」
「ああ、じゃあ陛下の従兄弟か」
「左様にございます」
この陛下の従兄弟。実は物凄く複雑な立場の人間である。
国王は一人っ子で子どもの頃は病弱。一時期はよく寝込んでいたためにその従兄弟が前国王の義息子、つまり現在の国王の義弟(年齢は国王より従兄弟の方が年下なので)という立場を与えて万が一に備えるべきか、とまで話が出ていたことは、レッセル世代には有名であった。
多くの貴族は静観していたのだが、一部の貴族はその可能性が高くなる、と思い込んで国王の従兄弟に媚を売る者も出てきていた。王位継承争いが起きると国が揺れる、と判断したその父……つまり前国王の異母弟が、はっきりと「王位継承権はあるが、国を揺るがす気はない」と宣言したため、騒動は鎮火した。
その後、国王は病弱を克服し、無事に王太子の位に着き、その後国王の座に着いている。名君となるのかどうかは、国王が死んだ後に評価されることだろうが、今の世での評判は良い。
国王の従兄弟は、再び王位継承争いの火種になることを憂いて表舞台にはなるべく出ないよう、王族の責務を果たしているものの、ひっそりとしている、ということもレッセル世代には知られていた。
執事はそんなことまでテネシスに話したが、この辺りはただの前情報のつもりだった。
「へー。それは、不思議な人だね。みんなが知っている陛下の従兄弟と、予言者みたいな怪しい人と付き合い、アノ二人に紹介する人が同じ人だって思えないくらい、不思議」
テネシスがそんなことを口にしたので、執事もロディもどういうことだ、と首を傾げた。
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