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八歳で死ぬと予言されたそうで。13

「確かに予言者のことはよく知らないわね。でも紹介してきた方のことを信じてのことなの。レッセルも知っていてよ」


 テレーザは執事の疑問にまず答えるが、濁している自覚はある。執事も濁されていることは分かった。兄の家令を見ると、家令が首を振っている辺り、兄も知らないらしい。

 けれど、公爵夫人のテレーザも公爵のレッセルも信用出来るような人物というと、かなりの高位貴族か。或いは王族、の可能性もあると思えば執事は戦慄する。疑うことすら許されない相手ではないか。


「もしや……もしかしてもしかするお方、で、ございましょうか」


 王族、の一言が出ない執事。家令もハッとして夫妻を見遣る。夫妻は顔を見合わせてから諦めたように頷いた。執事の懸念が当たったようだ。

 とんでもない大物が出て来た、と家令と執事の兄弟揃って顔を青褪めさせたが、家令がそれどころではない、と思考を切り替えた。


「旦那様も奥様も紹介者様をお信じられるのは分かりましたが、その紹介者様がもし予言者とやらに騙されておりました場合は、どうなさいますか」


 王族。

 どなたなのか分からないが、誰であっても予言者の掌で転がされるような事態であれば、国の一大事。

 家令の指摘に公爵夫妻は、ざあっと顔面蒼白になった。そのことに気づかないで公爵家を守れるのか、という話だが。今はそんなことを言っている場合では無い。


「旦那様、奥様、先様を訪いましょう。その際、お嬢様をお連れすることを進言致します。お嬢様は本質を見ることが出来るお方ですから」


 執事の提案にレッセルもテレーザも頷く。

 レッセルもテレーザもきちんと現実と向き合うことが出来たからには、その聡明さを実感していた。

 だが、と二人は頭を悩ます。


「謝った。受け入れられた。だが拒絶されているが、なんとかなるのか」


 レッセルは妻と家令と執事を見る。そこには嘆く妻を見限り、娘のことは放置して、仕事と息子の後継者教育にしか興味の無かった公爵ではなく、一人の人間が弱気になった姿を晒しているだけ。

 併し拒絶されるようなことを仕出かしたのは自分である。仕方ない。


「そうね。構わないで良い、と言われてしまいましたわね。今さら親として接してこなくても良い、と」


 テレーザも悄気ながら夫を見る。そこには夫や息子や使用人たちの心配を他所に、娘が哀れだと嘆き、そんな自分も可哀想だと悲劇のヒロインぶって己の殻に閉じ籠っていた夫人の姿は無く、子に捨てられた母が所在なく打ち拉がれているだけ。

 併しこちらも子に捨てられるようなことを仕出かしたのは自身が先。仕方ない。


「確かに、お嬢様は旦那様と奥様のことはどうでもいい、とお考えでございますが」


 家令が落ち込む夫妻を宥めるより早く、執事が肯定どころか傷に塩を塗り込むような発言をしているが。


「お嬢様は好奇心旺盛にございます」


 弟を窘めようとした家令は、執事のその一言に物を言うタイミングを失い首を傾げた。


「好奇心旺盛?」


 レッセルが問えば執事は何があった、と尋ねたくなるような遠い目と達観した表情で続ける。


「はい。途轍もなく好奇心旺盛でいらっしゃいます。それはそれは、ご自身のベッドから飛び降りてワンピースを破くし、隙あらば階段の一番上からジャンプして飛び降りようとして我々使用人たちの肝を冷やしますし、専属侍女がお嬢様、おやめください、と三日に一度は叫ぶのを聞くくらいには、何かしらをやらかそうとするし……」


 レッセルもテレーザも家令も絶句した。

 なんだそれは、である。

 仮にも貴族、それも公爵家の令嬢がそんな平民の子どももビックリな、アグレッシブな行動を取っているとは思ってもみなかった。

 いや併し。

 正論で心を抉られまくっていた公爵夫妻と家令は、忘れかけていた事実を思い出す。


 父親であり公爵家当主であるレッセルに飛び蹴りを食らわせていた、という事実をーー。


 ゴクリ。

 という唾を飲み込む音は一体誰のものだったのか。


 だが、公爵夫妻も家令も納得した。

 好奇心旺盛、という執事の一言が全てを物語ると。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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