八歳で死ぬと予言されたそうで。10
「お嬢様、お嬢様の仰る通りなのですが、あまり兄を困らせないでいただけますと私めも幸いです」
言葉に詰まって答えられない家令の代わりのように、執事がそっと進言する。
「執事の兄なんだ。困らせてないよ。思ったことを言っただけ」
「そうでしょうとも。ですがお嬢様。五歳のお嬢様の発言とは思えない切り口なのでございます」
テネシスはこの現状が正しい親子関係なのか問い詰めているだけ、と執事に言えば執事はお嬢様は五歳児とは思えないんですよ〜と言う。
「それはあれじゃないかな。八歳で死ぬって言われているから。他の五歳とはなんか違うんじゃない?」
自分でもよく分からない部分なので、テネシスは多分そんな感じ? と言ってみる。いやいや、八歳で死ぬことと大人視点の発言は何の因果も無いはず、とは思うものの執事も明確な理論があるわけではないので、そうですね、と頷く。
「ですがお嬢様、お嬢様の仰ることは一つ一つ頷けるのですが、それでも旦那様も奥様もお嬢様のことを我が子だと認識されていらっしゃいますよ」
この混沌とした状況でいち早く我に返り、テネシスを諭すように話をしている辺り、この二年で執事もすっかりテネシスのアグレッシブぶりに鍛えられていると言えよう。
家令もさすがに執事と兄弟だけあって、立ち直りつつあるし、テネシスの兄・ロディも衝撃から我に返った。もちろん他の使用人たちも。未だ呆然としているのは、やはりというかなんというか、両親であり公爵夫妻である。
「お金出して使用人たちに最低限の世話をしてもらっているのは分かるよ。使用人たちはそのお金で雇われているし。私はそのお金でご飯を食べることが出来るし、勉強させてもらえてる。そういう部分では確かに感謝するけど、それは親だと言うなら義務でしょ。領地で働く領民のために領主として働く義務と同じ」
執事が親として子を思ってますよ、とテネシスを宥めに掛かったが、執事はさすがお嬢様、こんな上辺だけの言葉に騙されずに本質を捉えてますね、と感心する。いや、感心している場合じゃなかった、と自分を戒めて。
「まぁそう仰られるとそうですが、それだけではなくて、ですね。お嬢様を公爵家から追い出してないわけですし」
戒めても論破されそうなことしか言えない自分に、執事は失望する。
「それは愛情表現とは言わないでしょ」
やっぱり論破しますよね。執事は内心項垂れた。
「何を言っているのですか。追い出してないということは旦那様と奥様がお子様を愛している証です。もし愛してなかったら追い出してますし、とっくに行き倒れてますよ」
弟の不利を悟って援護しているのか、それとも追い出してないことは愛情表現だと本気で思っているのか、家令がそんなことを言い出したので、テネシスは鼻で嗤う。
「いや、それ愛情じゃないから。親子や兄弟の情って金でなんとかなるもんじゃないと思うんだけど。それとも家令と執事は金で互いの情が成立してるの? それが二人の兄弟愛?」
スパンっと切れ味の良い返しに家令はギョッとする。
「そんなことはございませんっ。我ら兄弟は金さえあればそれでいい、という希薄な関係ではっ」
そこまで言って、家令は自分の言葉が矛盾している事実に気づいて言葉を止めた。
「ほら、そうじゃない。お金出しておけば後は使用人たちがどうにかするって態度の両親のどこが、親子の愛情あるのよ」
呆れたような物言いのテネシスに家令はウッと口ごもり、それからハッとする。
「だ、旦那様は仕事をしてお金を稼ぐことで愛情表現をしておりますし、奥様はお嬢様が八歳で死ぬことを嘆き悲しまれて愛情表現を」
そこまで言ったところで、テネシスの冷めた目とぶつかる。
「だから? 仕事して金稼いで使用人たちに私の世話を放り出す愛情? 嘆き悲しんでるだけが愛情? 聞くけど、平民がそれやってたらどう? 仕事して金稼いで、でも貴族みたいに使用人雇ってない平民の父親と、娘が早死にすることを嘆き悲しんで何もしない平民の母親。親から見向きもされない自分が生きるのに精一杯の兄が親から見向きされず世話もされない妹の世話が出来ると思う? 出来るかもしれないけど、出来なくて放置されても私は兄を恨まない。恨むなら金稼ぐことしか頭に無い父親と嘆き悲しむだけで娘を憐れんでるフリして可哀想な母親の私って悲劇の主人公気取りの母親なんだけど」
ロディは、テネシスの気持ちを口にされてようやく理解した。自分が妹を蔑ろにしていたことを妹は知っていて、でも、自分を恨んでないと。
家令はテネシスの言っていることを聞いて、自分がいかに旦那様の味方だけをしていて、その家族を顧みて無かったか愕然とした。
テネシス視点かつ平民だったらどう思う、と問われて、ようやく育児放棄で死に直結するようなことだった、と家令は理解する。使用人を雇える貴族だったから生きていただけ、という事実に戦慄した。
そして、テネシスの両親である公爵夫妻も、五歳の娘の舌鋒に戦慄しつつ、話の内容には愕然とする。自分たちが行ってきたことは、命を犠牲にすることであった、と。我が子二人を不幸にしているのだ、と。
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