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八歳で死ぬと予言されたそうで。1

「この子は八歳で死にます」


 テネシスは生まれて直ぐの頃、高名な予言者とやらに、そう予言された、らしい。


「そんな、八歳には死んでしまうなんて信じられませんっ。どうにか生きる方法はっ」


 母であるテレーザは半狂乱になって予言者に尋ねたが、首を横に振られてしまった、らしい。


「生きる方法は何もない、と?」


 父であるレッセルも絶望した顔で尋ね、それには縦に首を振られた、らしい。


「シス、死んじゃうの?」


 三歳上の兄・ロディは舌足らずな声で妹が死んでしまうのか尋ね、予言者の女性は目を伏せて首を縦に振った、らしい。


 それからというもの、テネシスが三歳になるまでのビアス公爵家は表面上は仲睦まじいのに、内部は崩壊寸前だった。


 母・テレーザは常に嘆き悲しむだけで公爵夫人としての仕事もほとんどこなさず。辛うじて王家主催の茶会や夜会に参加する程度。公爵家内での奥向きの采配などは家令・執事・侍女長に任せっきり。


 父・レッセルは嘆き悲しむだけの妻を見限り、公爵家当主としての仕事ばかり。ついでに八歳で死ぬことが分かった娘も不要なものとばかりに見向きもしないで、跡取りの息子だけを視界に入れ、教育を施し、家のことはやはり家令・執事・侍女長に任せっきり。

 公爵としての仕事と息子だけが彼の意識にあった。


 兄・ロディは父に苛烈な跡取り教育を施され、母は妹の未来を嘆き悲しむだけで何もせず、どちらも自分のことを見てくれないことに不貞腐れていた。家庭教師や使用人たちは見てくれるし褒めてくれるが、愛情ではない。


 そんなビアス公爵家だが、外に出る或いは外から客が来る時だけは、仲睦まじい親子のように振る舞った。尤も母は寝込んでいる方が多かったが。


 そんなビアス公爵家を、結果としてバラバラにしてしまった原因であるテネシスは、と言えば。


 当然と言えば当然だが、家族からも顧みられず、使用人たちからも敬遠されていた。何しろ家令も執事も侍女長も、テネシスが悪いわけではないが、ビアス公爵家内を崩壊寸前に追い込んでいる原因、と見做していたから。


 頭では分かっている。

 テネシスは何も悪くない、と。

 その一方で、彼女が生まれてきたから、こうなっているのだ、という感情は消せない。

 それ故に家令・執事・侍女長は素っ気ない対応をするので、自然とその下の使用人たちもテネシスを腫れ物扱いのように世話をしないわけではないが、余所余所しく接していた。


 そんなテネシス三歳。

 見習い侍女と侍従と護衛である十代の少年少女たちの話を聞いて、自分が家族から嫌われている、と何となく理解した。

 抑々公爵家の令嬢に見習いの者しか付けられていない時点で、家族からも使用人からも扱いが雑なのは分かる。三歳だからその辺りのことは分かっていないけれども。


 肌で感じる、というものはある。

 それが訳の分からない予言者による、自分が死ぬ予言というものの所為であることも、なんとなく分かった。

 だからといって、三歳の彼女にどうしろというのか、という話なのだが。


 太陽に当たるとキラキラと輝く金髪に、若葉を思わせる明るい緑の目をした少女、いや、幼女は、自分に付けられた見習いの使用人たちの話を、三歳なりになんとか理解した結果、こう思った。


「八歳までは何をしても死なないのね!」


 まぁ、三歳なので実際には「はっしゃいまでぇはなにをしてぇもしなないのにぇ」であって、見習い使用人三人衆は誰一人としてテネシスの言ったことを理解出来なかったが。

 併し、彼等はこの時ほど言ったことを理解出来ていれば良かった、と後々思うことになるとは全く知る由もない。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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