第46回:漢の軍師張良
ミニコラムの続きです。
張良
「やあ、私は漢の軍師張良だ。劉邦様を助けて項羽を倒し、天下統一に貢献したんだ。私は元々は、韓の名家の出身でね。秦に祖国を滅ぼされたから没落したんだ。だから、始皇帝が憎くてね、暗殺しようとしたけど失敗しちゃった。
なに、力持ちな奴にお願いして、始皇帝の馬車にハンマーを投げて貰ったのさ。馬車には命中したが、残念ながら始皇帝は別の馬車だったのさ。私は一目散に逃げたよ。
その後、その土地の人は犯人が居るかもって理由で皆殺しになったらしい。気の毒な事をしたな。ああそうだ、この頃、項羽の叔父殿と友達になったんだよ。項伯って人さ。偶然お互いに逃亡中でね。匿ったのさ、彼を。困った時にはお互い様だからね。
そういえば、変な爺さんに無理難題言われた事もあったな、『靴取ってこい』とか『履かせろ』とか『5日後にまた来い』とか、行ったら『遅い』とかね、面倒くさい爺さんだったけど、言う通りにしたら、書物をくれたんだよ。それが実は太公望の兵法書でさ、めちゃ役に立ったよ。あの爺さん何者だったのかね。
そんなこんなで放浪してたら、出会ったのさ。劉邦様に。出会った時は軍略の無い残念な将軍のおっさんだと思った。でも意外と人望があった。話してみたら、私の話を熱心に聞いてくれてね。私の献策を聞き入れてくれたのさ。私の献策を用いて戦った結果、劉邦軍は大勝利。こりゃ、神が与えた英傑かも知れないと思ったんだ。私の言う事をちゃんと聞いてくれるからね。
その後、劉邦様は、項梁将軍の配下に就いた。その後も、私のアドバイスをガンガン聞いてくれてね。連戦連勝で私も鼻高々だった。だけどね、項梁殿の甥御の項羽殿は凄かったね、武の極みだった。味方だったから良かったが、敵対したら私の策でも勝てないと思ったよ。
その後、劉邦様と項羽殿は別々のルートで秦の首都に攻め込むことになった。いわゆる早いもの勝ち進軍ってヤツだね。項羽殿の軍は精強だ。しかし、私の策ならば勝つ自信はあったよ。まず、敵の将軍を寝返らせる。そして、その将軍は『おい、お前ら俺は今から裏切る事にしたぞ』と言われると戸惑うよね。「え?え?」って、そんな困惑して判断に困っている時に攻め込んで、兵士たちをコテンパンに蹴散らすのさ。えげつないだろ?でも、これで秦の首都は陥落したのさ。秦の三世皇帝は捕まえた。項羽殿よりも早かったんだよ。すごいだろ?
でも、困った事に秦都に入った劉邦様はそこで早速ハーレムを作ろうとしたのさ。人目もはばからず、後宮の女官達に襲いかかろうとした劉邦様の情けない姿を見て、私は怒ったね。『まだ早い!軍を引いて項羽殿に備えなさい!』と。
案の定、秦軍を倒した項羽殿は劉邦様に先を越された事を知ると怒り狂ったよ。『劉邦め!自分が王にでもなったつもりか!殺してやる!』ってね。
しかし、その時、以前友達になった項伯殿が偶然現れて、甥御の項羽殿との間に入って仲介してくれたのさ。助かったよ。ほんと。この後、劉邦様と項羽殿との間で話し合いが行われた。鴻門の会って言うんだけど、大変だったよ。項羽の軍師の范増の計略で劉邦様は暗殺されそうになるんだよね。酒の席でさ。私は味方の樊噲という豪傑にお願いした。彼は項羽殿の前で剣舞を踊り、項羽から酒を貰って飲み、肉を喰らった。そして樊噲は「私は死など恐れません」と言ったんだ。この時、項羽殿は劉邦様を殺そうとしていたが、この豪傑を気に入り、劉邦様を忘れていた。そして、樊噲が時間を稼いだスキに劉邦様を密かに逃がしたのさ。危なかったよ。
軍師の范増は千載一遇の好機を逃した事で項羽殿を見限る事になったんだよ。范増が居なくなれば、もう、私の謀略に対抗できるものは項羽軍には居なくなる。これは好機だ。しかし、いざ戦場になると、項羽殿に勝てる者が我が軍には居ない…いや、居る。韓信という男だ。韓信は、当時、地方を遠征して各国を次々と落としていた。あの男なら項羽殿を倒せるかも知れない。しかし、韓信は劉邦様に忠実とは言えない。奴に背かれるリスクはある。しかし、四の五の言ってられない。項羽殿が少数精鋭を好むのに対して、韓信は多すぎるぐらいの兵数でも統率できる強みがある。信じられないぐらいの大軍を韓信に率いさせて項羽殿にぶつければ勝てる。
しかし、それだけの大軍、補給をどうするか。膨大な食料を用意しなければ戦えない。いや、我が軍には居る。補給のスペシャリストが。蕭何だ、彼ならどれだけの大軍でもその食料を準備し運搬してくれるだろう。策は決まった。大軍を揃え、韓信に率いさせ、蕭何に補給させるんだ。地方で連戦連勝する韓信を呼び出し「項羽と戦え」と命じたんだ。でも、韓信は「ならば俺を王にしろ」と言ってきた。劉邦様は「何様だ!」と激怒する。まあ当然だね。
劉邦様は、「韓信なぞに頼らなくともワシ自信が項羽を倒す!」と言い出してしまった。そして、劉邦様は、56万人もの兵を率いて韓信なしで項羽軍と激突。しかし、わずか3万の項羽軍にズタボロの惨敗を喫してしまった。何てこった。
こうなったら、韓信には気持ちよく王位についてもらおう。斉王に。大軍を率いた韓信が参戦することで、ようやく項羽殿を垓下の地に追い詰める事に成功した。そして、私のトドメの策だ。項羽軍を包囲して、兵たちに故郷である楚の歌を歌わせたのさ、「楚の者はみな劉邦に降伏したのか…と項羽殿は絶望してしまった。そして破れかぶれで突撃して亡くなったよ。最後まで凄い豪傑だったね。うん。
そうして、楚を滅ぼして劉邦様は天下統一を達成、漢という国を建国したのさ。私の夢も叶った。その後の漢は大変だったよ。なぜなら、劉邦様の皇后様は恐ろしい人でね。敵対者は殺すし、一族はえこひいきするし。困ったものさ。でも、私は既に現世の事には興味が無くなっててね。軍師は引退して仙人になるための修行をしたんだよ。」