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第二十二話 宝玉

年末入院→退院→年始からインフルエンザ→復活

厄年かな??

今年も宜しくお願いします。見捨てないでやって下さい。

二日かけて漸く怪我人の手当ての目処がついた。救護室用の天幕に寝かされているのは大方重傷者のみとなった。

これ以上の回復は見とめられないとして、治療水を作る必要が無くなった真理衣は炊き出しや包帯の洗濯などの係に回されている。

怪我人の救助を終えた騎士団は瓦礫の撤去作業に移っており、大きな瓦礫をせっせと取り除いている最中である。人々の表情は幾分落ち着きを取り戻しているように見えるが、その心には深い傷痕が残っている。

三日後、救護団は騎士団と共に王都へと向かう予定となっている。王都でも救護団が編成されているのだが、街の規模が大きい分被害も大きく人員が不足している為、真理衣達の居る救護団の助けが必要なのである。


作業を続ける騎士団から幾分離れた土埃の舞っていない場所で、真理衣は炊き出し班のエレナとオリヴィアと共に教会産の野菜を使ったスープの調理を行なっていた。


「アメリア知らない?」


真理衣は姿の見えないアメリアを心配し、野菜の皮むきをする二人に尋ねた。

オリヴィアが遠くの天幕を指差し彼女の問いに答えた。


「神官長の仕事に付き合わされてるみたいよ」

「そっか」


エレナがニマニマ笑いながら口を挟む。


「ねぇ知ってる?神官長ってアメリアの事好きみたいなのよねぇ」

「そうそう!情報通の神官が教えてくれたんだよね」


真理衣はコンラートの真面目そうな顔を思い出す。アメリアは美人だし真面目な神官長が落ちるのもわかる、と彼女は納得の表情を浮かべた。ふと聖職者の真理衣が持つイメージが疑問になって口から溢れる。


「あれ?神官ってそもそも恋愛とか結婚して良いの?」

「マリーって違う国から来たんだっけ?そこは国によるけど、ウチの国は恋愛も結婚も許されてるよ」

「そうなんだ…そう言えば悠も神官見習い扱いだな…?子供同伴で働ける職場って凄くホワイトだなぁ…」

「そうだよ。でもまぁ大抵は家族に預けたり、ベビーシッターを雇ったりするからマリーみたいな例はあまり無いかな」


異世界の教会は母子家庭にも優しい職場である。


三人は雑談をしながら食材を大鍋に入れ煮込み始めた。辺りに食欲を擽る香りが漂い始めると、お腹を空かせた子供達がやってきた。5歳程の少女が鍋を指差し真理衣に尋ねた。


「神官さんたち何作ってるのー?」

「これはねぇ、赤羊のお肉と季節のお野菜の具沢山スープだよ」


少女の右腕は肘から下が無く、包帯が巻かれている。治療水や神官の治癒魔法では完全に治す事の出来ない破損。真理衣は鼻の奥がツンとするのを感じつつ、無理矢理口角をあげ下手くそな笑顔を向けた。少女は包帯の上から腕を摩っている。腕が無い事に痛みと違和感があるのだ。切断面の傷が治っても神経の痛みはある、と神官が話しているのを、真理衣は聞いた事がある。


「美味しそー。早く食べたいな!」

「もう少しで配れるから、また後で食べに来てね」

「うん!」


少女が子供達と共にふらふら走っていった後ろ姿が真理衣には滲んで見える。

彼女はそっと瞼を押さえると俯いた。


「子供があんな怪我を負うのを見るのは辛いね」


オリヴィアが呟き、真理衣とエレナは静かに頷いた。


*****


その晩、皆が寝静まった後。真理衣はこっそりと神官用の天幕から抜け出した。昼間の少女のことが彼女の頭を離れず、散歩でもしようかと思ったのだ。其の腕には悠が抱かれている。

元の世界とは違い空は広く、幾千の星が美しく瞬いている。遠くの天幕の近くで焚き火を囲っている被災者の姿が見えた。不安で寝られない者や悲しみの癒えぬ者。真理衣は視線を逸らすと其れとは逆方向へ歩き出した。彼女の胸の内に渦巻くのは罪悪感。


「あ…ユールさん」


真理衣の目の前に突如としてユールが現れた。宙に浮きながら寝そべるという器用な事をこなしている彼に、真理衣は目を瞬かせた。

黙って真理衣を見下ろしているユールに、彼女はゆっくりと口を開いた。


「私、自分達の平穏を守る為に…宝玉を使わなかったんです…でも」


何も喋らないユールは、面布の奥でどの様な表情をしているのだろう。保身に走った真理衣を軽蔑しているのだろうか、と彼女はユールを伺い見た。

そこには変わらぬ面布があるだけで、真理衣は掌をぎゅっと握りしめた。


「後悔してるんです。もし、私が初めから被害に遭った人達に宝玉を使っていたら、もう少し怪我もマシになったんじゃないのかなって」


俯く真理衣に、ユールは首を傾げた。シャラリ、と面布に付いている金属が擦れ合う。

彼は己よりも低い位置にある真理衣の頭にそっと手を乗せ軽く叩く。


「今からでも使えば良かろう?」

「…今からでも良いんですかね?」

「何をウジウジしているのか分からぬが、我の神器を信じよ。宝玉に、ただ願うだけで良い」


不思議そうで、でも優しげなその声音に、真理衣は泣き出しそうな笑顔を浮かべた。


「やってみます」


真理衣は腹を括った。


真理衣は人目を避けながら重傷人達の眠る天幕へと足を向けた。外で耳を澄ませ、中の人間が起きていないかを確認する。腹を括った真理衣ではあるが、出来る限り人目に付きたくは無かった。もし見られたら、それはその時考えよう。

天幕の中は血と薬草の匂いが充満していた。暗闇の中を天幕の入り口から差し込む月明かりが青白く照らす。真理衣は指輪から宝玉を取り出すと、両手に乗せて願った。


どうか皆んなの怪我が治ります様に。


金色の光が天幕を優しく照らし、怪我人達の上へ光の粒が柔らかく降り注ぐ。その光景は実に美しく、真理衣は光の粒が消えるまで瞬きもせず魅入っていた。天幕の入り口を開けっぱなしにしていた真理衣は、金色の光が外まで漏れ出ていた事も。天幕から少し離れた所にアルベルトが立っていた事にも気付くことは無かった。


光が収まってから見た光景に、真理衣の口から間抜けな音が漏れた。


「へ?」


腕がもげていた者、片足しか無い者。重傷患者の有りとあらゆる欠損していた部位が全て完治し、否、生えていた。

まるで怪我などしていなかったかの様なその姿に、

なに一人でシリアスしてたんだか…羞恥で顔を赤く染めた真理衣は今までの罪悪感も後悔も全部ぶん投げたくなった。真理衣は乾いた笑いを浮かべた。通りでユールが微妙な反応をしていた訳である。


「効果が想像以上で流石神様パワー、レベルが可笑しい…」




真理衣は別の天幕へと向かい同じ事を繰り返し、最後の天幕に入る。

光の粒が弾け降り注いだのを見て、彼女は全ての天幕を回り終えた事に安堵した。

そしてくるりと踵を返そうとした真理衣の視界いっぱいに濃紺の生地が広がった。

目の前にある上質そうな金糸で刺繍の施された濃紺のテールコート。白く光沢のあるクラバット、そして上に視線を滑らせるとアルベルトと目が合った。


「ぅヴァッ!?」


真理衣は悠を抱いているのも忘れて飛び上がる。アルベルトは両手を彼女の肩の上にそっと置き、有無を言わさぬ声音で言った。


「マリー、私の天幕へ来るように」


真理衣は目をうろうろと彷徨わせる。


「…はい」


真理衣は満点の星空の下、神妙な面持ちでアルベルトに手を取られながら歩いた。

騎士団の天幕の一つ、小ぶりなそれは彼専用の天幕である。その中に真理衣を連れ込んだアルベルトは簡易椅子に真理衣を座らせた。

アルベルトはもう一つ簡易椅子を持ってくると、真理衣の対面に設置し座った。

暫しの沈黙の後、アルベルトは真理衣の目を真っ直ぐに見つめた。


「一部始終、見ていた」

「…はい…」

「あれは魔力とは違う…神気を感じたが、もしやユール神の神器なのか?」


アルベルトは真理衣の持つ神器について報告をされていなかった。部下であるヨシュア・グレッツナーが情報を隠す利点は無い為、コンラート・ガウクが隠していたのだろう、とアルベルトはあの食えない神官長の顔を思い浮かべ溜息をついた。大方様子見でもしていたという所だろう。

彼の予想は半分当たっている。コンラートは真理衣に不審な点が無い限りは報告は保留とし、其の実そのまま報告を忘れていたと言うものである。コンラートの中では早々に真理衣に害は無いと判断されていた。何せ畑に排泄物を撒く様なちょっとアレな女である。


「…そうです」


「何故貴女が神器を所持しているのか聞いても良いだろうか?」

「分かりました。全てお話しします」


真理衣はアルベルトのコバルトブルーを真っ直ぐ見つめ返す。真理衣が異世界から来た事、神器を与えられた事、サグドラ国での出来事、全ての情報を開示した。その間アルベルトは真剣に耳を傾けていた。


「マリーもユウも見知らぬ場所で心細かっただろう…」

「異世界から来たなんて荒唐無稽な話を信じてくれるんですか?」

「私は貴女ならば信じる」


アルベルトは真理衣が自ら話してくれた事に嬉しさを感じた。真理衣はアルベルトの言葉とその眼差しに、緊張して握りしめていた掌からゆるゆると力を抜く。


「ありがとうございます…」


真理衣は悠を優しく抱き締めながら、アルベルトに頭を下げた。

ユール「チート過ぎる?だって神様の道具だもん」

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