レクトの考え
ザフィールがレクトの護衛騎士にと、話を進められてからはあっという間だ。
当時のザフィールは、魔獣との戦いがいつ来ても言い様に独自に訓練をしていた。兄達とは気まずくなりそうになりながらも、表面上でそれがなかったのは兄達もザフィールも忙しくしていたのもある。
不慮の事故とはいえ、当主が亡くなった事で長男のイグレイトが当主として統治するようになり、次男のリレークは補佐をしながら各地を駆け回っていた。話したいことがあっても上手く時間が取れないのもあり、あの日以来ちゃんと話した記憶はあまりない。
(リレーク兄さんは、元々レクト様の護衛騎士になっていた。その代わり……なんだよな)
自分と違い、兄2人は頭もよく気量も良い。
一方で、と自分に出来る事と言えば剣を振るう才能と雷魔法の扱いが出来た事。それと、魔獣と対峙して生き残った上に傷を与えたのも大きい。それが、レクト王太子の耳に入りリレークと入れ替わるように――という感じで話を進めていたそうだ。
出来る事なら断りたかった。
物好きな王太子だと思いながら、最初の出会いを思い出し本当に物好きなのかと不思議に思う。
「レクト様は何故自分なんかに声をかけたんです」
「剣を振って暇そうにしてたからな」
「……俺はリレーク兄さんと違い、気遣いなんて出来ないのですが」
「良い良い。変にかしこまられるより全然普通にしてていい。あ、それと2人きりでいる時は普通でいろよ」
「は……?」
「同い年の護衛ってのも良いもんだ。気やすい感じになれる」
「やっぱり暇なんですね」
「違うっての」
レクトの強引なのに、用意周到な部分を垣間見て(あぁ、この人は王族だよな)と納得。それから5年も務めれば、当然ながら剣だけを振って良い訳でない。報告の数々をまとめ報告書として書き出すのにかなり苦労した。
この時ばかりは、ザフィールもお手上げ状態になり兄達に相談した。
その時の2人の表情は、一瞬だけキョトンとしながらも嬉しそうにしていたのを思い出す。それに、ザフィールが護衛騎士として勤める為に王都へと引っ越す事になった時の事。
3つ下の弟であるベルトは大泣きして家族の中で唯一の反対をした。
「ザフィール兄ぃ……。行かないで、寂しい……」
「悪いがレクト様に言われたからな。家の権力を使ってもどうにも出来ない」
「……うぅ、アイツの所為で」
キッとレクトを睨み付けたベルトに、使用人達は慌ててザフィールから引き離す。
笑いを嚙み殺すレクトに「めっちゃ慕われるのな」と言いながら、弟に敵認定されたのにケロリとしている。
その後、共に王都に向かった時に「でも敵認定は……な」と密かにショックを受けていたのをザフィールは知っている。
ベルトと同じくレクトにも弟がおり年齢も同じだ。
だからだろうか。ショックを受けていたのは、自分の弟が同じように敵認定をしてきた時の事を思い出してかなりダメージを負っていた。
「……どうすれば許してくれるかな」
「俺を王都に呼ばなければ良いんですよ」
「それは……出来ない相談だな」
そう言ったレクトの表情をザフィールは忘れない。
何かを決意し実行に移すその瞳は、魔獣を討伐すると誓った自身と重なる。その時の真剣さを見たからだろう。
なんだか妙に心強い仲間を得たような感覚になったのは――。