レクトとザフィール
「悪いっ、匿ってくれ!!」
「……」
怪しい奴、とザフィールは思った。
無言でそのまま剣を振り続ければ、それを肯定と見たのか目の前の少年はささっと茂みに隠れる。それと同時に入って来たのはでザフィールの兄であるリレーク。
「ザフィールっ、ここにレクト様来なかった!?」
「……。来てない」
本当なら兄に突き出そうとした。が、レクトが無言で首を振り行きたくないと意思表示。そして、匿ってくれの答えを出していないのに、肯定と受け取られてしまい面倒と思った。結果的にそれがレクトを匿う形になってしまったが。
「そう。あ、レクト様を見たらすぐに知らせてね。あんまり無理するなよ」
「分かった……」
リレークが遠ざかるのを確認し、レクトはホッとしたように息を吐く。
興味がないザフィールは剣を振り続ける。じっと見てくるレクト気にした様子もなく、彼は無言を貫く。
「なあ……。剣振ってて楽しいか?」
「楽しい楽しくないの問題じゃない」
「そんなにピリピリしてたら、お兄さんだって話しかけ辛いだろう? もっちょいにこやかこにしようぜ」
「邪魔するならリレーク兄さんに突き出すぞ」
「それは勘弁……」
シュン、と子犬のように落ち込むレクト。だが、そんな彼の行動も目に入らないのかザフィールは剣を振るう。
想像するのは対峙したあの魔獣の事。
スピード、体格通りのパワー。そして、魔獣のあの赤い目を想像するだけで怒りがふつふつと沸き上がる。
「待て。それはいけない」
「っ!!」
ハッとなる。
気付けば、ザフィールはレクトの首筋にピタリと木刀を当てていた。当たった感触はなく、よく見ればレクトの手が木刀を受け止めているように見えた。
「……」
「怒りで目の前が分からなくなるなら止めろ。俺だから良いようなものの、家族の誰かだったり使用人なら怪我をする」
「……。貴方だって怪我をさせたらいけない人ですよ」
「そう思う位には、冷静になれたか?」
「申し訳ありませんでした」
剣を振るのを止めれば、どっと汗が出てくる。いや、元から出ていたがそう感じるのがたった今なのだ。集中し過ぎるのも問題か、とザフィールが反省していると何故かニコニコと見ているレクト。
「……なんです」
「休憩だろ? この際だから、案内を――」
「見付けましたよ、レクト様!!」
「げっ……」
「あ」
「ザフィールの反応が気になったから戻ってみれば……。レクト様、視察だとご理解していますよね? 遊ばないで下さい」
「城じゃないからと思ったが、息抜きが出来ない」
「リレーク兄さんの説教は長い。早めに謝った方が良い」
「小声で言ってても分かるよ!?」
巻き込まれるようにして、ザフィールも怒られ視察で来ていたレクトは終始ぶすっとしながら説教を聞く。レクトはすぐに馬が合うと感じ、仲良くなろうとするがザフィールは無視を貫いた。
その数日後。
「よっ!!」
「……貴方、暇なんですか」
「暇じゃない。これでも護衛をまいたんだ。ザフィールは変わらずに剣を振ってるな」
「ザフィールっ、レクト様を捕まえろ」
「喜んで」
「うわっ、ひでぇ!?」
それから5年後。
構い続けるレクトにザフィールが根負けし、彼の護衛騎士に。
しかしレクトが指名したのには理由がある。それをザフィールが知るのはもっと後の事になる――。