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あの日に誓った


「良いか、ザフィール。魔獣に遭遇したら迷わずに逃げろ……」

「父上っ!!」


 苦しそうに血だまりを吐き、息子に忠告するのは父親であるアギレ辺境伯。

 致命傷を負っているのは誰が見ても明らかで、必死で治癒魔法を行使する人は「ダメです、諦めないで」と呼びかける。


 ザフィール・アギレ、13歳。

 剣の才能があり、アギレ家の3男だ。この日は魔物の討伐を行った帰りであり、屋敷に着いたら兄達に自慢する気でいた。しかし、それは突然現れた。


 黒い体毛を持ち、赤目がギョロギョロとした不気味な存在。

 狼のような見た目の二足歩行をし、巨体にも関わらずスピードが凄まじい。唯一の弱点なのか、雷鳴が響くとビクリと体を震わせた。

 だからこそ雷系統の魔法を駆使し、今は少しでも近付かせないようにと踏ん張る自分達。


「く、まさか……ここで変異種が来るとはな……。絶滅した訳では、なかった、か……」


 魔獣とは魔物の変異種であり、絶対的な数が少ない。だが、古い文献によればその魔獣により都市を壊滅させられた歴史は多く残る。

 歴史書には、都市を中心に狙うとされているがそれに続くまでの村々やそこそこ大きい国も流れるように襲われていると記されており、魔獣の討伐が各国から結成された。

 各国から連なった強者達により魔獣は滅んだ、とされていた。


 魔獣の姿が確認されなくて数百年。

 平和になったとされたが、何事にも例外はあったのだろう。魔獣の生き残りか、生き延びたのが居たという事だ。


「よ、くも……。よくも父上をっ!!」

「っ、いけない、ザフィール様!?」


 尊敬する父を傷付けられ、怒りに燃えるザフィールの突貫。

 分かりやすい直線の攻撃に、討伐を組んでいる小隊の人達は焦った。ここで当主を失うかも知れないと言うのに、その息子も犠牲になるのは危険だ、と。

 だが、その直線が寸前の所で急激に曲がり魔獣の体を貫いた。


「ガアッ、グウオオアアア!!」


 驚きながらも、自身に纏わりつくように付いてくるザフィールを払う。その動作も、雷を身に纏う彼にはゆっくり動いているように見える。


「こ、れで――!!」

「グオオッ」


 剣を思い切り振りぬいた直線の攻撃。

 それが見事、魔獣の右目にヒットし傷を負わせた。これには魔獣も驚いたのか、すぐに距離を取った。フーッ、フーッ、と興奮気味に息を吐くが冷静になったのか急に大人しくなった。

 その不気味さにザフィールだけでなく、小隊達も緊張気味に武器を構えいつでも攻撃出来るように備える。


「グルル……」


 ギロリ、とザフィールを睨んだ後で魔獣は跳躍しその場を離れた。

 え、とまんまと逃げられた事に気付くのに数秒ほど時間を有しすぐに周囲の警戒へと切り替える。ザフィールは、魔獣に攻撃を与えられた事に高揚しながらもすぐに父の元へと走る。


「見ていた、ぞ。……流石、私の子だ……」

「ですが、逃げられました」


 魔獣に遭遇すればまず助からない。

 運悪く出会ってしまった自分達だったが、被害を受けたのは当主である自身だけ。小隊だけでなく、自身に強い憧れを抱く息子が生き残った。その事に、彼は酷く満足気であり――そのまま静かに息を引き取った。


「……必ず。必ずあの魔獣は、俺が討ちます!!」


 見ていて下さい、と心の中で言いながらザフィールは泣きながらに誓った。

 その日以来、彼は涙を見せる事はなくなった。感情に蓋をするように、訓練に打ち込んだ。そして、酷く歪であり真面目なザフィールは王太子であるレクトと出会い――自身の護衛騎士にと抜擢した。


  

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