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Episode4

少女は森に向かいます。そこで待ち受けているものは……?

 少女は馬に乗って、森を目指して進みました。

 途中、お腹が空いたものですから、少女は一旦休むことにしました。

 そこは草がまばらに生えた荒れ地になっており、目と鼻の先に暗い森が見えていました。

「あそこがそうなのね」

 少女は馬にそう呟きました。

 馬は何も言いませんでしたが、少女の肩に軽く鼻先を押し当てました。

「ここからなら、歩いて行けそうだわ。馬さん、どうもありがとう」

 少女はそう言って、馬に別れを告げました。

 馬が城の方に向かっていくのを見届けると、少女はその辺の岩に腰かけ、城のコック長が持たせてくれたバスケットを広げました。

 中にはパンがひとかたまり、魚の燻製、ハム、チーズ、それに果実酒が入っていました。

「とてもおいしそうだわ」

 少女はパンを半分と果実酒を少し残した以外は、全て食べてしまいました。

 お腹も膨れましたので、少女は森を目指して歩き出しました。

 森までの道は少しずつ草が生い茂っていましたが、それでも人を寄せ付けないさびしい道でした。

「もし、子ども達が見た少年が私の許嫁だったとして、どうしてこんなさびしい場所にきたのかしら」

 少女は歩きながら考えましたが、結局何も分かりませんでした。

 森の入り口に差し掛かった時、少女は急に髪を引っ張られました。

 辺りを見渡しましたが、誰もいません。

 不思議に思いましたが、少女はそのまま森の中に入っていきました。

 森は背の高い木がところ狭しと並んで立ち、おまけにやぶが生い茂っていて一歩先に進むのも一苦労でした。

 地面もぬかるんでいて、時々滑って転びそうになりました。

「あんまりいい森じゃないみたい」

 少女がそう呟いた時、また誰かが少女の髪を引っ張りました。

 少女は後ろを振り返りましたが、やはり誰もいません。

「草に髪がひっかかったのかしら」

 不思議には思ったものの、少女はそのまま歩き続けました。

 それからも時々、少女の靴に誰かが触ったり服を引っ張られるようなことがありました。

 その度に少女は立ち止まって、周りを見渡しましたが、やはり誰もいないのです。

「私の髪を引っ張るのはどなた?」

 少女はそう呼びかけましたが、返事は返ってきませんでした。

 その時、バスケットで眠っていた銀のひよこがピヨピヨと鳴きました。

「どうしたの?」

 少女はそう言って、ひよこを手のひらにのせて軽くなでてやりました。

 ひよこは目をつぶりながら少女になでてもらった後、前の方を見てまたピヨピヨと鳴きました。

 少女が前を見ると、そこには小さな明かりが1つ浮いていました。

 よく目を凝らして見ると、それは王様の城の秘密の庭で会ったあの妖精でした。

「あなたはあの時の妖精さん?」

「はい、あの時あなたから銀の卵の殻をもらいました」

 少女がそう尋ねると、妖精はそう答えました。

「ところでお嬢さん、なんだってこの森に来たんです? ここは魔女が住んでいる森です。人間が近づくところじゃありません。悪いことは言いません。

 早く帰った方がいいです」

「心配してくれてありがとう。けれど、私の許嫁の王子様がここに来ているかも知れないの。ねえ、妖精さん。見なかったかしら?」

 少女はそう尋ねました。

「ひょっとして、魔女が捕まえているあの人間かな? 確かにいい身なりをしてましたからね。それにお姫様を探していると言っていたっけ」

 少し考えた後、妖精はそう言いました。

「やっぱりそうなのね。妖精さん、その人は今どこにいるの」

「魔女の家です。この森の奥の奥に魔女の家があります。魔女はそこに住んで、毎日何かをやっています」

「その場所は知っているの?」

「ええ、もちろん。ガラスの花をとってきた妖精は魔女の家に届けに行くことになっていますから」

 妖精は少し震えながら、そう言いました。

「妖精さん、案内してもらえないかしら。私は、許嫁に会いたいの」

 少女は妖精にそう頼みました。

「困ったなあ。お嬢さんには助けてもらった恩がありますからね。だけど、魔女の家に人間を案内したと分かったら、ぼくらは皆こっぴどい目にあわされてしまいます。ただでさえ、魔女にこき使われてみんなへろへろなんです」

「じゃあ、あなたたちの女王様も助け出すのはどう?」

 少女がそう言いますと、妖精は「それなら」と言い、明かりを消して少女の肩に腰かけました。

「魔女はとても目が悪いんです。こうすれば気が付かないはずです。じゃあ行きましょう」

 森の奥へ入っていくと、やがて黒い木と石でできた家が見えてきました。

「あれが魔女の家です。煙突から煙が出ていないから、魔女は留守みたいですね。今のうちです」

 扉の前まで来ると、妖精は少女の肩から降りて、鍵穴に手をかざしました。すると扉が静かに開いて少女たちを招き入れました。

 部屋の中には薬草やら何かの生き物の毛皮やら気味の悪い虫やらであふれていて、足の踏み場もないほどでした。

 かまどの中には大きな鍋が1つかかっていて、その中には奇妙な液体とガラスの花が入っており、そばには小さなガラス瓶につめられた金色の液体が置いてありました。

「これは一体、何をしているのかしら」

 少女はとても気になりましたが、妖精が「早く王子様と女王様を探しましょう」と促すので、一旦その場を離れて別の部屋に行きました。

 次の部屋は魔女の寝床でした。気味の悪い絵とベッドが1つぽつんと置いてあるきりで、とても寂しい部屋でした。王子様も妖精の女王様もいないようでしたので、みんな次の部屋にいきました。それから、調理場や他の部屋も見て回りましたが、人っ子ひとり見当たりません。

「おかしいなあ。魔女が王子様と女王様を捕まえているのは確かなんです。いったいどこに捕まえているんだろう」

 妖精が頭を抱えながらそう言った時、銀のひよこがバスケットの中から飛び出して、ピヨピヨと鳴きながら寝床の方に歩いていきました。

 少女と妖精が後を追いかけると、ひよこは寝室の絵の前に立ち、ピヨピヨと鳴きました。

「この絵を外せばいいのかしら」

 少女がひよこにそう尋ねると、「そうだ」と言うようにひよこは鳴きました。

 絵を外すと、その奥は小部屋になっており、鍵のかかった扉がありました。

「どなたかおいでですか」

 少女がノックして聞いて見ますと、中から「そこにいらっしゃるのはどなたですか」と声がしました。

「間違いありません。この声、女王様の声です」

 声を聴いた妖精が、ハッとした顔でそう言いました。

 それから急いで扉を開けようとしましたが、とびらはうんともすんとも言いません。少女も手伝いましたが、やはり結果は同じでした。

「困ったわ。どうしたらいいのかしら」

 少女は赤いガラスの花にそう呟きました。するとガラスの花が光って、花びらが1枚、扉に向かって飛んでいきました。

 花びらが扉に触れると同時に扉が開き、中からひと際美しい妖精が姿を現しました。

「ああ、やっと出られたわ」

 そう言って、背中にある羽を伸ばしました。

「女王様、ご無事でなによりです」

 妖精が女王様の前でひざまずきながらそう言いました。

「お前は私の家来ですね。よくやってくれました。お前には後で褒美を出しましょう」

「恐れながら申し上げます。このお嬢さんが協力してくださったおかげでございます。女王様、なにとぞこのお嬢さんに力を貸していただけませんでしょうか」

 そう言って、妖精は少女を女王様に紹介し、少女はこれまでのことをのこらず話しました。

「なるほど。では、魔女が捕まえている人間はあなたの許嫁なのですね。あなたには命を助けられました。王子のところまで案内しましょう」

 そう言って、女王様はベッドの上に降り立つと、少女にベッドのふちを3回たたくように言いました。

 少女が言われたとおりにしますと、ベッドが動き出し地下に通じる階段が現れました。

 女王と妖精が明かりをつけて先を照らしました。階段を降り切ると、そこには王子様が椅子にくくられて眠っていました。

 少女は体をを揺さぶったり、名前を呼んでみたりしましたが、一向に起きる気配がありません。

 その時、妖精が階段の方を見て「魔女が帰ってきたみたいです」と少女に耳打ちしました。

「どうしましょう。王子様を連れて逃げるのはとても無理だわ」

「お嬢さん、そのガラスの花を僕にくれませんか。ガラスの花を取ってきたと言えば、魔女も怪しまないでしょう」

 少女は迷ったものの、ガラスの花を妖精に渡しました。

「私も戻りましょう。私の家来だけを危ない目にあわせるわけにはいきませんから」

 そう言うと、妖精と女王は急いで寝室に向かって飛んでいきました。やがて、ゴトンとベッドが元の場所に置かれる音がしました。

 扉の入り口では、魔女がちょうど靴を脱いだところでした。

「おかしいぞ。なぜ鍵が開いている。誰かがわしの家に勝手にあがりこんだな。そんな奴は捕まえて大鍋で煮て食ってしまうぞ」

 そう言って、部屋に入りました。

 そこに妖精がやってきて「魔女様」と呼びかけました。

「なんだ、お前は」

「あなた様のしもべでございます。ガラスの花を取ってきましたので、お届けにあがったのです」

「ガラスの花を? まだ日が沈みだしたばかりだというのにか。どうやってとってきた」

「いつもの通り、まぬけな兵隊たちに薬をかがせ、みんな眠り込んだ後にそっと摘んできたのでございます。お確かめください」

 そう言って妖精は、少女からもらった赤いガラスの花を魔女に差し出しました。魔女はそれをさわり、確かにガラスの花だと知って納得しました。

「ふむ。確かにこれはガラスの花だ。間違いない」

 そう言って、魔女はガラスの花をかまどにかかっている大鍋に放り込み、火にかけ始め、時々かるくまぜました。

「ところで魔女様、いったい何をつくっておられるのですか」

 妖精がそう尋ねますと、魔女は「知りたいか」と妖精の方を向きながらそう言いました。

 妖精は少し震えながらも「はい」と言いましたので、魔女は「惚れ薬をつくっているのだ」と答えました。

「なぜ、そんなものを作るのですか」と妖精が聞きますと、魔女は少し苛立ちながらも話し出しました。

「わしは元々、遠い国に住んでいた。その国である時、王様の妻が大変な病気になったので、それを治してやったのだ。その時王様は褒美をくれると言ったので、儂は王様の子どもが欲しいと申し出た。王様もそれでよいとおっしゃったのだ。お妃さまは元気な子どもを産まれたので、わしはすぐに城に出向き、約束のとおり、王子様をおよこし下さいと言ったのだ。しかし、お妃さまは立派な王子になってからあなたに差し上げますと言ったので、わしはそれを信じてまつことにした。ところが、わしの知らない間に王子と姫が結婚する事が決まっていた。わしはその場に駆けつけて、姫に王子を返せと言った。姫が嫌だと言ったので、わしは姫の右目から色を抜いて、どこかの山奥に捨ててやった。そして王子には姫の行く先が知りたければわしの家まで来いと言った。王子がわしの家に来た時、わしはもう一度王子に話をした。王子がそれでも嫌だと言ったので、わしは王子に魔法をかけ地下室に閉じ込めたのさ。惚れ薬をのませて、わしのことしか考えられないようにしてやるのだ。二度と姫に心が傾かないようにな」

「そのためにガラスの花が必要だったのですか」

「ああ。しかし、美しく珍しいものが必要だ。そうして作った薬に姫の右目から抜いたあの金色を入れることで、惚れ薬は完成する」

 魔女はそう言って、そばに置かれたガラス瓶を見てにやりと笑いました。

「さあ、もう十分話した。話し過ぎたかもしれん。とっととわしの前から消え失せろ」

 そう言って魔女は、妖精を追い払いました。

 妖精は家を出ていくふりをして、寝室に戻りました。寝室では女王様が待っていましたので、妖精は聞いたことを残らず話しました。

 女王様と妖精はそのまま地下室に戻り、少女に語って聞かせました。

「では、やはりあなたは私の許嫁なのですね。でもなんてこと。魔女が私になり替わろうとするなんて。それに、どうすればあなたにかかった魔法をといてあげられるの?」

 そう言って少女はさめざめと泣きました。

 すると銀のひよこがバスケットの中に潜り込み、残っていたパンを全て平らげてしまいました。そして、果実酒が入った瓶をつついて「あけてくれ」と言うように鳴きました。

 少女がふたを開けると、ひよこは果実酒を飲み干し、妖精が持ってきていたガラスの花の花びらを食べました。食べ終わるやいなや、ひよこは立派なおんどりになっていました。

 おんどりは力強い声で「こけこっこう」と鳴きました。すると王子様は目を覚ましました。それを見て少女はとても喜びました。

「私のことがわかりますか」

 少女がそう尋ねますと、「もちろんだとも。私の愛しい人よ」と王子様は言いました。おんどりがくちばしでなわをほどきましたので、王子さまは自由の身になりました。

「姫よ。早くここから逃げ出さなくては。あの魔女はとても執念深い。私たちが出会ったことを知ったら、きっとただではおかないだろう」

「私もあなたと離れたくはありません。けれど、どのみち魔女とは対決しなくてはなりません。きっと大丈夫ですわ」

 王子様はうなずくと、地下室から寝室に向かって階段を上っていきました。みんなもそれに続きました。

 その頃魔女は、部屋で惚れ薬を煮込んでいましたが、寝室が騒がしいことに気が付きました。

「どうも寝室の方が騒がしい。わしの寝床で何かしてるやつがいるな。そんな不届き者は今夜のごちそうにしてくれる」

 そう言って寝室に向かおうとしたとき、王子様と少女が魔女とはち合わせました。

「王子め、どうやって抜け出してきた。それにお前は王子の許嫁の姫だな。なぜここが分かった」

「妖精さんが助けてくれたのよ。惚れ薬のことも聞いたわ。私の右目の色を返して」

「ばかぬかせ。誰が返すものか。お前も妖精もただじゃおかんぞ。こっぴどい目にあわしてやる。さあ、覚悟はいいか」

 そう言って、魔女はどこからともなく杖を取り出すとぴたりと狙いを定めました。そこに銀のおんどりが走ってきて、魔女の足を思い切りつつきました。

 その痛みに魔女は飛び上がり、つまずいて転んで、鍋の中に落ちてしまいました。こうして魔女は、鍋の中で死んでしまいました。

 妖精の女王がガラス瓶を持ってきて、少女に渡しました。

「この中にあなたの右目の色が入っています。これを飲めば、あなたの右目ももとに戻ります」

 少女が言われたとおりにしますと、透明だった右目が蜂蜜のような金色になりました。

 王子様と少女に銀のおんどり、そして妖精とその女王様は魔女の家から逃げだしました。

 やがて森の真ん中に着くと、他の妖精たちが女王様を出迎えました。みな、女王様が無事だったことを喜びました。女王様は妖精たちに命じて、とてもきれいな服を持ってこさせました。

「あなたの婚礼式の時にお使いなさい。きっと似合う事でしょう」

 少女と王子様がお礼を言うと、妖精たちは森に帰っていきました。

 それから、お姫様に戻った少女と王子さまは自分たちの国に戻り、盛大な結婚式をあげました。

 そして末永く幸せに暮らしましたとさ。

約2週間ぶりになってしまいました……。投稿するのが遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。

これをもって、この作品はおしまいです。最後は少し走りすぎた感もありますが、お許しくださいませ。

未熟な私が書いた作品でしたが、読んでくださった方々に心からの感謝を捧げます。もしよろしければ感想やご意見等々いただければ幸いです。また次回の作品で皆様にお会いできますよう、心から祈っております。またお会いいたしましょう、さよなら。

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