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Episode3

街を出て、向こうの城に着いた少女。そこで少女をまっていたものは……?

少女を乗せた馬は、素晴らしい速さで駆けていきました。おかげで、日が沈みだした頃には城の近くの街にたどり着くことができました。

「馬さん、ありがとう。これはお礼に」

 少女はそう言って、馬に少なくなったパンをすべてやりました。

 馬はパンを食べた後、一声鳴いて元の街に向かって走っていきました。

 城の近くの街では街の人たちが行き来していましたが、どうにも皆怯えたような表情をしていました。

 少女は不思議に思いましたが、今夜の寝床を探すために思い切って近くの男に声を掛けました。

「すみません。どこか泊まれるところを知りませんか」

 すると男は飛び上がるぐらいに驚き、そして少女をジロジロと見つめました。

「ああ驚いた。で、何の用かね」

「今夜泊まれる場所を探しているのです。どこかご存じありませんか」

「ここから少し行ったところに宿屋がある。そこで尋ねてみるといい」

 男はそう言って、少女がお礼を言う前にそそくさと足早に去っていきました。

 少女は呆気に取られていましたが、ひとまず宿屋に向かうことにしました。

 宿屋はこぢんまりとしていましたが、泊まるぶんには問題はなさそうです。

 宿屋のおかみは少女に「泊まりたいのかい」と声を掛けました。

 少女が頷くと、部屋に案内して鍵を渡し、さっさと出ていきました。

「なんだかおかしいわ。どうして皆、こんなにも冷たいのかしら」

 少女はそう言いながらも、疲れていましたのでベッドに潜り込んで寝てしまいました。

 少女が目を覚ますと、そこは粗末な作りの部屋でした。ろうそくが一本あるだけで、しかも隙間風が吹いていて今にも消えそうにゆらゆら揺れていました。

「おかしいわ。どうしてこんなところにいるのかしら」

 少女はろうそくの明かりを頼りにドアを見つけると力いっぱい押しました。しかしドアはうんともすんとも言いません。

 そこで次は引いてみましたが、やはり結果は同じでした。

「閉じ込められてしまったみたい。けれどどうして? 私は何も悪いことはしていないのに」

 少女がそう呟いた時、壁をドンドンと叩く音がしました。

「そこにいるのはどなた?」

 少女が尋ねますと、鍵の外れる音がした後、兵士が2人入ってきました。

「こんな娘っ子が犯人だってのかい?」

 兵士の一人が少女を見ながら、そう言いました。

「見た目に惑わされちゃいけねえ。魔女かも知れないじゃねえか」

 するともう一人の兵士が、やはり少女を見ながらそう言いました。

「とりあえず、連れていくことにしようぜ。王様のご命令だ」

「そうだな。ちんたらしてたら、俺たちの首が飛んじまう」

 兵士たちは少女を立たせ、それぞれが少女の片腕をつかんで王様の前に連れていきました。

 立派なひげをたくわえた王様が、王座から少女を一にらみして言いました。

「お前はどこから来たのだ」

「向こうの街のそのまた向こうの村からです」

 少女はひざまずきながらそう答えました。

「では、これは何だ」

 王様はそう言って、赤いローブから銀の卵を取り出して見せました。

「それは向こうの街でめんどりからもらったものです」

 少女はそう答えました。

 すると、王様は突然立ち上がって「嘘をつけ!」と叫びました。

「儂を騙そうたってそうはいかん。知っておるのだぞ。向こうの街には確かに、銀の卵を産む素晴らしいめんどりたちがおる。しかし、ここのところは全く産んでいなかったと聞いておる。にもかかわらず、お前が銀の卵を持っているなどおかしな話ではないか」

 言い終わる頃、王様の顔は真っ赤になっていました。

「騙そうなどと思ってはいません。めんどりたちは卵を産んでいましたが、小屋の下に住んでいる蛇が夜な夜な卵を丸のみしていたのです。蛇はもう首をはねられましたから、もう銀の卵がなくなることはないでしょう」

「だとして、なぜお前が銀の卵をもっておるのだ」

「めんどりが私にくれたのです」

 少女は静かにそう答えました。

「だれが、小屋の下に蛇が住んでいると気付いたのだ」

 王様はまだ鼻息も荒く尋ねました。

「森のカラスたちが話していました。私はそれを伝えただけです」

 少女はそう言いました。そしてこうも続けました。

「王様、私からも尋ねたいことがございます。なぜ、私は閉じ込められてここに連れて来られたのでしょう」

 王様は大きく息を吐くと、玉座に座り直しこう言いました。

「簡単なことだ。お前がわしの大事なガラスの花を盗んだ犯人かも知れないからだ」

「ガラスの花?」

「そうだ。この城の儂だけしか知らない秘密の庭に、様々な色のガラスでできた花が咲いておる。しかし、毎日毎日それを盗んでいくやつがおるのだ。兵士たちを番につけたが、誰一人として捕らえることは出来なかった。街の者たちにも聞いて回ったが知らないと言う。すると占い師が『街にやってくる旅人が盗んでいるのかもしれません』と言ったのだ。そしてちょうど街に来たのがお前だった。そう言う事だ」

 そう言って、王様はため息を一つつきました。

 少女はそれを聞いて、カラスたちが話していたことを思い出していました。

 少女は口を開いて、王様にこう言いました。

「恐れながら申し上げます。王様のガラスの花を盗んでいるのは妖精です。兵士たちが魔法の粉で眠ってしまった後、ガラスの花を取っていってしまうのです」

 すると王様は「それは本当か」と少女に尋ねました。

「カラスたちがそう話していました。そして、今までカラスたちの言っていたことに間違いはありませんでした」

「そこまで言うのならば、お前が今夜の番につけ。もし本当に妖精がいるならば、捕まえてここに引っ立てて参れ。もしできなければ、お前の首をはねることになるぞ」

 そう言うと、兵士たちに命じて少女を部屋に連れて行かせました。

 夜になりみんなが寝静まる頃、少女は兵士たちに連れ出され、王様のもとに連れて行かれました。

「ここまででよい。持ち場に戻れ」

 兵士たちが礼をしていってしまった後、王様は少女についてくるように言いました。

 階段を昇り降り、扉を開け閉めを何回か繰り返すと、いつの間にか小さな庭に出ていました。

 その庭を見て、少女は息をのみました。

 庭一面にガラスの花が咲き誇っており、星の光を受けて薄く輝いていたからです。

「ここは、儂以外に知る者はいない秘密の庭だ。お前は明け方までここで番をするのだ。せめてもの情けにこれは返してやろう」

 そう言って、王様は少女に銀の卵を手渡して帰っていきました。

 少女は花壇の近くに腰かけると、銀の卵を両手で包み込みながら言いました。

「困ったわ。妖精が犯人だとしても、どうやって捕まえればいいのか分からない。カラスたちはそこまで話していなかったもの」

 少女はそう卵に呟きました。そして、いつの間にか眠ってしまいました。

 夜の真ん中頃、何かが手の中をもぞもぞと動く感覚で、少女は目を覚ましました。

 両手を開けてみると、銀色の毛をしたひよこが少女の手の中でピヨピヨと鳴いていました。

「あら、かわいいひよこさんね」

 そう言って少女はひよこを撫でました。

 ひよこは少女の撫でるがままに任せた後、庭の方を見てピヨピヨと鳴きました。

 少女が庭を見ますと、小さな明かりがガラスの花の近くに浮いているではありませんか。

 近づいて見てみると、妖精が一人、ガラスの花に近づいて摘み取ろうとしていました。

「さあ、今日も一つ頂いていくことにしよう。でないと、ひどい目にあわされる」

「誰にひどい目にあわされるの?」

 少女はそう声をかけました。

 すると妖精は少女の方を見て何か言おうとしましたが、驚きのあまり声が出ませんでした。

 少女は手を伸ばして妖精の羽をつまみました。

「あっ、いたいいたい。お願いだから見逃してください。ガラスの花を持って帰らないと、僕だけじゃなく仲間もひどい目にあわされるんです。お願いだからはなしてください」

 妖精は少女に頼みました。

「私もそうしたいのだけど、ガラスの花を盗っている犯人を捕まえると王様に約束してしまったの。だから、あなたを王様のところにまで連れて行かなくてはいけないわ」

「それは困ります。本来、妖精は人に姿を見られちゃいけないんです。なのに大勢の人に見られるとなったら! 僕は間違いなく殺されてしまいます」

「ねえ、妖精さん。あなたたちはどうして王様の大事にしているガラスの花を盗むの? そして、誰にひどい目にあわされるの?」

 少女は妖精にそう尋ねました。

「魔女にですよ」

 妖精は小さな声で言いました。

「僕たちは別に、ガラスの花なんか欲しくないんです。けれど、僕たちの住んでいる森にある時魔女がやってきて、僕たちの女王様を捕まえて、僕たちのことをこき使うようになったんです。魔女は僕たちに美しくて珍しいものを盗ってくるように言いました。色々持ってきたけれど、魔女のお眼鏡にかなったのがガラスの花だったんです。けれど、何に使うのかは知らないんです」

 妖精は泣きながら少女にそう話しました。涙がぽろぽろと少女の手を濡らしました。

 少女はその話を聞いていましたが、やがてこう言いました。

「ねえ、妖精さん。あなたが確かにいることを証明できるものはないかしら」

「証明できるものですか? だったらこれはどうでしょう」

 妖精はそう言って、小さな袋を差し出しました。

「この中には眠り薬が入っています。これをひとかぎすれば、だれでも眠ってしまって朝まで目を覚ましません。これなら証拠にならないでしょうか」

「大丈夫だと思うわ。それと、ガラスの花の代わりにこれはどうかしら」

 少女はそう言って、銀の卵の殻を妖精に見せました。

「これなら、魔女も気に入るかもしれません。ありがとうお嬢さん。頂いていきます」

 そう言って、妖精は殻を抱えて飛んでいきました。

「妖精さんがひどい目にあわされなければいいけれど」

 少女はそう呟いて、また眠りました。

 次の日の朝、少女は兵士に連れられて王様の前に行きました。

 王様は少女に妖精は捕まえたかと尋ねました。

「いいえ、王様。妖精を捕まえることはできませんでした」

 少女がそう言うと、王様は顔を真っ赤にして怒りました。

「では、お前の首をはねる準備をしなければならん」

 王様は少女にそう言いました。

「確かに、妖精を捕まえることはできませんでした。しかし、証拠の品はございます」

 少女はそう言って、妖精からもらった眠り薬が入った袋を王様に見せました。

「これは一体なんなのだ」

「これは眠り薬が入った袋でございます。これをひとかぎした者は、朝まで決して目が覚めないのでございます」

 少女はそう言いました。

 それを聞いて王様は兵士たちに、ひとかぎするよう命じました。

 すると兵士たちは皆すっかり眠りこけて、冷たい水を顔に浴びても起きませんでした。

「なるほど。これは確かに本物のようじゃ。しかし、なぜ妖精はガラスの花を持っていくのじゃ」

「魔女が妖精たちをこき使って、ガラスの花を盗っていかせているようです。けれど、妖精たちも何に使うつもりなのかは知らないと言っていました」

「ふむ。そうか」

 王様はうなずきました。

「ところで、王様。私はもう犯人ではないということでよろしいでしょうか」

 少女は王様にそう尋ねました。

「ああ。お前はガラスの花を守ってくれた。それに報いなければならぬ。何か望みがあるなら言ってみるがよい」

「では、食事を頂けませんでしょうか」

「構わぬ。では食堂で待っているがよい」

 そう言って王様は、少女を食堂まで連れて行くよう、召使に言い渡しました。

 少女が食堂について少し経った頃、たくさんのご馳走が運ばれてきました。

 パリパリに焼けた鳥、ふっくらしたパン、チーズ、皿一杯の果物、それに上等なワインまで添えてありました。

 少女はとてもお腹が空いていたものですから、自分でも驚くくらいに食べ、あっという間にお皿はからになってしまいました。

 するとコック長がやってきて、おかわりはどうかと少女に尋ねました。

「いいえ、もう十分頂きました。これ以上食べたら、お腹がはちきれてしまいそうです」

 少女はそう言いました。

 しばらくして、食堂に王様がやってきてまだ他に望みはあるかと尋ねました。

 少女は自分の身の上話をして、許嫁の王子様を知らないかと尋ねました。しかし、城の誰も王子様のことを知りませんでした。

 そこで、王様はおふれを出して国中の人に少女の許嫁の行く先を知らないか尋ねました。

 すると街の子ども達が、少し前にある少年がこの国のはずれにある深い森に入っていくのを見たと言いました。

「嘘じゃないよ。確かに見たもの」

 子供の一人が言いました。

「王子様かは分からないけど、ふらふらっとした足取りで森の奥に行ってしまったんだ。あそこは危ないところだから、誰も近づかないんだよ」

「人を食べる化け物がいるって言われてるの。だからあたしたち、決してそこには近づかないのよ」

 他の子ども達もそう言いました。

「王様。もしよろしければ、馬を一頭お貸し願えませんでしょうか。私はその森に行ってみようと思うのです」

 少女は王様にそうお願いしました。

「お前の気持ちは分かった。しかし、それがお前の許嫁とは限らんのだぞ。人に化けた悪魔かも知れん。それでも行くのか」

 王様は少女を心配してそう言いました。

 しかし少女の決意は変わりませんでしたから、王様は立派な馬にこれまた立派なくらをつけて少女に与えました。

 そして、少女に赤いガラスでできた花を一輪与えて、こう言いました。

「何か困ることがあれば、その花に言うがよい」

 少女は王様にお礼を言い、馬に乗って森へ向かっていきました。

ご無沙汰しております。Monotone Worldも早いものでもう3話目になりました。

次回で完結(予定)です。

出来れば、最後までお付き合いいただけますと幸いです。よろしくお願いいたします

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