Episode2
カラスたちの話を聞いて、森から帰ってきたその翌日。少女は村を出ることにした。自分の許嫁に会うために…。まずは向こうの街を目指します。
日が高くなり、空の向こうから光が差し込んできたころ、村で飼われているおんどりが「こけこっこう」と高らかに鳴きました。
「あら、もう朝になったのね」
少女は目をこすりながら、起きました。
顔を洗って、服を着替えたその時、扉を叩く音がしました。
「誰かしら」
少女が扉を開けるとそこには、牧師を先頭に村人たちが立っていました。
「それじゃ、牧師さま、後はよろしくお願いします」
村長がそう言い、村人たちは帰って行きました。
そこには、少女と牧師の2人が残されました。
牧師は聖書を片手に十字をきり、主へ祈りの言葉を述べました。
少女は何が起きているのかわかりませんでしたが、黙ってじっと聞いていました。
やがて祈りの言葉が終わると、少女は牧師に尋ねました。
「牧師さん、どんなご用でいらしたのですか」
「貴方の御魂を救いにきたのです」
牧師はそう答えました。
少女は目をぱちくりとさせて、さらに尋ねました。
「私の魂を? どうして?」
「貴方の魂が悪魔に囚われているからです」
「私は別に、悪魔に魂を売った訳ではありませんし、言葉を交わしたこともありません。何かの間違いでしょう」
少女は牧師にそう言いました。
「しかし、村人たちは貴方が森で動物たちと話しているのを見聞きしています。そして、あなたが昨日の夜にどこかへ出かけていたことも知っています。村人たちは貴方がしていることをとても恐れています」
「それには理由があります。牧師さん、私の話を聞いていただけませんか?」
牧師は少し悩みましたが、少女がとても真剣な目をしていたので、話を聞くことに決めました。
少女は牧師に残らず話しました。自分がお姫様だったこと、しかし気が付くとこの村にいたこと、許嫁の王子がいることなど全てを話し終えてから、お水を一杯のみました。
牧師は黙って話を聞いていましたが、やがてこう言いました。
「わかりました。あなたがこの村を出ていくというのなら、村人たちも何も言わないでしょう。あなたがこれ以上苦しむことの無いよう、主に祈りましょう」
そう言って牧師は、少女に祝福の言葉をかけました。
少女は礼を言って、牧師に自分の秘密を誰にも話さないようにお願いしました。牧師は誰にも言わないと約束し、廃屋を出ていきました。
「さあ、私もこの村を出ることにしましょう。少しでも早く、私の許嫁に会いたいもの」
少女はそう言って、袋に日持ちするかたいパンをひと固まり、チーズをひとかけら、ハッカ水の入った瓶を入れて、廃屋を出ていきました。
どこに向かおうか悩みましたが、とりあえず向こうの山目指して歩き始めました。
少女が村を出てから少し後。村では牧師が村人たちに話をしていました。
「では、あの娘は村を出ていったのですかな」
村長が尋ねました。
「探し物を見つけるために、この村を出ていくと言っていました。もう、この村には戻らないとも言っていました」
牧師はそう答えました。
「よかった。もうこれで怯えることもないんだね」
「うちの子どもが不安になることもなくなった。助かったよ」
村人たちは口々に牧師に感謝の言葉を述べました。
牧師はその様子を見て、本当は少女のことを伝えたいと思いましたが、少女と約束していましたから、秘密を話すことはしませんでした。
その頃少女は山の入り口に着いていました。
「この山を夜になる前には超えたいものだけれど」
そう言って、少女は山を登っていきました。
山道は最初はなだらかでしたが、登っていくたびに少しずつきつくなっていきました。半分ほど登った頃、ちょうどお昼時になりましたので、少女はおそらく木こりが切ったのであろう切り株に腰かけて、袋に入れたパンを半分とチーズを食べ、ハッカ水を飲みました。
少女が食べ終わったその時、後ろでうんうん唸る声がしました。
「こんな山の中で誰かしら」
少女は声がする方へ行ってみました。
すると小さな洞穴があり、その中から唸る声が聞こえてきます。
少女は怖い気持ちもありましたが、意を決して奥に入っていきました。
洞穴の奥では、一匹の狐が尻尾を抑えてうんうん唸っていました。
「ああ痛い。痛くてたまらない。このままだとしっぽをちょん切らなけりゃいけないかもしれない」
「狐さん、どうしたの? どこか痛いの?」
少女はそう声を掛けました。
狐は少女に気付いて、その場から離れようとしましたが、あまりにも尻尾が痛いので、すぐにその場にしゃがみこみました。
少女は狐のしっぽが赤く腫れていることに気が付きました。
「尻尾が赤くなっているわ。どうしたの?」
狐はどうしようか迷っていましたが、やがて少女にぽつぽつと話し始めました。
「いや、この前うまそうな果物を見つけましてね、それを取ろうとしたんですよ。すると果物はとれたんですが、その拍子に蜂どもの巣も落としてしまいましてね。その仕返しということで尻尾を刺されてこうなったわけです」
少女はそれを聞いて、ハシバミの木でカラスたちが話していたことを思い出しました。
「狐さん、このあたりで赤い木の実と水草が生えている場所を知らないかしら」
「赤い木の実と水草ですか? 赤い木の実ならこの洞穴を出てすぐ近くの茂みに生えています。水草はこの山の中に池があるので、そこに生えています。しかし、そんなもの取ってきてどうするんです?」
狐は不思議そうな顔をしてききました。
「少しだけ待っていてもらえないかしら。すぐにとってくるから」
そう言って、少女は洞穴を出ていきました。
洞穴を出てあたりを見渡すと、小さな茂みがあり、そこには小さな赤い木の実がまばらになっていました。
少女はそれを1つとって、袋の中に入れました。
次に池に向かおうとしましたが、どこにあるのかわかりません。少女が途方に暮れたその時、木の枝に鳥がとまりました。
「鳥さん鳥さん、この山にある池を知りませんか」
少女は鳥に尋ねました。
「知っているとも」
鳥はそう答えました。
「そこに案内してもらませんか」
鳥はうなずいて、少女の頭上を飛び回りました。
鳥に導かれて、少女は山の真ん中にある池にたどり着きました。
「鳥さん、どうもありがとう」
少女はそう言って、残っていたパンを少しちぎって、鳥に渡してやりました。
鳥は一声鳴くと、パンをくちばしにくわえて飛び去って行きました。
少女がかがみこんで池の中を覗いてみると、平べったい水草がゆらゆらと揺れているのが見えました。
それを何枚か摘み取ると、少女は来た道を戻り、狐のもとに急ぎました。
石で赤い木の実をつぶして尻尾に塗り、その上から水草を貼ってやりました。するといくらも立たないうちに、狐は尻尾をピンと立てて洞穴の中を駆け回りました。
「あれまあ、なんてことだ。あれだけ痛かった尻尾が何の痛みもなくなった。これでまた、堂々と山の中を歩けるぞ」
狐はそう言って、少女に礼を言いました。
「ありがとう、親切なお嬢さん。お返しに何かできることはありませんか」
「向こうの街にまで行きたいのだけれど、あとどれぐらいかかるかしら」
少女は狐にそう尋ねました。
「向こうの街ですか? ここからだと、歩いて後1日はかかります。これから先の山道はどんどん険しくなりますから、今日はここで泊まっていってください」
狐はそう答えました。
「ありがとう。でも、私は早く街に着きたいの」
少女はそう言って、狐にわけを話しました。
「なるほど、そういうわけですか。それなら、少しお手伝いしましょう。私の尻尾に乗ってください。お嬢さんが歩くより早く街に着けますよ」
そう言って狐は、尻尾を降ろしました。
少女はお礼を言って、尻尾に腰かけました。
狐は一気に走り出しました。その速さときたら、少女の耳元で風がビュンビュン唸るほどでした。
日が暮れて少しお星さまが輝きだしたころ、狐は街の入り口に着きました。
「着きましたよ、お嬢さん」
そう言って、狐は少女を尻尾から降ろしました。
「ありがとう、狐さん。おかげでとても早く着いたわ」
少女は狐にお礼を言って、残っていたパンをちぎって差し出しました。
「こちらこそありがとう、お嬢さん。あなたの願いが叶いますように」
狐はそう言ってパンを口にくわえ、そのまま山へ帰っていきました。
狐が山に帰っていくのを見届けると、少女は街に入っていきました。
あちこちの家の煙突から煙が上がり、料理のおいしそうな匂いが漂っています。居酒屋では、人々がわいわいと騒いでいました。
少女は何か食べるものを買おうと、店を探して歩いていました。すると、近くの家からでっぷり太った主人がひょっこりと顔を出し、少女に話しかけました。
「そこのお嬢さん、見慣れない顔だね。いったいどこから来たんだね」
「山の向こうの村から来ました」
少女はそう答えました。
「そりゃあまた、ずいぶん遠くから来なさった。疲れたし腹もすいただろう。うちにお入り。大したものはないが、ご馳走しよう」
「でも、迷惑ではありませんか?」
少女は主人にそう尋ねました。
「いやいや、そんなことはない。旅の人を粗末に扱ったと知られたら、とんだ薄情者と思われてしまう。お嬢さん一人ぐらいなら何の問題もないさ。遠慮せずにお入り」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えます」
主人が熱心にすすめてくるものですから、少女も断り切れず、家の中に入りました。
家の中はとても暖かく、暖炉の側では猫が二匹、体を伸ばして横になっていました。
「こんばんは、猫さんたち。今夜お世話になります」
少女がそう言いながら猫の下顎を撫でると、猫たちは鳴きながら少女の好きに任せるのでした。
すると、厨房から主人のおかみさんが顔を出しました。
「ようこそ、この街へ。どうぞゆっくりしていってくださいね」
そう言いながら、鍋を火にかけ始めました。やがて、鍋からいい匂いがしてきたころ、おかみさんは皿を3つ出し、そこに熱々のスープをよそい、パンの塊とハムを添えて食卓に並べました。
「さあ、できましたよ。食べましょう」
そう言って全員が食卓につき、感謝の言葉を述べた後、食事を食べました。
食事が終わった後、少女は主人とおかみさんにお礼を告げて立ち去ろうとしました。
「お嬢さん、こんな遅くにどこへ行くつもりかね。悪いことは言わない。今晩はうちに泊まっていきなさい」
「そうですよ。ただでさえ、夜は危ないんですから。うちにはベッドも余分にひとつあります。泊めることぐらいなんてことありませんよ」
主人もおかみさんも、そう言って少女を引き留めようとしました。
「お気持ちはとてもありがたいのですが、これ以上ご迷惑をおかけするわけにもいきません。おいしいごはんを頂けただけで十分です」
しかし、主人もおかみさんも中々折れないものですから、少女はついに根負けして一晩だけ泊まることにしました。
おかみさんは少女を2階の部屋に案内しました。そこにはふかふかのベッドと暖かそうな毛布、そしてベッドの横の小さなテーブルには水差しが置いてありました。
「これだけしかないけれど、ごめんなさいね」
「いいえ、十分です。ありがとうございます。では、おやすみなさい」
おかみさんが下に降りていくと、少女はベッドに腰かけました。
「なんだか、とてもくたびれてしまったわ。今日はもう、休むことにしましょう」
そう言って少女は水差しから水を飲むと、ベッドで横になりました。すると、あっという間に深い眠りに落ちてしまいました。
次の日の朝、少女が目を覚ますと下の部屋からお茶の香りがしていました。
階段を降りていくと、もうおかみさんは目を覚ましていて、火にかけたフライパンからは肉がじゅうじゅうと音を立てていました。
「おはようございます、おかみさん」
「あら、おはよう。昨晩はよく眠れましたか?」
少女がそう挨拶をすると、おかみさんも振り向いて少女にそう言いました。
やがてお茶が沸き、肉の焼ける音がしずかになったころ、おかみさんは主人を起こしに行きました。
その間少女は、おかみさんに言われたとおり、皿に肉と煮えた芋をよそい、カップにお茶を入れて食卓に並べました。
寝ぼけまなこの主人とおかみさんがやってきて、全員が食卓に着き、朝ご飯が始まりました。
「どうだね、お嬢さん。昨日はよく眠れたかね」
「はい、それはもうぐっすりと」
「そいつはよかった」
そう言いながら、主人は芋の上に肉をのせて、口いっぱいに頬張りました。
「ほんとは卵も出してやりたかったんだがなあ。あいにく、どこの家にもないと来た。今までこんなことはなかったんだがなあ」
主人がそう呟きましたので、少女は食事の手を止めて、主人にこう尋ねました。
「あの、卵がどうかしたんですか?」
「ああ、この街には世にも珍しい銀の卵を産むめんどりたちがいるのさ。やつらは毎日毎日銀の卵を産んで、わしらはそれを頂いてたってわけさ。しかしどうしたことか、最近やつらが全く卵を産まなくなってしまった」
「最初は病気かと思って、薬草を与えてみたりしたんですよ。けれどいっこうに卵を産まないので、街のお偉いさんたちが怒りましてね。今日の昼にめんどりたちを鍋に放り込むことにしたんです」
主人が話し出すと、おかみさんも続けて話しました。
少女はそれを聞いて、森でカラスたちが話していたことを思い出しました。
「それはめんどりたちのせいじゃありません。今ならまだ間に合います」
「お嬢さん、それはどういうことだね」
主人は驚いてそう聞き返しました。
「お偉いさんたちのところまで連れて行って頂けませんか。めんどりたちが悪いわけではないとお話ししたいのです」
主人とおかみさんは顔を見合わせてどうしようかと迷いましたが、少女があまりにも真剣な顔をしているものですから、お偉いさんたちがいる広場にまで連れていくことにしました。
街の広場では火がぼうぼうと燃え、その上に置かれた、これまた大きな鍋の中でお湯がぐらぐらと音を立てて煮えていました。
その横では、めんどりたちが狂ったように羽をばたつかせながら、檻の中を行ったり来たりしていました。お偉いさんたちがその様子をしかめ面をしながら眺めており、その横ではコックが包丁を研いでいました。
「湯はどうだ。もう沸いたか」
お偉いさんの一人がそう聞きました。
「もう十分に煮えております」
料理人がそう返しました。
「結構。それならやってくれ」
別のお偉いさんがそう言うと、コックはめんどりたちの檻を開けて、その中からよく太っためんどりを一羽つかみますと、その首をしめようとしました。
「お待ちください、どうかお待ちください」
その時声がしましたので、お偉いさんたちが振り返ってみるとでっぷり太った主人とそのおかみさん、そして少女が立っていました。
「なんだね。今からめんどりたちの首をしめて、鍋に放り込もうとしているところなのに」
「実は、こちらのお嬢さんが話があると言っております。どうか話を聞いてやっていただけませんか」
主人がお偉いさんたちにそう申しました。
「そちらのお嬢さんかね。一体、何の話をしたいのだね」
「銀の卵を産むめんどりたちについて、話をしたいのです」
少女は静かにそう言いました。
「ああ、この恩知らずどものことかね。こいつらは毎日毎日餌をやっているのに、ここしばらくは卵を産まなくなった。最初はわしらも心配したが、何をやっても卵を産まん。もう役に立たないのなら、せめて最後はみんなの腹を満たすぐらいはしてもよかろう」
お偉いさんの一人が怒ったような口調で、少女にそう言いました。
「違います。めんどりたちが卵を産まなくなったわけではありません。めんどり小屋の床の下に蛇がいて、その蛇が夜な夜な卵を丸のみしてしまうのです」
少女はそう訴えました。
「なに、床の下に蛇がいるだと? それは本当かね」
別のお偉いさんが驚いたように聞きました。
「森の中でカラスたちが話していました。その蛇を殺せば、めんどりたちはまた銀の卵を産むだろうと」
少女はそう言いました。
お偉いさんたちは額を突き合わせて話し合っていましたが、やがて一人が進み出て、少女にこう言いました。
「よかろう。ではこれからみんなでめんどり小屋に行ってみようじゃないか。そして、もしお嬢さんの言った通りなら、わしらはめんどりを鍋に放り込む必要はなくなるわけだ」
そういうわけで、みんなでめんどり小屋を見に行くことになりました。
めんどり小屋では子供が数人、小屋の中の藁を片付けたり水飲みを洗っているところでした。そして、まだ檻に入れられていないめんどりたちが一か所に固まって、羽を合わせながらぶるぶると震えていました。
「おや、これはみなさんお揃いで。どうしたんです?」
男の子が一人やってきて、お偉いさんたちに声を掛けました。
「忙しいところすまないが、小屋の中に入ってもよいかね。なんでもこちらのお嬢さんが、床の下に蛇がいると言うもんでね。それを確かめたいんだがね」
「床の下に蛇ですか? 困ったなあ。床を持ち上げようと思ったら僕らだけでは無理ですよ。男の人が2人は必要です」
「それなら心配いらん。ここにおる男たちに手伝ってもらえばいい」
何が始まるのか見ようとついてきていた群衆の中から、力自慢の男が2人名乗りをあげると、めんどり小屋の中に入って床板を持ち上げました。
すると、大きな黒い蛇がとぐろを巻いているのが見つかりました。
男たちがすぐに蛇を捕まえてコックに差し出すと、コックは持っていた包丁で首をはねました。そして腹を割いてみると、銀の殻がぼろぼろとこぼれました。
「なんてこった。お嬢さんの言うとおりだった」
お偉いさんの一人が頭を抱えながらそう言いました。
「わしらはとんでもないことをするところだった。大切なめんどりたちを食ってしまうところだった」
「すまんことをした。これからまた、卵を産んでくれるかい」
お偉いさんたちがそうめんどりたちに謝りますと、めんどりたちはいっせいにうなずきました。
「よかった。では急いで広場に戻ろう。檻に入った哀れなめんどりたちを放してやらねばならん」
そう言って、みんな急いで広場に戻りました。
広場に戻ると、お偉いさんたちはめんどりたちに詫びました。すると最初に鍋に放り込まれそうになっためんどりが少女の前まで歩いてきて、その場にしゃがみ込みました。めんどりが立ち上がると、そこには銀の卵が一個ありました。
少女はそれを拾って、お偉いさんたちに差し出しました。
「どうぞ、あなたたちのめんどりが産んだ卵です」
しかし、お偉いさんたちは首を振って言いました。
「いいや、それはお嬢さん、あなたの物じゃ。めんどりたちが命を助けてくれたお礼に産んだのじゃろうて。それに、わしらからもお礼を言わせておくれ。本当にありがとう」
周りの人々も、口々にお礼を言いました。
「ところでお嬢さん。これからどうするつもりなんだね」
でっぷり太った主人が、少女にそう尋ねました。
少女は自分のことを話しました。お偉いさんたちは黙って聞いていましたが、やがて一人が口を開きました。
「なるほど。許嫁の王子を探しにな。それならば、この街の向こうの城に行く方が良いじゃろう。歩いて行っては大変時間がかかってしまう。馬を一頭用意させるから、それに乗ってお行き」
「お気持ちは有難いですが、それ以上お世話になるわけにはいきません。私はただ、カラスたちが話していたことをお伝えしただけですもの」
少女はそう言って断ろうとしました。
「いやいや、めんどりたちの命を救ってくれたのじゃ。馬を用意することぐらい何ともない。これぐらいしか恩を返せぬのじゃ。どうか、受け取っておくれ」
街の人たちも口々にそういうものですから、少女は有難くその申し出を受け取ることにしました。
やがて、茶色い、立派な馬が一頭、少女の前に連れて来られました。
「この馬はこの街で一番足が速い。向こうの城にもすぐ連れて行ってくれるじゃろう」
「お嬢さん、本当にありがとう。お嬢さんの願いが叶いますように」
お偉いさんの一人がそう言うと、主人が続けて少女にそう言いました。
「私の方こそありがとうございました。皆さん、お元気で」
少女はそう言うと、馬に乗って向こうの城を目指して街を後にしました。
大変遅くなってしまいました。2話目です。楽しんでいただければ幸いです。
今後とも、よろしくお願い致します。
6/2追記
昨日投稿したばかりですが、内容を見返して途中部分を変更しました。ころころと変更してしまって申し訳ありません。改めて、どうぞよろしくお願いいたします。