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社畜の俺が天使を守る…!!

 やぁ、皆んな。はじめまして、俺だよ、俺。あはは、誰だって?夜長 暗斗だよ。え?名前が暗いって…?あははは、誰よりもわかっていることだよ。でもね、大人は前を向いて立ち向かわなければならないんだ。自分と、社会に…。

 「朝だ…」

何か硬いものが床に当たる音がする。あぁ…これで百九十八回目だ。時計が犠牲になるのは。

 辛い、しんどい、何もしたくない、死にたい…それは俺みたいな根暗で、将来になにも希望を見出していないような人間からよく出る言葉。死ぬだなんて勇気がないから結局は死なないんだけどね、あははは。そんなクソみたいなことを考えながら駅の中を歩く。

「あ、すみません…」

左肩に衝撃が走り、思わずつぶやく。

「うわ…最悪…」

なんだお前。うわ、最悪…なのはこっちの方だよこの若造が!!!!!!香水何重にかけてんだよ、色んな匂いがして逆に臭いわ!!こんなことを言ったら炎上するだけなので、頭の中で言葉をぶつける。

「おはようございます…」

「おはようございます…」

ここはブラック企業。社畜の巣窟だ。一人を除いて。

「おぉ、夜道くん、おはよう。今日も十一時まで、頑張ろうね」

「はい…頑張ります…」

夜道じゃねぇ…夜長だ…。そんな不満は喉の喉の喉の奥、そうだな…胃にでも持っていて消化してやるよ…頼むぜ、ペプシン。

「夜長さん、おはようございます」

「晴彦くん、おはよう」

この子は真波 晴彦。何故このクソみたいな会社にいるのか理解できないくらいに「陽」の子だよ。たった一人の例外だ。

「今日もお仕事頑張ります!!」

「うん、頑張ろうね…」

うん、可愛い。この子に会う前は男に可愛いだなんて思ったことがなかった。しかし、この子だけは、可愛いと思う。この子名前だけはこの会社の魂を擦り減らした老若男女はキラキラとした笑顔になる。まさしく、みんなのアイドル、天才、太陽だ。名前にぴったりだね!あははははは!

「そういえば、今日のニュース見ました?」

「何のこと?」

「なんか今、世界中で渦みたいなのが発生してるらしいですよ」

「何それ」

「こんなのです」

晴彦くんが差し出したスマホには、確かにまるで小さなブラックホールのような物が街中にあるのが見えた。

「何かランダムで発生してるらしくて、気をつけないといけないらしいです」

「そうか…夜だったら何も見えなさそうだな」

「そうですね、帰る時警戒しましょ!」

「あぁ」

それが本当だったらな。あ、良い子のみんなは、メディアリテラシーを身につけようね!

 「あ"ぁ…疲れた…」

「はは、夜長さん、潰れたカエルみたいになってますよ…」

「うるせぇ…もう家帰れない…」

「頑張ってください!取り敢えずコーヒーです」

晴彦くんがカップを目の前に置いてくれた。

「晴彦くん…元気だね」

「俺、元気だけが取り柄なので!」

「そんなことないよ…優しいよ…この会社のみんなのアイドル、天使だよ…」

「うぇっ!?そんなこと思われてるんですか!?」

「無理をしては…いけないよ…」

「って、俺にそんなこと言う前に夜長さん!?生きてください!?」

「骨は…放置してくれ」

「そこは拾うところじゃないの!?」

意識が…途絶えた。

 揺れる。心地いい間隔で…。

「んん…」

「夜長さん、起きました?」

「晴彦くん…ってうぇ!?」

「どうしました?」

「重いだろ!?下ろしていいよ、つか、ここまで運んでくれたの!?」

「全然軽いですよー!こう見えても俺、水泳でバリバリ鍛えてたんです!!」

「と、取り敢えず下ろして!」

「はーい…」

びびったぁ…起きたら後輩におんぶされてるとは…。

「今何時だ?」

「えっと…今は…三十八分です!」

「十一時…?」

「いえ、十二時です!」

終電ー!!!!!!!!!!俺が寝ちゃったからだよね、ごめーーーーーん!!!!!

「俺の家…来る?確か晴彦くんの家ってここから…」

「二時間です!!」

いや…遠いよ…なんでそんな遠いところにすんでんだ。新幹線なら大阪から東京まで行けちゃうよ…確か。

「タクシー拾って俺の家に行こ」

「ありがとうございます!」

 疲れた…今日も一日お疲れ様…俺…。二十七歳、独身、何なら彼女いない歴=年齢…大学時代のサークルの奴らはどんどん結婚していく。別に結婚願望があるわけではないけれど…死ぬ時は孤独死なんだろうなと思うと、少し寂しかったりする。この際ペットを飼ってみようかと思うけれどよくよく考えてみると自分のことだけでもこんなに精一杯なのにペットの世話までできるわけがなく、結局一人なんだろうなと思う日々を繰り返している。あぁ…風呂…きもちぃ…。

 風呂から上がってリビングに入ると、晴彦くんがソファに突っ伏して寝ていた。今日も頑張ってたもんな…。本当はこのまま寝かしてあげたいけど、俺にはこの子を運ぶ力が無いので起こさなければならない。ごめんな、こんな先輩で。

「晴彦くーん…晴彦くーん、晴彦、起きて」

「んぅ…夜長…さん…?今日お風呂入るのと、今日入らずに明日入るのと、どっちがいい?」

「…今日、入ります…」

晴彦くんはそう言って立ち上がる。しかし、よろよろとしていて危なかっかしたので結局ついて行くことにした。

「晴彦くん、そっちはお手洗いだよ、浴室はこっち」

俺はそう言って晴彦くんの手を掴んだ。その瞬間、俺の左端に何か真っ黒なものが見えた。晴彦くんは目を見開いて腕を引っ張ったが、抵抗も虚しく何かに吸い込まれる感じとともに意識を失った。

 「…さ…ん…よ……が、なが…よなが…よながさ…よながさん…夜長さん、夜長さん!!」

「うぇ!?」

急いで目を開けると超至近距離に晴彦くんのお顔が。すっごい、毛穴がひとつもねぇ…。

「ここ…どこですか…?つかあのニュース、本当だったんですね!」

「あれに吸い込まれたんだ、俺、ほぼ見えてなくて…」

「そうですよ」

「それにしても…」

マジでここどこだよ。周りを見渡すと木、木、木、木、雑草。マジで自然のど真ん中だ。

「自然だな…」

「そうですね」

「これからどうしよう…」

「と、取り敢えず何か周りにないか…一緒に探しましょう」

そうして俺たちは歩み始めた。

 「………なんっもねぇぇ!!!」

「本当に何もないですね…」

「そんなことある?」

「あるんじゃないですかね…」

なんだ、俺が空っぽでちっぽけな人間だから何もねぇのか!?俺が消えたら途端に何か現れるのか!?あぁ、そうだな、消えてやるよ…。自分ででは死ねないから誰か、俺を殺してくれ!!!

「夜長さん、あれ…」

「ん…?何…?」

うん、死んだ。なんじゃあれ、めっちゃくちゃ手があるんだけど。何あれ。

「と、取り敢えず逃げよう」

「そ、そうですね…」

「ゆっくり…ゆっくりだぞ…」

その瞬間、手がいきなりこっちに向かってきた。

「嘘、嘘嘘嘘、走るよ、晴彦!!!」

晴彦くんの手をとって全力で走る。…でも残念かな、四歳年下の大学卒業したてのピッチピッチの子の方が断然走りが速く、早速引っ張られる形になってしまった。

「晴彦、近づいてきてる!!」

「ほんとですか!?」

俺らが走るよりも、断然手の方が早く、もう少しで俺らに辿り着きそうだ。そんなことを考えていると、俺は枝に足を引っ掛けて、転けてしまった。晴彦くんが立ち止まる。

「馬鹿!!走れ!!!」

「無理!!」

「晴彦」

上を見ると手がどんどん俺の方に近づいてきてるのが見えた。無理。終わった、死ぬ。そう覚悟したが、真下に手を下ろすのではなく、斜め下に手を下ろしている。

「は?」

そこには、晴彦くんがいた。なんで?普通俺だろ。立ち上がれてないんだぞ?なんで?

「晴彦!」

「夜長さん!」

だめだ。晴彦くんが死んじゃう。だめ。こんな天使が失われるとか、社畜の光なのに。

「パルクールサークル舐めんな!!!」

俺はいつの間にか、そんなことを叫んでその手に蹴りを入れていた。少し手が怯んだ隙に晴彦くんの手を掴む。

「晴彦、走るよ!捕まって、社畜本気出す!!」

「夜長さん!?」

俺は晴彦くんを俵担ぎして走り出す。木の上に飛び移ったり、木の根の下を通り過ぎたりして手から離れていく。

「夜長さんパルクールサークルだったんですか!?」

「うん…ちょ…静かにして…!」

ただでさえお兄さん超無理してんのに、話す暇なんか無いよ…!!ごめんね、不甲斐なくて!!でも大人にはこれが限界なんだ…!

「あ、手がいません!」

「わかった、でも…もうちょい…走ろ」

「下ろしてください!走れます!」

「うん」

俺は晴彦くんを下ろし、走り出した。

「そろそろ良いかな、ここら辺で…!!ってうわ!!!」

「夜長さん!?」

「これ…」

「…!!!これって」

街………!!!???

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