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古き良き?学生寮 「隊長室」

夏休みも終わり、今﨑はいつもと変わらぬキャンパスライフを謳歌していた。授業の空き時間や学校が終わった後、今﨑は毎日のようにサークル「大学の明るい未来について語る会」(語る会)の部室に通った。行くといつも部室に北岡雅美がいた。大学の前期には一度も見かけたことがなかったのだが、女性解放連盟の仕事が忙しかったようだ。

窓際に長テーブルが置いてあり、北岡はそこでいつも何か書き物をしている。「語る会」の機関紙『革命志士』の原稿を書いているとのことだ。原稿は北岡をはじめ3名の部員だけで作成していた。サークルの部員は20名ほどいるのだが、サークル室に入り浸っているのはいつも5名くらいだ。サークルの表の活動は学生を啓発する機関紙作りなのだが、部員は実のところ左思想の活動家としての実行部隊であり、表の団体「語る会」がちょうどいい隠れ蓑になっている。今﨑はサークル室に来ても別段何をやるわけでもない。隊長も昼寝しているか本を読んでいるかだ。北岡はいつも静かに部室の隅で原稿を書いている。窓から差し込む日差しが北岡の栗色の髪に降り注ぐ。今﨑はその景色を見るのが日課となっていた。

新学期が始まって数ヵ月がたったころだ。今﨑は隊長に誘われて、隊長の寝泊まりしている寮に遊びにいくことになった。どういうわけか隊長は今﨑のことが気に入っているようなのだ。当の今﨑はノンポリである。左翼思想とは程遠い、というか全く興味がない。活動家の隊長にとっては、そんな今﨑がちょうどいい息抜きの相手なのだろう。

寮は大学キャンパスの北側にある雑木林を分け入るように進んだ一番奥にあった。古びた木造二階建ての寮だ。木の壁には所々亀裂が入り、雨が降ったら雨漏りが大変そうだ。今﨑は寮に着くと、隊長の部屋へと向かった。確か二階の一番端っこの部屋だと言っていた。廊下を歩くとギイギイと軋む音が寮全体に響く。床に穴が開くのではないかと心配になるほど古くなっている。今﨑は慎重に歩きながら廊下を進み、寮の中央付近にある階段を上り、二階の一番奥の部屋の前に着いた。部屋のドアの上に『隊長室』と書かれてあった。思わず吹き出してしまった今﨑なのだが、気を取り直して軽くノックした。


(コンコン)

「失礼しま-す。今﨑です」

「おう」


部屋の奥から隊長の声が聞こえた。床がきしむ音のあとガチャリとドアが開き、隊長が顔を出した。


「おう、よく来たな。散らかってるけど気にするな」


今﨑が部屋に入ると、隊長はとても喜んで「お前に見せたいものがある」と言うので部屋の中をついていった。寮の部屋はかなり広く、6畳二間になっており、部屋の仕切りの代わりに細長い棚が真ん中に置いてあった。本来は二人部屋なのだが、今は隊長一人で使っているとのことだ。隊長が手招きするので部屋の奥へ行くと、隊長は押入れの前に立ち止まった。それから押入れの襖を開け、中にある布団をよっこいしょと言いながら持ち上げて部屋の中へ出した。

「今﨑、見てみろ。前に住んでいたやつが書いた詩だ」

今﨑が見てみると、押し入れの奥の壁に太いマジックで書かれた文字があった。

***************

燃えている 燃えている

闘志に沸き立つ若き血よ

流れる星は消え去りながら

漆黒の夜空に軌跡を描く

その目に映る真実を

眼瞼に焼き付け 儚き勇者よ


風にたなびく刹那の木

夢見る光は今いずこ

あるとも知れぬ心の声を

ただひたすらに追い求む

忘れ去られた暗黒の地

心閉ざすな 悲しき勇者よ


喜んで 死に行くキミの微笑み

つたう涙は美しく

ただ一つ 残れし夢に包まれた

あなたの心に届く灯よ

***************

今﨑は首をかしげながら隊長に聞いた。


「この詩はどういう意味ですか?」

「行間にすべての意味がちりばめられている素晴らしい詩じゃないか。革命家の覚悟を感じる。絶望に身をやつしながらも、信じる道を進みゆく若き戦士の心情を謳った詩だ。自らが志す夢に邁進するあくなき挑戦と儚さが見事に凝集されている。表面的な言葉の意味は分かるやつにだけわかればいい。しかしそれでいいんだ。この詩を読み、心に感じいった魂が大切なのだ。この部屋はな、そのむかし学生闘争時代に活躍していた伝説の活動家が使っていたそうだ。多分この詩はその人が書いたのだろう」


隊長はふんふんと勝手に納得したように目を閉じて頷いている。今﨑は、そういうものかと思いながら押し入れを出た。この寮に住む寮生たちは、語る会の部員というのか活動家の集まりというのか、そっち系、つまり、左よりの人たちが大勢住んでいるそうだ。寮には誰も使ってない部屋が一つあった。どうやらみんなで共有しているようだ。寮生たちが日ごろ使っていない荷物をその部屋に置いているのだが、ほとんどデモ活動の時などに使用する備品置き場となっていた。部屋の鍵の管理は隊長がやっている。

隊長が今﨑に、ちょっと見せたいものがあるというので行ってみた。二階の隊長の部屋のすぐ隣だ。隊長は空き部屋の鍵を開け中に入った。隊長が今﨑を手招きする。見せたいというのはこれだと隊長が指をさしたその先を見ると、細長いケースが三つ部屋の隅に立てかけてあった。楽器のケースなのだろうかと思っていると隊長がそのケースの一つを横にして蓋を開けた。中には細長い袋がいくつか入っていた。ケースの蓋部分の内蓋を開けてみると、そこには細長い棒状の物がスポンジの板にはめ込まれた形で綺麗に並んでいた。1ダースくらいはあるだろうか? 金属の棒は先端が尖っていた。隊長が説明する。


「これは弓だ。某大学から拝借してきたものでアーチェリーというものらしい。つまり狩猟用にも使える飛び道具の一種だ。色々調べたのだが、どうやらこの弓で矢を放つと90m先の的に当てることができるらしい。しかし、いかんせん当大学にはアーチェリー部というものがなく、弓に詳しい者がいないのだ」


隊長はため息まじりに続ける。


「そこで弓の使い方について資料はないかと図書館に行ったり本屋に行ったりしたのだが、これもなかなか見つからない。弓を販売している専門の店はないかと調べてみたら、あった。店の住所を調べて相談しに行き、アーチェリーの説明書か書籍はないかと尋ねたらこの本を勧めてくれた」


隊長は『アーチェリー教本』と書かれた本を取り出した。


「この本なのだが、確かに弓の組み立て方と使い方が書いてある。早速組み立てて、先日試しにやってみたらそこの壁に突き刺さってしまった。軽く引いて放っただけなのにこれほどの威力だ。俺はびっくりしたね。これは我々の活動に運用できるぞ」


隊長は目を閉じ腕組みをして、うんうんと頷く仕草をした。


「しかしまぁ、問題はこの弓の性能を100%導き出すためには相当な技術が必要であることがわかった。そのうち誰かがアーチェリーの技術を習得してこの弓を活用できる日が来るまで保管しておくことにする」

「ちょっと待ってください。某大学から拝借してきたというのは一体どういうことですか?」

「ああ、某大学のアーチェリー部の部室から持ってきたんだ。いやいや決して盗んだわけではない。借りただけだ。われられの活動が終わったらもちろん返すつもりだ」


それは盗んだってことじゃないか。活動って何だ? 恐るおそる聞く今﨑。


「あのー。活動というのは一体どのような」

「国家権力を叩き潰すに決まっているだろう。エアガンでは威力が小さすぎる。このアーチェリーさえあれば90m先の敵を一網打尽にできる」


隊長は得意げに笑みを浮かべた。火炎瓶といい弓矢といい、全く危なっかしい人だ。アーチェリーの技術を習得する人が出てこないことを祈る。


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