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「突撃」2

不安と恐怖が入り混じったままの全力疾走だ。しばらく走ると丘の上には大型のカメラが1台こちらに向けられているのに気がついた。カメラの周りには3~4人の人影が見える。自分たちを撮影しているようだ。全員が丘の上までたどり着くと隊長は右手を挙げて号令を発した。


「突撃やめーっ!」


みんなが立ち止まる。ゼイゼイと息を切らす音があちらこちらで聞こえる。カメラの横にサングラスを掛けた背の高い男がメガホンを片手に腕組みをしている。どうやらこの撮影の監督らしい。監督がメガホンを振り回しながら大声を出した。


「もっと真剣に走れ。そんなんじゃダメだ。もう一回、やり直し」


隊長が振り向いて、苦虫を噛み潰したような顔で学生たちに檄を飛ばす。


「貴様ら何をやってるんだ! そんなことじゃいつまでたっても撮影が終わらないぞ。しっかりできるまで何度でもやるからな。今度は死ぬ気で走れ。トビウオのように勢いよくだ!」


学生たちは一体自分らが何をやらされているのか分からぬまま、元居た場所へと降りて行った。戻る途中、学生の一人が歩きながら隊長に質問した。


「あのー。自分達は今何をやらされてるんですか」

「バスの中で説明したとおりだ。映画の撮影決まってるじゃないか」


うむ、確かに映画の撮影のようだ。丘の上にあるカメラと横にいたメガホン持った人たちが撮影スタッフであるのは分かる。しかし、なぜ自分たちがここに連れてこられたのか意味が分からないのだ。とにかく、今やっているのは映画の撮影であるということだけは分かった。少しだけ不安が解消した。そう少しだけ。

映画の撮影か、無理やり連れてこられた理由はわからないが、撮影ということなのであれば身の危険はないだろう。妙に自分を納得させる今﨑であった。隊長が叫んだ。


「よーし。本日二本目の突撃だ。気合い入れて全力で走れ!」

「はい!」


先ほどの全力疾走で身も心も疲れていながらも、学生たちは気を取り直して勢いよく返事をした。


「よーし。全員突撃ー!!」


隊長の号令とともにカメラのところまで全力で走る学生たち。今﨑も気合が入ってきた。隊長の横をすり抜けるように追い抜き、他の学生たちを尻目に今﨑が先頭へと飛び出した。今﨑は走ることだけは昔から得意だ。小学生の時は市の陸上大会で優勝したこともある。大学生になっても走るのだけは周りには負けない自信があった。全力で走る今﨑の後からは他の学生たちが必死になって追いかけるのだがなかなか追いつけない。そして今﨑が一人だけ一番先にカメラのある場所までたどり着いた。


「カーット」


メガホンを持った監督が怖い顔をしている。


「お前はなにをやってるんだ!? 隊長より前を一人だけで突っ走る部隊があるか!」


今﨑の後から、息を切らしながら隊長以下学生たちがカメラのところまでたどり着いた。隊長がゼイゼイと肩で息をしながら注意する。


「こ、こら。隊列を乱すな。部隊の突撃になってないじゃないか。全員で走らないと絵にならんぞ。もう一度スタート地点に戻れ」


全員また丘を下り、元の場所へとぼとぼと歩いて行った。再度、隊長の合図で学生たちが走り出した。広場は水浸しになっており、所どころドロ水が溜まっている。軍服はすでに泥だらけだ。今﨑は疲労が限界に達してきたのか足元がおぼつかない。泥沼に足を取られて豪快に転び、泥水を飲んでしまった。


「ゲホッ! ゲホォッ!!」


咳をするたびに口から大量の泡が出る。口の中が鉄臭い、血が出てきたようだ。それでも今﨑は立ち上がり、走るのをやめない。思いっきり突っ走る。丘の途中まで来た。目の前にはカメラが迫ってきた。


「カーット!」


監督の声がかかる。


「よし、走り込みの訓練はもういいだろう。次は爆破シーンを入れる」


『爆破シーン』だと? 学生たちの顔に不安の色が漂う。一行は再度元居た場所に戻り、整列した。隊長が叫ぶ。


「よーし、ここからは少しだけ注意が必要な撮影に突入する。俺の後についてくれば問題ない。よし、じゃあ行くぞ。突撃ーっ!」


学生たちが一斉に走りだした。丘の途中まで来ると、隊長が走りながら右手を挙げた。学生たちが何だろうと思っていたら、突然大音響が響き渡った。


『ドッカーッン!!!』


一瞬地面が割れたかと思った。地響きとともに目の前に巨大な土煙がそびえ立つ。地面が爆発したのだ。学生たちが立ち止まる。隊長の口元が緩み何か言いたげな表情で振り向いた。


「ふっ。いいか、これからが本番だ。この丘には数ヶ所、地雷が埋められている。なーに心配することはない、撮影用の地雷だ、威力はさほどない。俺の言うことに従っていれば命だけは助かるはずだ。多分」


隊長がグランドを指さして説明した。


「見てみろ、坂のあちらこちらに少し盛り上がったところがあるだろう。そこに火薬が仕掛けてある。お前らが盛り土の横を通るときにタイミングを合わせて爆破させる。盛り土は絶対踏むな。その周りをさっきと同じように走り抜けるんだぞ。一番大切なのは死なないことだ。死んだ魚は鳥の餌となる。しかし俺の後を付いてくれば大丈夫だ。いいか、わかったな」

「はい!」


学生たちが一斉に返事をする。返事一つするにも、なぜか息がぴったりと合ってきた。不思議なものだ。隊長が叫ぶ。


「突撃ーっ!」


隊長を先頭に学生たちが再度丘の上に向かって走りだした。丘の中腹には少し盛られた土がいくつか確認できた。今﨑は集団の真ん中にいた。学生たちは隊長の後を追うようにして盛られた土を避けながら丘を駆け上がった。隊列のすぐ傍で次々と盛り土が轟音とともに爆風を挙げる。ものすごい土煙が荒野一面を覆いつくす。今﨑は隊列集団の真ん中にいたのだが、後方から走ってきた学生たちに押されるようにして突き進んだ。盛り土が目の前に来た。今﨑の前を走っていた学生たちが次々とその盛り土を避けながら走っている。今﨑もその盛り土を避けようと横へ飛び退いた。と、思った次の瞬間。


『ドッカーッン!!!』


盛り土がものすごい勢いで爆発した。同時に今﨑の体が宙に浮き、泥水とともに吹き飛ばされてしまった。地雷が爆発する瞬間、今﨑は誤って盛り土の端っこを踏んでしまったのである。


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