「突撃」
バス発着所に着くと、バスの横に学生が数名並ばされていた。
「貴様ーっ! さっさと列に並べ!」
ヘルメット男の腕の力がものすごく、今﨑は何の抵抗もできずに学生たちの列の後ろに並ばされた。綺麗に一列に並んだ学生たちが次々に乗車していく。全員バスに乗車し終わると、先ほどのヘルメットの男が最後にバスに乗り込んできた。
「よーし、適当に空いている席に座れ。ふんふん大漁だな、本日の釣果は盛況だ」
バスの中には20名ほどの学生がいた。みんなひどく怯えている様子だ。その中に同じクラスの人が2~3人ほどいた。今﨑が近寄り話しかける。
「どうしたのこんなとこで?」
「知らないよ。今朝大学に来たら無理やりバスに連れ込まれたんだ」
「そこ、うるさいぞ! おとなしくしろ!」
ヘルメットの男が怒鳴る。今﨑達は空いてる席に座った。ヘルメットの男が大声で話し出した。
「このバスは只今より撮影所へと向かう。道中私語は慎むように。以上!」
大学のテラスでのんびりしているところを突然捕まえられ、バスに詰め込まれた。
一体どこへ連れていかれるのだろうかと不安になった今﨑だが、もうどうすることもできない。
ただただ、流れに身を任せるだけだ。ヘルメットの男が再び話し始める。
「諸君にはこれから映画撮影に参加して頂く。何も心配することはない。私の指示に従っておれば死ぬことはない」
??? 一体全体何のことだ? 今﨑の目が泳ぐ。周りの学生たちはみな口をぽかんと開けたままだった。しばらくもしないうちにバスは目的地に到着した。大学からはさほど離れていない。今﨑の通うキャンパスの近くではあるのだが、なんとも広々とした荒れ地だ。こんなところが大学の近くにあったなんて知らなかった。
バスの前列に座っていたヘルメットの男が立ち上がり、振り向いて話し出した。
「よーし、お前ら。バスから降りてあのプレハブの前で集合だ。グズグズするな!」
ヘルメットの男が指差す先には、大きな平屋の建物が建っていた。学生たちがバスから降りると、ヘルメットにタオルマスクの男たちが5名ほどドアの前で出迎えた。手には何やらライフル銃らしきものを持っている。まさか本物でもあるまい。しかしどういう意味があるのだろうか。学生たちは一列に並ばされ、プレハブのところまで連れて行かれた。プレハブの前で今﨑を拉致したヘルメットの男が立ち止まって、学生たちの方に振り返って大声を上げた。
「貴様ら、よく来た。以後、俺のことは隊長と呼べ。今から記念すべき最初の任務を行ってもらう。まずこの建物の中に入って服を着替えろ。人数分そろえてある。サイズは合っているはずだ。そもそも貴様らは体形で選ばれたからな。着替えが終わったら速やかにこの場に集合しろ。以上! 行動開始!」
隊長だと? ヘルメットに軍服姿だし、軍事マニアか何かだろうか。それに体形で選ばれたってどういうことだ? あっ! 今﨑はウッドテラスで声を掛けられた時のことを思い出した。隊長と一緒にいた女の人が『背格好が丁度いい』とか言っていたような。学生たちは隊長に言われるまま、おどおどしながらプレハブの中に入って行った。
プレハブの壁際には服がたくさん掛けられている。ヘルメットの男たちが着ていたのと同じ軍服だ。おまけに服の下には軍靴まで用意されている。部屋の中央には長いテーブルがあり、その上にはヘルメットとライフル銃が置いてあった。ライフル銃と言っても一見して模造と分かるのだが、多分遠目からは本物と見分けがつかないだろう。軍服に着替えてヘルメットとライフル銃を身に付けろということか? バスの中で隊長が『映画の撮影』とか言っていたな。いったい何なのだろうか? 訳が分からず不安と恐怖に駆られて隊長に言われるままになっている今﨑と学生たちであった。ぐずぐずしているとまた怒鳴られそうだ。学生たちは渋々と着替えることにした。軍服に着替え、ヘルメットをかぶった学生たちがプレハブの外に出ると隊長が説明しだした。
「よーし、お前ら。本日は映画の撮影に協力していただき感謝する。貴様らは今から同志である。さあ、まずは一列になって行進の練習からだ」
隊長が掛け声を出す。
「その場足踏み。始めっ! いっちにっ! いっちにっ! お前らも声を出さんか!」
「いっちっに! いっちにっ!」
学生たちが隊長の声に合わせて足踏みをする。
「声が小さーっい! もっと気合い入れろっ!! マグロの群れのように動きを合わせろ」
「いっちにっ! いっちにっ!」
最初はもどかしかった学生たちも、号令に合わせるたび不思議なことにみんなの息がぴったりと合ってきた。人は恐怖を感じた時に同じ動作をすることで安心感を得ようとするものなのだろうか。隊長が続ける。
「全体ー、進め! いっちにっ! いっちにっ!」
学生たちの姿勢が心持ちすぅっと伸びてきたように見える。行進練習と称し、前進、回れ右、敬礼を練習した。この行進練習を10分ほど行ったところで隊長が「全体止まれ!」と大声で号令し、軍靴が地面を踏みしめる音ともにぴたりと隊列が止まった。学生たちの目の前に、もの悲しいほど明るく晴れるグランドが広がっている。無駄に広大な荒れ地と表現してもいい。地面はわざと水をまいたみたいで、土の表面が濡れている。所どころ水たまりもあり、場所によっては水の量が多くなっており、足を取られそうなくらいの泥沼になっていた。隊長が大声で叫ぶ。
「よーし、貴様ら。今から俺が合図したら丘の上に向かって全力で走れ。いいか、突撃ーっ!」
突然隊長が走り出した。なんだ? 突撃というのは? 一体全体何をやらされているんだ俺たちは。と思いつつも今﨑たちは訳がわからないまま緩やかに傾斜したグランドを隊長のあとに続いて走り出した。