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「本当にあったお話」、最終回。

 何を言っているのだろうか? 酔っぱらいの譫か。しかし、今の今﨑にとっては藁をも掴むような話だ。でまかせでもいいじゃないか。

今﨑は「わかった」とだけ言って、二人は繁華街を後にした。今﨑は自宅に帰ってからそのページを一生懸命覚えることにした。梶川はこの「ページの章」と言っていたな。大した量ではない。気休めだとも思ったのだが、今﨑は何となく気持ちが落ち着いてしっかりと勉強することができた。

今﨑はあの時梶川から言われた通りに実行し、その二か月後に試験が行われた。公務員試験本番。今﨑は答案用紙を見て驚いた。梶川が放り投げて落ちて開いたページの内容がそのまま問題として出ていたのである。しかも全問題の4分の1にも及んだ。

試験を受けている今﨑は鳥肌が立った。

解ける、解けるぞ。問題が全てわかる。思わず目頭が熱くなる。今﨑はそっと目を閉じた。あの日、公務員試験の参考書を放り投げた梶川の姿が眼瞼に浮かんだ。今回の試験の内容として、そこの項目だけが難しかった為、受験した他の人はあまり出来なかったようだ。今﨑はその項目はすべて解くことができた。試験の結果は本人も驚くほどだった。奇跡的といってもいいだろう。今﨑は無事合格することができた。今回今﨑が受験した公務員臨時試験での合格者は今﨑を含めた2名だけであった。


 公務員試験に合格してから5年がたった桜咲く日の休日。今﨑は自宅から少し離れたところにある公園に行き、そばにあったベンチに腰を下ろした。遠くのベンチでは若いカップルが仲良く話をしている。きっと、見るものすべてが輝いていることだろう。

 しばらくすると公園の喧騒に混ざって元気な掛け声が聞こえてきた。近くの大学の運動部だろうか? 5~6人ほどの男子学生が一列になってランニングをしていた。先頭を走る先輩らしき人がその後ろから付いてくる後輩たちに激を飛ばしている。未来への不安を感じさせない、『今』という瞬間を生きる若者たちの姿があった。

今﨑はふと、自分が大学に入学して早々拉致された日のことを思い出した。

隊長は今も魚河岸で元気でおられるのだろうか?

富山の木工所の社長やそこで知り合った仲間たちはどうしているのだろう?

休日にいつも来ている近所の公園なのだが、なんだか家からこの公園に来るまでに随分と遠回りをしたような気分だ。今﨑の後ろから声がした。

「あなた、やっぱりここに来ていたのね」

振り向くと妻がいた。近くの自販機で買った缶コーヒーを二つテーブルに置く。

「ありがとう」といいながら今﨑は缶コーヒーのプルタブを開けて一口飲んだ。

優しく微笑みかける妻の愛くるしい瞳に、きりっとした眉毛。

今﨑はふと思い出した。

「資本主義という幻想から生まれた飲み物も木洩れ日の中で飲むと最高だな」

雅美は照れくさそうにふふと笑う。

今﨑と北岡がふと空を見上げると、白い雲がぽっかりと気ままに流れるように浮かんでいた。


             終わり


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