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木工職人の道はけわしく、一人前になるのに10年って。

(パチパチパチパチ)

 木工細工体験会に来ていた女性たち・家族連れからたくさんの祝福と拍手をいただいた。とても喜んでもらえたようだ。

 冬になった。雪がちらつきだしている。簡単なプレハブ作りの寮はこの寒さが堪える。だがスキーのインストラクターができるという当初の目的があったので、みんなはとてもこの冬を待ち遠しく感じていたのだ。降りすさむ雪の量も日ごと多くなり、待ちにまったスキーシーズンになった。観光客が押し寄せると同時にスキーのインストラクターの仕事も引く手あまただ。匠興業はインストラクター派遣を仲介する形でスキー場の管理事務所と契約している。木工所の職員5名は当然木工場の仕事を兼務しているので、2~3人ずつローテーションを組んでインストラクターの仕事に出た。インストラクターの日当は3000円なのだが、やはり指導するのは楽しい。心境からすると、水を得た魚。いや、雪山を颯爽と飛び跳ねる雪ウサギといったところだろう。

5人は毎日インストラクターの仕事で忙しい日々を送っていた。指導の空き時間は少ないのだが、スキーのお手本がてらウェーデルン、シュテムターン、パラレル、プルークなどを披露する。指導をしつつ自分でスキーを滑る楽しさを味わうことができるのだ。なんとも夢のような仕事なのだろうか。指導する相手は小学校1年生から60歳くらいの年配の方まで幅が広い。時には若い女性だけのグループも参加するので、インストラクターの若者5人にとってはとても楽しい時間であった。

スキーシーズン中は木工所の仕事は夜にやることになっている。スキーの指導に行く者が3人の日は、木工所で作業するのは2人だけとなる。師匠にあたる社長もむかしスキーをやっていたそうで、スキーインストラクターの気持ちが分かるのか、インストラクターの仕事に支障がないように、この時期の木工作業は少なめにしてもらっている。そもそも5人とも大した技術を持っていないので作品と言えるような木工品を作るにはまだまだ及ばない。簡単なイスや簡易なテーブルを作るので一生懸命だ。日中のインストラクターの仕事は夕方には終わる。この時期は日没が早いので最後のクラスが終了するのは大体4時くらいだ。スキー指導に行った者はすぐに木工所に戻って5時から仕事を始める。木工所作業組は通常の5時に作業を終えて先に寮に帰る。スキー指導組はその日の作業は少なめで、大体8時までだ。

今﨑はスキー指導が楽しくて仕方ない。木工細工も段々慣れてきた。それはそれでいいのだが、問題は収入だ。スキーのインストラクターが日当3000円。木工所の収入は月に14万円といったところだ。将来賃上げがあるようにも思えない。そもそもそのような契約自体がなされていない。そんなことをおぼろげに考えていた今﨑は、ある日作業室にいた社長にふと訪ねてみた。


「あのー、社長。この作業をやっていて一人前になるのってどれくらいかかるんですか?」


すると社長は気難しそうな顔しながら答えた。


「おう、そうだな、ノコギリの扱いに3年。鉋をかけるのに3年。のみの使い方が一番難しくて、4年ってところだな。木の素材の目付けにも感性ってーのが必要だ。木材というものは日がたつにつれて状態が変わっていく。季節や温度・湿度を計算に入れながら加工しないといけない。細かな指先の感覚で木の性質を感じられるようにする。それらを覚えて一人前の仕事ができるようになるまでは、まあ、ざっと10年ってところだな」


10年。大学を卒業してまだ幾月もたっていない今﨑にとっては長い道のりに感じる。と同時に不安になる。10年か。ということは、当然それまでは丁稚奉公的な生活を10年間続けることになる。今﨑は腕組みをし、片手で顎を支えて考えた。そもそも木工所で仕事をするためにここに来たのではなく、スキーのインストラクターをやるために来たのだ。いつまでもこんな丁稚奉公のような仕事をやっていても生活が安定しない。かといってインストラクターの仕事だけでは食べていけない。社長には感謝している。しかし、自分の今後の生活に不安を感じるのは確かだ。

今﨑は考えた末、東京へと戻る決心をした。冬も終わりに近づいて、森の木々の梢に小さい芽がちらほらと付きだしている。今﨑が富山に来て1年が経とうとしていた頃だった。


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