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第4話 ざまあヒロインとエロマンガ

 放課後。

 中間テスト初日を終えた私は、帰り道にある本屋にやってきた。

 なんとなく家に直帰したくなかったのである。

 あの小金井にノートの件で散々バカにされたし、肝心のテストも序盤でド忘れした問題があって、それを思い出すために10分近くも無駄に使ってしまったのだ。

 お陰で全問解けずじまい。

 いつもより点数は低いだろう。

 これも全部小金井のせいだ。


 クソ……!

 ノートなんかで内木の心を惑わしやがって……!

 ゆるせん!


「クギィイイイイイッ!」


 私が歯をむき出しにして、ダイエットに関する最新の知見が載っているらしい健康雑誌を立ち読みしていると、


「ウフフ。そうですね……!」


 どこかで聞いた女の声がする。


 このいかにもいい子ちゃんぶった声は!?


 そう思い、声がした方を覗き込む。

 すると店の奥にあるマンガコーナーに高校生の男女が居た。


 小金井と……あれは内木ッ!?

 なんであの2人が放課後一緒にいるのよ!?

 まさかデート!?


 私は興味を引かれずにはいられなかった。

 慌てて本棚の奥に隠れつつ、ダイエット雑誌を広げ、顔を隠しながらのスニーキングミッションを開始する。

 やがて内木が一冊の本を手に取った。


「あ、このマンガ俺大好きなんだけど……」


 言いながら、小金井にその本を見せる。


 なッ……!?


 こと内木の事に関してなら、視力が10倍になる私だから確認できた。

 奴が手に取った本のタイトルは『H・AREMエッチ・アレム』。

 ハーレムをもじったタイトルの通り、思春期真っ盛りのバカな童貞男子どもがこぞって買う少年誌の皮を被ったエロマンガだった。

 知的で高潔で高尚なこの私には全く面白くない内容だけれど、他ならぬ内木が好きなマンガだから必要最低限の知識だけはある。


 それはともかくアイツはバカか!?

 女子になんてもの見せてやがる!?


 一瞬で激昂した私は、速攻で内木をしばき倒しに行こうとした。

 だが止める。


 待て。

 むしろこの状況は好ましい。

 だって男子ですらドン引きしかねないそんなディープ趣味のマンガ、この私以外の女子が見たら即発狂して通報するもの。

 きっと小金井もドン引きして内木のことを嫌いになるに違いない。


 小金井め!

 思春期陰キャオタク男子の邪な欲望を目の当たりにして戦慄するがよい!

 ウワハハハハハ!!


 そう思っていた私だったが、


「あ、私もこの作品好きです。

 ヒロインのアレムちゃんがめちゃくちゃ可愛いんですよね」


 小金井は平然とした態度で内木の手からマンガを受け取り、その小さな花のような顔に女神然とした微笑みを湛えながら言った。


 な……ッ!?

 なぜアイツは平然としていられるッ!?

 エロ漫画なんだぞ!?

 下品だとか思わないのか!?


 私が驚いている間にも、2人の会話は進む。


「そうそう!

 アレムって正直ワガママで、主人公を振り回しまくるんだけどそこがカワイイんだよ!

 主人公もなんだかんだアレムのこと好きで!」


「そうですよね。

 うふふ。

 内木さんの愛を感じます」


 くそ……!

 内木の眼が今まで見たこともないくらい輝いてる……!?

 小金井との会話が本当に楽しいんだ……!

 このままじゃヤバい……!


 そう思った私は、最終手段に出る事にした。

 2人の間に割って入り、小金井では絶対についていけないマンガの話をするのだ。

 幸いなことに私は『H・AREM』よりもキワドいマンガを知っている!

 その話をすれば、きっと内木を独占できる!


「フンフンフーン♪

 アラァ!?

 お二人さん奇遇ね!?

 私もマンガ買おうかしら!?」


 言いながら2人の間に割って入った。

 そして1冊のマンガを手に取る。


 タイトルはずばり『MC令嬢はわからされました』。

 ワガママなヒロインをハードに扱うのが特徴のラブコメで、作家も元エロマンガ家だ。

 正直少年誌ではやりすぎってくらいの内容で、エッチ差に関しては『H・AREM』など足元にも及ばない。


 どうだ内木!

 こっちの方が変態のアンタにはポイントが高いでしょ!?

 きっと目を輝かせて私と話をしてくれるはず!


 そう思っていたら、


「へえ……!

 鎌瀬さんって、そういう本好きなんだ……!」


 内木が一歩引いた感じで私を見て言った。


 あれ……!?

 もしかして知らない?


 それだけじゃない。

 気付けば私達の近くに居たモブ女子高生どもが、遠巻きに私を見てヒソヒソ話をしている。


「うわなにあの子」

「すごいエッチなマンガ読んでる……!」

「変態じゃん」

「キモ……!」


 更には、書店員までもが私の事を汚物でも見るような目で見ていた。


 ……………………。


「ちがああああああああああああううッ!!??」


 余りの恥ずかしさに、私は威嚇するクマみたいな調子で両手を高く掲げ叫ぶ。


「違う違う違う違う断じて違ああああああああうッ!!

 たまたま手に取っちゃっただけだし!!

 こんなモンに興味あるわけないから!?

 っていうか何よこのマンガ!?

 成年誌ってやつかしら!?

 私初めて見たわよ!!

 ねえ内木!?

 そうよね!?

 ヴァホホホホホホホホホホッ!!!!」


「…………」


「なんで黙ってんのよおおおおおおお!?!?!」


「い、いや知らないし!

 鎌瀬さんこういうのいつも読んでるんじゃないの!?」


「いつも読んでるわけねえだろコロすぞおおおおおおおお!!?!?」


 私は両手で内木の肩を掴んでガタガタ揺らし叫んだ。


「あの。鎌瀬さんはこの作品のどういう所がお好きなんですか?」


 すると、隣に居た小金井が聖人みたいな笑顔を浮かべて尋ねてくる。


 小金井テメエは黙ってろ!!?


 結局その日は買いたくもないエロマンガを買わされた挙句、ファミレスに連行(2人きりにするわけにはいかない)されて、私には一ミリも理解できない2人のオタトークに付き合わされることとなった。


 なんなんだこの地獄はあああああ!!??

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