5話 絶対勝てない存在と疑問
あぶねー忘れてた
声の大きさと広がり方からして俺とはかなりの距離があると分かる。
天と地がひっくり返っても勝てる相手ではないと本能が警鐘を鳴らしている。ならば声の主から逆方向に逃げるしか俺が生き延びる方法はないだろう。
「声がしたのは山の頂上から、たぶんだけど頂上に近づくにつれて魔物の強さが上がっていく気がする。だとすると相当ヤバイやつだよな......」
この山ではあまり強くない部類に入る黒い狼ですら俺の全力の魔法を当ててもすぐ凍死とはならない。
今の俺の魔法が弱すぎるのか、それとも魔物側の防御力が異常なのかは分からないが頂上付近の魔物ともなると効くかどうかも分からない。たぶん効かないと思うが......
「この数時間魔力を節約してたおかげで広範囲の魔法を使えるくらいには回復してきたし、途中で山頂付近の魔物でもない限りなんとかなるかな」
そう思うのには幾つか根拠があった。それは魔物から逃げるだけだったのになぜかステータスの敏捷が上がっていた。逃げられなければ死ぬと分かっていたからこそ死ぬ気で走っていただけなのだがそのおかげなのかもしれない。
スキルも長時間ずっと隠密を使っていたからかレベルが上がっていた。隠密は周りから姿を消すというより気配を薄くするといった方が正しいのかもしれない。スキルレベルが上がるにつれて魔物から気付かれにくくなっているのが分かった。
しかしまだまだこの周辺の魔物を欺くには足りない。もしかしたら俺の隠密を探知できるようなスキルを持っているのかもしれない。
名前 :天ヶ瀬雪人
称号 :なし
状態 :疲労
レベル:4
HP :23/27
魔力 :52/73
筋力 :18
敏捷 :25
器用 :14
スキル一覧
[精神耐性]レベル3 [魔力操作]レベル3 [鑑定]レベル3 [アイテムボックス]レベル2
[剣術]レベル1 [隠密]レベル4
鑑定のレベルも上がったが今のところ見ることが出来るのは相手の名前だけ。ステータスやスキルを見ようと思ったら更にレベルを上げる必要があるのだろう。ちなみに俺が倒した狼の名前はブラッドウルフだった。黒い狼も全く名前が同じだったが毛の色が違うだけで種族自体は同じだったのだろう。しかし強さも他の狼とは違いすぎると思うがどうなのだろう
「残り魔力は52か、かなり回復したしさっさとこんな死の山みたいな場所とはおさらばしたいところだ。あ、ついでに隠密のレベルも上がればいいなぁ」
今思えば貰ったスキルより自力で手に入れたスキルや魔法の方が役に立っているよな。
街についたら役に立つと思うけど今欲しいのは生き残れるスキルだ。
もしも最初からこんな危険な場所に飛ばされると分かっていたら違うスキルを貰っていたかもしれない。あの時の俺はなんであんなに簡単にスキルを選んでしまったのだろう。死んだら過去の俺を恨むとしよう。
「さてと、さっさとここから離れよう。ちょうど雨も降ってきた。隠密もしやすくなるだろうし移動するには今しかない」
「まぁ待て、久しぶりの客だ。もう少しゆっくりたらどうだ?」
後ろを振り返るとそこにはブラッドウルフと同じ大きさの銀狼がいた。
しかし違うのは毛の色だけではない。身に纏う濃密な死の気配は、それだけで人を殺せるのではないかと思うほどに強烈だ。
そして何より異常なのは人の言葉を話しているということ。
「何で、人の言葉を話せるんだよ......」
「永く生きているモノは人の言葉を話すくらいできるぞ。この神麗山にも何体か話せるやつはいる。それにしてもよくその実力でこの山に来ようと思ったな?ここにはランクC以上の魔物しかいないんだぞ。どう見てても自殺をしに来たとしか思えんな」
「いや、来たくてここにいるのわけではなくて......目が覚めたらここにいたんだ。ここから出れるのならすぐにでも出たいよ」
ティア様......異世界に連れてきてくれたのは感謝してるけど、ランクC以上しかいない想像以上にやべー場所に転移させないでくださいよ。
この狼?さんが話せる魔物だったからまだいいけど、話しが通じなかったら俺死んでたよ!?
すぐにレベルが上がるような環境を選んだのか分からないけど、限度ってものがあるから!最初はもっとこうスライムとかゴブリンを相手にするのが普通じゃない?
どおりで勝てる気がしないような魔物だらけだよ。実は俺ティア様に恨まれてる?でないとこんなことしないよね?実は転生神ではなく邪神説が出てきたぞ。
ま、かわいいから邪神でも気にしないけどさ
目の前の狼?さんが俺の顔を見つめる
「目が覚めたらか......どうやら自殺志願者ではなさそうだし嘘ではないのだろう。だが隠していることもありそうだ。」
えぇ......そんなことまで予想ついちゃう?かなり長生きしてるみたいだしなんとなく分かっちゃうのかな?
話していると人と話しているように感じて魔物だということをつい忘れてしまいそうだ。
「隠していることなんて何もない。それより1つ聞きたいことがある。お前は俺の敵か?」
「言ったであろう。ゆっくりしていけと、敵だったらとっくに殺して喰ってるわ」
敵ではないようで安心した~もし敵なら逃げることすら不可能だっただろう。
「ゆっくりしたいけど、俺の実力分かっんだろ?気を抜けるような強さを持ち合わせてないんだ」
「安心しろ。儂がいる。儂がいる限りここには誰も来ないわ。人間なんて滅多に来ないから話し相手になって欲しいだけだ。満足したら人の街まで送ってやろう」
「えっ、いいの!?助かるわ~狼さんいいやつなんだな!俺ここで死ぬかと思ってたよ」
「儂は狼なんて小さい存在ではない。シルバーフェンリルだ!」
「フェンリル!?なんでそんなやつがここにいるんだよおかしいだろ!」
「おかしいのはお主の方だ!神麗山と言ったであろう!その名のとおり神のため綺麗な山だ、儂らのような存在がいてもおかしくあるまい」
おかしいよおおお!何でフェンリルが転移して初日に会うのおおおおお!いくらなんでもそりゃないよおおお!
ゲームだとラスボスでもおかしくないような魔物がなんでここにいるんだよ!
「お主何も知らないんだな。どうせ暇だからな儂が知っていることを教えてやろう」