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運命の番は呪いか祝福か?  作者: 重原水鳥
妹・雪菜と運命の番
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 アリステラ殿下一行の出立は早まった。当たり前だ。屋敷内に危険な存在がいるというのに、長く滞在している訳にもいかないだろう。


 侯爵家に対する、正式な罰はなかった。

 最終的にはブラッドリー殿下がアリステラ殿下の瑕疵になるような出来事は出来る限りなかった事にしたいと望んだ事。

 伊空王子が、自分と同じく運命の番が人間であった雪菜に対して同情的な態度をお父様に見せていた事。

 そして、私や雪勝お兄様が雪菜の凶行を止め、乳母の独断を即座に罰したことなどが、考慮されたらしい。


 雪菜の乳母は命を落とした。あの後、まともな治療もされず、出血多量で亡くなったとの事だ。

 確かに雪菜に仕えてはいたものの、雇い主はお父様。だというのに彼女はお父様の指示に従わず、危うく凍狼侯爵家を危険にさらすところであった。彼女一人の命で許されたのは、奇跡だっただろう。もしブラッドリー殿下に傷が少しでもついていたならば、乳母の家族も共に首を落とされていたはずである。


 そしてアリステラ殿下たちは早々に出立する事になった――のであるが。その前に、ある出来事が侯爵家の屋敷内で行われた。



 ブラッドリー殿下と雪菜が、会話をする場が設けられたのだ。



 どういう意図で開催される事になったのか全く知らないまま、ブラッドリー殿下と雪菜、そして何かあった際にブラッドリー殿下を守る伊空王子の手勢と、雪菜を抑える侯爵家の騎士たちが揃う中で二人は、初めての真面な会話をする事になったのだが……この対話は、雪菜への決定打となった。


 詳細な対話は、私も直接は聞いていない。しかし対話が始まってから少しした後、屋敷を震わせる雪菜の絶叫が響いた。そして二人の対話は終わった。


 後から、その場に居合わせた騎士たちから報告を受けた憔悴したお父様から、ブラッドリー殿下が雪菜に伝えた内容を聞いた。


「たとえ貴女が権力を使って私の妻に収まったとしても、私は貴女を愛さない。一生貴女を愛さず、見る事もせず、私の愛は貴女以外のものにだけ注がれる」


 彼はそんな内容を、雪菜がどれだけ否定しても、何度も、何度も、何度も、伝え続けたのだという。


 番と伴侶としている獣人たちは誰もが、顔色を悪くしていた。お父様も、話を聞いたお兄様もそうだった。


 ……一応、ブラッドリー殿下としては嫌がらせのつもりはなかったらしい。

 恋だ愛だと名がつく男女の関係に応えるつもりがないのであれば、一切の未練もなく切り捨てた方が良い――ブラッドリー殿下のそうした考えから、雪菜は隙が全くないほどに、振られる事になったのだ。


 ブラッドリー殿下から「お前を愛する事はない」というニュアンスの言葉を何度も、受け入れるまで告げられた雪菜は叫びまくり、最後には気絶した。

 そして目を覚ましてからのあの子は、抜け殻のようになってしまった。

 話しかけても反応しない。触っても抵抗もしない。自発的な行動は何もしなくなってしまった。

 牡丹先生はその状況を、「番に拒絶されたショックから来る自失状態」と判断した。


 屋敷の誰もが雪菜に同情しただろう。どうしてこんな事に、と嘆く侍女たちも多かった。雪菜は明るくてかわいくて、侍女たちからもとても愛されていたから。

 けれど雪菜はあと少しでブラッドリー殿下を傷つける可能性が高かった。それを、侯爵家当主であるお父様は簡単に許すわけにはいかなかった。


 アリステラ殿下たちの出立の時、雪菜は当然いなかった。雪菜以外の侯爵家の面々に見送られ、アリステラ殿下たちは出立する事になったが、出立直前、アリステラ殿下は私の手を握りながらこう言った。


「セッカ。王都に来る事があったら、手紙を出してちょうだい」


 アリステラ殿下の言葉に、私はなんとかほほ笑んで、頷いた。





 ――こうして私の妹、雪菜と、彼女の運命の番にまつわる事件は終わる事となった。

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