表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の番は呪いか祝福か?  作者: 重原水鳥
妹・雪菜と運命の番
40/44

28

 どうして?

 雪菜はお父様からの決定もあって、ブラッドリー殿下たちが出立するまでの間、閉じ込める事が決まったはず。厳重な警備で監禁されているはずだ。いくら身体能力に優れる獣人といえども、若い女性では太刀打ちできない者たちが控えているはずだ。


 いや、それよりも……実際に目の前にいる雪菜に、違和感が出る。


(匂いが、ない……? だからあの子がこんなに近くに来たのに、私は気づかなかったの?)

「ァ…………ア…………」


 雪菜は途切れ途切れの声を上げながら、動く(しかばね)のように一歩ずつ、近づいてくる。実の妹のハズなのに、得体のしれない化け物のように見せて、尻尾が膨らむ。


「雪菜ッ! 去りなさい。貴女はお父様から、部屋から出るなと命じられている筈よ!」

「つが、い、……わ……、……つが……」

「雪菜ッ!」


 声を張り上げて威嚇するが、妹には私の声など届いていないのだろう。雪菜が被りを振る。いつも、「綺麗に梳いて貰ったのよ!」と自慢気に見せてくれていた髪の毛が、バサバサと音を立てた。大切にしていた髪の毛を、今の雪菜は意識もしていないとわかる。


 うつろな目が、こちらを見る。けれどそこには、私は映っていない。映っているのは、私の隣にいるブラッドリー殿下ばかり。


 だからなの? だから私の声が、届かないの?


「雪菜……!」

「つがい、つがいつがい番番番ィ――――!!!」


 雪菜が叫ぶ。遠吠えのように、彼女の声が屋敷中に響き渡る。


 かちゃ、という金属音がした。視線は向けなかったけれど、ブラッドリー殿下が腰から佩いている剣に手をかけた音だと分かった。


 瞬間、私は勢いよく正面にいた妹の腹部に突進した。雪菜の視線が、ブラッドリー殿下にばかり向いていたのが、幸いした。

 以前の時はブラッドリー殿下がその場にいなかったから、私の体についた僅かな匂いに反応したのだろう。今は、大本であるブラッドリー殿下がいた事で、横にいる私の事は最初から眼中になかったお陰で、雪菜はアウトドアを殆どしない私でも対応出来るほどに、油断だらけだった。


「ギャンッ!!」


 飛びついた勢いのまま、いくばくかの距離を、地面を転がりながら移動していった。その動きが止まると雪菜はすぐに起き上がってブラッドリー殿下の方へ向かおうとしたが、私は絶対に離すものかと、しがみつく。


 遠くで、危険を知らせる遠吠えが響いた。お兄様が発したものだ。


 私一人がしがみついているのに、雪菜はブラッドリー殿下の元へ向かおうと必死に手を伸ばし、身をよじり、地面を這う。


「雪菜、お願い、雪菜っ、落ち着いて。しっかりして!」


 私たちの聴力を思えばうるさすぎるほどの声でそう叫ぶが、雪菜には届いていないらしい。


 ずり……。

 ずり……。


 もはや人語にはなっていない音を発しながら、動こうとする雪菜を、必死に押しとどめようと私が奮闘していると、お兄様が私たちを呼ぶ声が近くで聞こえた。


「雪花! 雪菜!」


 こちらに駆けてくるお兄様が叫ぶ。


「雪花、離れなさい!」


 お兄様の声に、私は雪菜を掴む手を離す。瞬間、雪菜は私の体を弾き飛ばすようにして起き上がった。しかし雪菜がブラッドリー殿下に向かって直進しそうになったその瞬間に、妹に対するものとしては容赦がない一発の拳が、雪菜の顔面に直撃した。


 地面に倒れ伏す私の頭上を、雪菜の体が飛んでいく。そのまま勢いよく、庭の整えられた花壇の上に雪菜が落下する無情な音が、庭に響いた。


「ハァ、ハァ、ハァ」


 急いで川を飛び越えてきたのだろう。お兄様は犬歯をむき出しにしながら、荒く呼吸をしていた。私は私で、上体だけ起こした体勢のまま、どうするのが正しいかもわからず硬直していた。


「――これは、どういう事だ?」


 そんな私たちの元に、伊空王子の声が、冷たく響いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ